彼女と彼
まるで部屋中の時計の針が全て完全に止まってしまったかのよう。
桜花が過去を話し終えてからどれだけ時間が経っただろう。たった数分の時間のはずが、数時間だったのか、それとも一瞬のことだったのか。頭の時間軸が完全に乱れに乱れていた。
「なぁ……、桜花……?」
次にどう声を掛けるべきなのか、それすらもまともに思いつかない。頭の中に思い浮かんだ言葉が、次々と姿を現し、そして消えていく。あれも、これも、全部違う。
そうか。だからダメなんだ。俺はやはり桜花を妹になんてできない。
俺が次の声を掛けられずにいると、桜花は小さくふと笑ってこう呟いたんだ。
「……だからバカなんですよ、タイシくんは。ちゃんと顔に出して困ってくれるから」
誰がバカだって? だけどそう吐き出された桜花の言葉に俺はなぜか救われた気がした。
「そうやってわたしの前でもちゃんとだらしなくて、ちゃんと頼りなくて」
「……おい」
喧嘩売ってるのか?
「お兄ちゃんぶろうとして、全然お兄ちゃんできてないタイシくんのことが……」
桜花は再び顔を上げて、俺の顔をじっと見上げる。
妹のような甘えた顔……のはずなんだけど。
「わたしは、そんなタイシくんのことが大好きです」
……はて。俺はその言葉の解釈に、なかなか理解が追いつかなかった。
「あ、変な意味じゃないですよ。なんとなくそんな言葉が出てきてしまっただけなんですから」
なんとなく……ねぇ。変な意味ではないってのは、ようは人間としてってことかな。
それ結局どういう意味なんだ???
「気兼ねなくって言いますか、わたしもタイシくんといるとバカでいられるとでも言いますか」
「つまり俺のことはやはりバカだと」
「事実そうですよね? わたしより成績も下ですし」
「それを学年一位に言われても俺が何も感じないのは当然だよな?」
「でも春斗君はいつもわたしより成績上でしたよ?」
「……まぢか」
確かにやばいなその家族。確実にやばい。
「それでも……」
桜花は黒真珠の瞳をぱちくりさせた。再び俺の方をぱっと見上げる。
そこには季節外れの桜の花が咲いている気がした。もう五月だと言うのに。
俺もそれを壊さないよう、静かにそっと彼女の顔を見返す。
どうして俺は彼女を、妹と思えないのだろう。
どうして俺は彼女を、それでも妹なのだと再認識しようとするのだろう。
「これから一生、わたしのことを守ってくださいね」
ああ。桜が咲く前にも似たような言葉を聞いたな。
そう想いながら、俺は彼女の肩を再び軽くきゅっと抱き寄せたのだった。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
浅川春斗: 桜花の双子の実兄。霜宮とも仲が良かった
嵯峨野千鶴: 泰史の母。意外にも土日は絶対仕事しない
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
終幕。お疲れ様でした!
思ったよりだいぶ重たい話になってしまいました。反省!!
この続きは、もう少し明るい話にしていく予定でいます。
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カクヨムでも連載しています
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