義兄と友人と
母が運転する赤い車は相変わらず淡い青色の海沿いを駆けている。
そんな中、ふとした話のきっかけで湧いて出てきた、霜宮と俺の妹の関係。
「もしかして嵯峨野英葉さんって、冬に一度帰国してるのではないかしら?」
「あぁ〜。確かに……」
なるほどそのタイミングだったか。英葉と父は冬休みになると二人で帰国し、久しぶりに再開した家族四人で今年も正月を迎えていた。だけど英葉は家でじっとしているのが嫌いなのか、必ず毎日と行っていいほどどこかへ出かけてしまう。冬休み中、家に籠もって本を読んでた俺などとは大違いってやつだ。
「海沿いを散歩してたら偶々英葉さんと会って、その時に……」
すると霜宮は急に俺の顔色を伺ってきた。どういうわけか霜宮は急に気恥ずかしそうな顔を浮かべ、俺と視線が合った途端ぱっと目を逸らしてしまう。……おいなんだ今の態度は。
「……なんでもないわ。貴方の話なんてそんなとこでするはずないじゃない」
「待て。今のその反応、絶対俺の良からぬ話を二人でしてた反応だよな!?」
「大した話じゃないわよ。英葉さんにめんどくさい兄をよろしく頼まれただけ」
「だから何の話をしてたんだよ!!」
が、大方の予想はできてしまった。兄である俺に何かとちょっかい出してくる英葉のことだから、見た目いかにも友達の少なそうな霜宮を見かけて声を掛けたところ、何を間違ったかそんな話の流れになったのだろう。……何それ。俺と霜宮が似たもの同士だって言いたいわけ? 気持ちはわからんでもないけど、俺こんな気難しい性格してるつもりないんだけどな。え、本当にそうか?
「あはは。英葉もなかなか人を見る目があるじゃない。ね、桜花ちゃん」
「え……?」
母は突然話に割りこんできたかと思えば、唐突にその話の矛先を桜花の方へと向き変える。今日も朝起きた時からずっとぼおっとしていたような桜花は、やはり話が完全にすり抜けていくだけのようだった。
「ごめんなさい。ちょっと話を聞いてませんでした……」
「別に気にしなくていいのよ。桜花ちゃんは泰史と違って友達も多そうだしね」
丁寧に詫びる桜花に、母は淡々と桜花へ質問を返した。ただぽかんと首を傾げる桜花であったが、母は運転に集中してるのか、ポーカーフェイスで前を向いている。
「わたし、そんなに友達は多くないですよ……?」
てゆか母、桜花もそれなりに友人が少ないって話は知ってるはずなのだが。
「そんなことないでしょ。桜花ちゃんには霜宮さんもいるし、今は泰史だっているんだから」
「今は…………」
俺が心の中で引っかかった言葉と、桜花が小さく呟いた言葉が思わず重なってしまう。俺が引っかかったのは言葉の意味そのものではなく、言葉が出てきたタイミングのことだ。
「わたしにとってタイシくんは義兄だし、霜宮さんは同じ部活の…………」
そこで桜花は次の言葉を見失ってしまう。大切な木箱を胸にぎゅっと力強く抱きしめて、そのまま顔を伏せてしまった。だけどどうしてそう思ったのだろう。俺には桜花のそんな姿がこんな風にも見えたんだ。
まるで桜花は質問の答えを、木箱の中の魂と確認しあってるかのような。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
嵯峨野千鶴: 泰史の母。お仕事忙しい
嵯峨野英葉: 泰史の実妹。ロンドン在住中
読んでくださり、ありがとうございます。
自分の知らない人の噂話って怖いですよね?
え、それは日頃の行いに原因があるって!??
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