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物理文芸部の活動報告『海に眠る桜色の瞳』  作者: 鹿野月美
海の向こうに見える気配
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隠されたヒロインの本性

 俺は手元のコーヒーカップに白いミルクを浮かべた。既に量も半分ほどに減っていたため、黒かったコーヒーはより白さが際立っていく。なぜこのタイミングかと言えば、完全に気分転換だった。普段はブラックのまま飲むコーヒーも、気持ちを入れ替えたいときに砂糖やミルクを加える。今回はミルクのみ。ここで砂糖まで入れる気にはならなかった。半分になったコーヒーにいろんな物を混ぜたら、それはもう甘くなるだけだしな。


「なぁ。結局桜花(おうか)って……霜宮(しもみや)にとって桜花はどういう存在なんだ?」

 俺の知らない桜花。霜宮がかつて見てきたはずの桜花。そこには完全な不一致が生じている。結局のところ桜花とは、何者なのだろう?

「言えないわ。私は貴方を完全に信用しているわけではないもの」

「どういう意味だよ……」

 実はなんかすごく失礼なこと言われた? だが霜宮は落ち着いた表情のまま、俺を諭すように言葉を流し切る。

「そんな深い話でもないわよ。貴方が桜花を知ってしまった時、貴方が本当に受け止めきれるのか。それが不安だということ」

「なんだよそれ。俺だって一応桜花の義兄(あに)だぞ」

「だから尚更よ。その不用意な好奇心がその身を滅ぼすことだってあるって話よ」

「……?」

 よくわからないがもしかしたら俺は思い違いをしているのかもしれない。と思った瞬間、霜宮は両手でテーブルをドンと叩いた。

「だからその……私は貴方(あなた)まで失いたくはないの!!」

 その音は喫茶店中に響き渡り、店内は一瞬静まり返った。あちらこちらから飛んでくる視線に……さすがにそれはちょっと痛い。俺はなるべく視線の数々から避けるように、黙々とミルクで甘くなったコーヒーを一口啜った。


 つまりこういうことだろう。俺は桜花の義兄(あに)。とすると、俺が桜花に深く関わり始めた途端、桜花の実兄(じっけい)と同じ道を辿ってしまうのではないだろうか。霜宮はそれを危惧しているようだった。だとするととりあえず冷静に。ひとまず俺が喫茶店の店員さんから追い出されないような態度を取らないと。


 が、話はそんな単純ではなくなってきたことに今気づく。いつのまにか霜宮は顔を真っ赤にしていて、完全に俺から顔を逸らしていた。どういうことだとその顔を追いかけても、霜宮の顔は即座に逃げていく。ちょっと霜宮さん。それだと俺が完全に犯人扱いになっちゃうんですけど!??

「い、い、今の発言は一旦忘れてくれるかしら」

「お、おう……」

 あー、そういうことですね。確かに霜宮の発言は、捉えようによっては別の意味になってしまいかねない。……いや待て待て。どうしてそういう話の流れになった!?

「べ、別に、貴方のことをその……そういうのに見た記憶は一ミリもないから誤解しないでくれる?」

「だ、大丈夫だ。俺も一ミリも誤解してないから」

貴方(あなた)なんか……あんたなんか……!!!」

「わかった。わかったから落ち着けって」

 なんだか台詞(せりふ)が完全にラノベのツンデレヒロインのそれになってるぞ。まさかこいつ、物理文芸部の書棚からこっそりラノベ取り出して読んでるんじゃないだろうな?


 結局。俺は最後まで霜宮から桜花のことを完全に聞きそびれてしまった。

 どちらかというと桜花より霜宮の方がその本性を知られてはいけないヒロインなのではないか。そんな疑問まで沸々と湧いたまま、夕暮れの帰りの電車に乗ることになったのだ。


登場人物

嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員

霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員

嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務


読んでくださり、ありがとうございます。

シリアスパート長かったのでラノベ風にしてみました(ぉぃ)

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カクヨムでも連載しています

https://kakuyomu.jp/works/822139841863405829


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