黒真珠が灯す怒りの声
これは、どうにも整合性というものが取れていなかった。
俺の知ってる桜花。それはいつも桜の花弁のような笑顔を振りまいて、無邪気に、時にあざとく、俺と霜宮の間を明るく照らす春の日差しのような存在。だけどそれは幻に近い何かであることも俺は知っていた。つまり桜花がそうしているのは、俺と霜宮の前でだけ。だからこそ最初は気づかなかったんだ。それが桜花の普通だと思っていたから。
霜宮の知ってる桜花。多分それは、俺の知ってる桜花の声音より一層低い声の持ち主。どこか冷淡で、もしかしたらそれ故に元々友人が少なかったのかもしれない。同じく友人が少なそうな霜宮にとっての数少ない旧友。幼い顔立ちからは想像もつかない程に秀才で、霜宮の絶対的なライバルだ。少なくとも今の桜花は、そんな自分を切り離そうとしていた。もしかしたら彼女は、そんな彼女を嫌いなのかもしれない。
だけど今目の前にいる桜花はその両方を持ち合わせているように思える。
ハイブリッド型? 正直そんな言葉の定義はどうでもいい。俺を突っぱねたかと思いきや、チョコレートのような甘い声色で『大嫌い』と彼女は言う。
なぜかふと、彼女と初めて会った時のあの台詞を思い出した。
『これから一生、わたしの傍にいてくれますよね?』
全然違う、正反対の言葉であるはずなのに、どうしてそれと重なるのだろう。
「おいっ……、桜花…………?」
しばらく言葉も交わすことなく、ただじっと睨み合っていた桜花と俺。そもそも俺は別に嫌われたって構いやしない。突然親の言いなりで義理の兄妹になった間柄だ。思い通りに上手く行かなくても、それは仕方のないことだと諦める。
「……ああ、わかったよ。それなら、それでいい」
すると桜花の視線がより鋭くなる。きっと睨みつけられると、まるで俺の頬がナイフで切り裂かれたようなそんな感覚を得た。
「だから無理に兄妹ごっこなんてしなくても、それでも俺は構わない」
若干言葉を濁してしまったことに自分でも気づいていた。淡い期待? そんなのただの詭弁かもしれない。だって仕方ないことじゃないか。俺はいつだって体裁ばかりを取り繕って、大切なときに桜花に必要な言葉を見つけることができなかったのだから。義兄として失格だ。
だから桜花に嫌われたって、そんなの当然の報いなのだ。
が、桜花はすくっと立ち上がると、黒真珠の瞳がさらに鋭くなった。
小さな女の子が目一杯背伸びして、その顔は間違えなく俺の目の前まで伸びてきていた。……あれ? こいつこんなに身長あったっけ? てゆか近いっ! いろんな意味でっ!! 女子高生特有の香水の匂いやら、桃色の唇やら、あらゆるものが視界の中へ飛び込んでくる。ん? 桜花って香水をいつの間につけるようになってたんだっけ!?
「っっ…………!!!!」
両手には小さな握りこぶしを作り、俺の腹をがしがしと叩いてくる。ややリズミカルにぐさぐさと。正直なところ、あまり痛くはない。本人は力いっぱい叩いてるつもりなのだろうが、その破れかぶれの精一杯が肉体的なダメージを与えてくるには多少不足していた。
「だ、だからわたしは、タイシくんのことが大っ嫌いなんですよ!!!」
むしろ悲鳴のようなその声の方がよほど耳に痛く響く。いつの間にか桜花の目にはうっすら涙のようなものを浮かべていた。さっきまであれだけ堪えていたくせに、どうしてこのタイミングなんだよ?
……てかこの状況、結局一体どういうことなんだっけ??
いつしか俺も、どういうわけか精神的なダメージの方を受けている気がした。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
読んでくださり、ありがとうございます。
桜花ちゃん大爆発!!(?)
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