苦笑の向こうがわ
船が創り出す波しぶきが青い海の中で砕け散り、そのまま溶けていく。鴎は近づいてくるモーター音に驚いたのか、不満をぶつけるかのように船と並行に飛び続けていた。
俺は、桜花へ言いたいことが山ほどあった。
いつまで霜宮の胸の中に埋もれてるんだとか、自分の実の両親にちゃんと挨拶しなくていいのかとか、霜宮のその胸じゃ硬いだけだろとか……いやそんなことはどうでもよくて。いいのか?
「なぁ。お前はここにいてもう大丈夫なのか?」
と、俺は桜花にではなく、霜宮に声をかけることにした。つまりめんどくさい性格なのは桜花だけじゃない。正直俺も霜宮も似たりよったりだ。そう自覚してるつもりではいる。
「ええ。桜花の両親に挨拶したら少し捕まってしまっただけだし」
「そっか……」
桜花を胸に抱えたまま、霜宮は俺と木箱の間に腰を下ろす。霜宮が来るまで俺と桜花の間にできていたスペースがちょうどそれくらいの空間だったということ。思わず俺も霜宮も同時に苦笑いしてしまう。もっともその理由は別ものなのだろうが。
なお桜花はというと、ちゃっかり霜宮の膝の上に乗っかってしまう。顔は相変わらず霜宮の胸の中なので、やはり表情の向こう側を読み取ることはできない。
「最近の桜花のことを沢山聞かれたわ。もっとも貴方と違って同じクラスじゃないから、そこまでちゃんと答えられたか自信はないけど」
「なんだかんだ桜花のことが心配なんだな。てゆか霜宮はあの両親とも知り合いなのか?」
「ええ。私は中学の頃は春斗君と同じクラスだったから。春斗君の家へ遊びに行くとそこに桜花もいて、だから一緒に遊ぶことが多かったのよ」
「なる……ほど?」
そうか。春斗君と同じクラスだったからその家へ通うとそこに桜花がいたと。
……何気に聞き捨てならない話を聞いてしまった気がするのはきっと気のせいだよな?
「三人で仲は良かったのよ。これでもね」
霜宮の意味深な苦笑は、俺の苦笑いをも誘ってくる。てかさっきから苦笑いしかしてないぞ。
「だから……さっき桜花は自分で全部背負うとかなんとか宣わっていたけど、私の本音は冗談じゃないわって。その責任は私にもあるんだってこと、少しは理解してくれないと本当に困るわ」
と、桜花の頭の優しく撫で撫でしながら、霜宮はそんなこと宣う。本当につくづくめんどくさい。こじれすぎてるだろって。これって桜花の耳に届いてないこともないだろうし、霜宮の手の温かさだって十分届いているはずなのに、桜花ときたら相変わらずぴくりとも動かないんだ。
寝てるのか……? いや、寝たふりしてるつもりかもしれない。
「でも、だから貴方が少し羨ましい」
そして霜宮は俺の耳元でそう囁いた。少し甘酸っぱく、毒めいた声で。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
浅川春斗: 故人。桜花の双子の実兄
読んでくださり、ありがとうございます。
幼馴染っていいですね。(意味深?)
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