盲目の桜の花
「興味深いって……お前、俺と桜花のこと何か勘違いしてないか?」
霜宮は淡白な顔で、目には青白い何かを宿らせている。はて、俺のこと不思議だと言われたところで、不可解だと思うより他ない。
「義理の兄妹。貴方、前にそう言ったわよね?」
「ああ。どう見たってそれ以上でもそれ以下でもないだろ」
「随分と簡単に言ってくれるわね。義理の兄妹と呼べる定義のことを」
「どういう意味だよ?」
にしても話がやや回りくどくないか? もっとシンプルに話してもらえると助かるんだが。
「貴方、義理の兄妹って安易に言ってくれるけど、それが本当にどういう意味なのか理解しているのかしら?」
「は……?」
本当に何を言ってるんだ? 俺の母親が桜花を養子に迎えた。俺と母親は当然実の親子なわけで、それ故に桜花は義理の妹になった。本当にそれだけの話。どういう意味も何も、他に考える余地なんてないと思うのだが。
だが霜宮は一向に冗談めいた素振りを見せない。むしろ俺にどう話せばそれが伝わるのか、相変わらず思案しているようだった。右手人差し指と親指を顎につけると、はっと何かを思い出したように、俺に再び質問を向けてくる。
「貴方、確か文芸部だったわよね?」
「んまぁ、この部活の解釈次第だが、物理文芸部とも文芸部とも言えるよな」
また唐突。今度は部活の話かよ。
「それならむしろ貴方の方が専門分野のはずよ?」
「どういう意味だよ……」
徐々に苛立ちすら覚えてきた。だが霜宮は俺の怒りを冷ますような声音で、そのたった二文字を口にしてみせたんだ。
「感情。まさか貴方の書こうとしている小説の中に、それが含まれないとは思えないのだけど」
「…………」
刹那、何を言ってるのか判断することはできなかった。が、解釈としてふと思いがけぬ結論に至ってしまう。
「……いや待て。俺と桜花がそんなことあるわけないだろ?」
「貴方、話をどう飛躍させたらそんな話になるのかしら? どんなおぞましい想像したのか気持ち悪くて触れたくもないけど、そんなの解釈の一例に過ぎないわ。それより貴方のラノベ脳をどうにかしなさい。気持ち悪い上に、この上ないほど気持ち悪いわ」
大事なことだから二度言いましたってか。いや実は三度言ってるけどな!?
「たしかに貴方が想像したであろうそれも、一つの解釈としてはあるわね。大変に気持ち悪いけれど。でも感情と呼べるものはそれだけじゃないはずよ」
「あ、ああ。言いたいことはよくわかったよ……」
だから何度気持ち悪いって言えば気が済むんだこの女は。まぁ話を飛躍させすぎた俺に弁解の余地はないけどな。
とはいえ、ようやく霜宮の解釈も理解できた。つまりこう言いたいのだ。
俺と桜花は突然に兄妹になった。でもこれは普通に考えても普通ではない話。それはそうだろ。昨日までただのクラスメイトだった女子生徒が今日から兄妹になったみたいな話だ。実際俺と桜花はクラスメイトだったわけではない。だからそういう状況下との感情は似て非なるものだろう。
俺は案外、桜花を妹として素直に受け入れることができてしまったかもしれない。理由はほぼ間違えなく、桜花の態度のせいだろう。あいつ、最初から俺を兄として受け入れる気でいたように思う。桜の花のような甘い笑みを満面に咲かせて、俺はついそれを受け入れてしまったのだ。
それが俺と桜花の兄妹としてのはじまりだった。
だけど、桜花は本当にそうだったのだろうか。
昨晩から続く拒絶は、そんな疑問をふと浮かび上がらせる。
「もしまだ貴方が桜花の兄として振る舞おうとするなら、もう少し桜花の心を汲み取ってもらいたいわね。これは桜花の友人としてのお願いなのだけど」
「…………」
それが見えてこない。つまり今の俺は、兄として失格ということ。
そんなの、今更振り返るまでもないことのはずなんだけどな。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
読んでくださり、ありがとうございます。
目に見えないものを汲み取るって、難しいですよね。
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