夜の目覚めに肉じゃが
白い蛍光灯の光の下、ただひたすらに黙々と箸が進む。
今日の夕ごはんは肉じゃが。駅前のスーパーで人数分の材料を買い揃え、俺がほぼ一人でことこと作り込んだもの。途中、幾度かお邪魔虫に遭いそうになった。一人は子犬のような顔。興味津々にこっちを眺めてきたので、それならと包丁を持たせたら、完全に持ち手が逆。危ないのでさっさと取り上げた。もう一人は迷い猫のような顔。『なんだか申し訳ないわ』という目つきで眺めてきたので、それならとフライパンを渡したら、どういうわけかそいつは片手でブンブンとフライパンを振り回したのだ。咄嗟に殺意のような何かを感じたので、『やっぱ俺がやるわ』とフライパンを取り上げた。
……あ、うん。これやっぱし最後まで俺が一人で作ってますね。
母が来るまで、霜宮にはうちに来てもらうよう頼んだ。晩ご飯を食べ終わった後、そう時間も経たないうちに母はやってきて、例の木箱を持っていってしまうだろう。今時間はちょうど二十時くらいだから、あと一時間後と言ったくらいか。霜宮の帰りは母の車で送ってもらえばいい。それくらいなら頼めるだろう。
なのだけど、霜宮がいてもこの空気の重々しさは一体なんなのだろう。四人がけの四角い食卓テーブルで、俺の隣に霜宮が座り、霜宮の相向かいに桜花が座る。俺と桜花は斜めに対峙する形なんだけど、いつもと席が違うような気がするのは今日は霜宮がいるからだよな?
「…………」
「…………」
「…………。ふふっ美味しいわ……」
おい霜宮。そういう感想は会話になるよう話してくれ。
「桜花。この後母さんが……」
重苦しい空気を払拭するためにも、俺はやっとこ口を開く。
「あ、霜宮さん。そんなに一気にじゃがいもを頬張ると舌が火傷しちゃいますよ?」
「だいじょうふよ。はひょうあふくてももんたいないは」
何言ってるんだこいつは!? 桜花の言うように、霜宮は一度にじゃがいもを口の中へ放り過ぎである。というよりこれが霜宮の食事スタイルなのだろうか。華の女子高生としてあまり感心できるスタイルではないけどな。
って、桜花は桜花で俺を完全に無視するスタイルだ。あー、もう!! 何のために霜宮を呼んだと思ってるんだよ!?
「杞憂よ。こういう底意地の悪さが吹っ切れてる証拠なのだから」
霜宮はいつの間にか口の中のじゃがいもを喉の奥へ通していて、開き直った口調で俺にそう諭してきた。一瞬何を言ってるかわからなかったが、はっと思い直して桜花の顔色を伺う。すると桜花は俺のことなど興味がないのか、霜宮の方をじっと眺め……いや、睨んでいた。
「霜宮さん。わたしって、そんなに底意地悪いですかね?」
黒真珠のような瞳で、桜花の声音はいつもより半オクターブほど低い。
「悲観することなど何もないわ。むしろそっちの方が私の大好きな桜花らしいわよ?」
「そっかー。ならよかった。でももう少し言い方は考えてほしいんだけどな〜」
「貴女はこの程度でグレてしまうような安い女の子でもないでしょ?」
「そうなんでしょうか? でもそれ、もしかして褒められてる??」
「そう受け取ってもらって構わないわよ」
「やった〜! わたし霜宮さんに褒められちゃった〜!!」
その瞬間、桜花は俺の方に顔を向けようとする。が、急に我に返り、反転慌てて霜宮に向き直したように見えた。やはり相変わらず俺とは顔を合わせたくもないらしい。
……てか何この会話。あんたら本当に仲良しな友達同士だったの!??
「これが桜花なのよ。そろそろ貴方も目を覚ましなさい?」
「はぁ……」
俺だけに聞こえる声で、霜宮は俺にそう伝えてくる。てかこの場合、俺は一体何に目覚めればよいのだろう?
真実の妹愛ってやつだろうか?
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
嵯峨野千鶴: 泰史の母親。お仕事忙しい
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桜花ちゃんついに覚醒!?
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