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物理文芸部の活動報告『海に眠る桜色の瞳』  作者: 鹿野月美
海の向こうに見える気配
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特別な日

「ところで……」

 そこまで話すと霜宮(しもみや)は急に目の色を変え、唐突に俺に問うてきた。だがどこか言いにくいことなのか、態度はまだしどろもどろのままだ。咳払いして一息つき、もう一度同じ接続詞から話かけようとする。

「……ところで、貴方(あなた)春斗(はると)君が自殺した理由をどこまで聞いているのかしら?」

「え。理由?」

 話が急すぎてさすがに流れが追いつかない。仕方なくという顔で霜宮はヒントのようなものを出してくる。

「ありきたりな理由よ。そう言えばそれとなくわかるでしょ?」

「いじめ……か?」

 正解だったのか、霜宮の口元は少し緩んだように見えた。

「……そう。でもそれは多分半分正解で、半分間違ってる」

「どういうことだ?」

「主語が違うのよ。いじめを受けてた人のね」

 一瞬何のことかわからなかったが、すぐに結論を結び直すことができてしまった。

「まさか、いじめを受けてたのは桜花(おうか)だってことか?」

 そう問い直すと霜宮はまた口元を緩め、音を立てずにレモンティーを啜り始めた。正解であるというその合図はまるで時を刻み続ける壁時計のようで、無機質な針の音が俺の耳の中に響いてくる。


「つまり元々いじめられていたのは桜花の方で、助けようとした春斗君が今度は同じ目に合ってしまったと。そういう解釈でいいのか?」

「ええ。それで合ってるわ」

 ようやく霜宮は声で肯定を表す。恐らく霜宮にとっても辛い話なのだろう。

 でも気付きと同時に違和感も湧く。あの桜花がいじめられてたなんて、俺には想像がつかなかったのだ。確かに中学はほぼ不登校だったというし、高校でも教室では誰とも好き好んで話そうとしない。そこまでの話なら、原因が過去にあったということで辻褄は合う。が、さらに先にある根本的な原因がどうしても出てこないのだ。

「だから言ったでしょ。貴方が知ってる桜花は、貴方だけの幻想でしかないのよ」

「っ…………」

 冷たく吐き出された吐息のような言葉は、俺の心臓を一瞬で凍りつかせた。


「貴方と初めて話したあの化学準備室、私はずっと寒気がしていたわ」

「…………」

 恐らく時間は桜が散った後、四月中旬のあの日。桜花が物理文芸部を始めようと言い出した日のことだろう。

「ひとつはあんな狭い部屋で貴方と二人きり。いつ襲われるんじゃないかって」

「んなことしねーよ!!」

 元文芸部の棚を霜宮と俺の二人で整理しつつ……いや、こいつそんな怯えてたか? むしろ俺の方がその冷たい視線が怖かったんだが。

 そんな冗談(だよな?)を挟み、本題を重ねる。

「もうひとつは桜花のこと。あんなの見たことなくて、私には衝撃だった」

 霜宮は(こうべ)を垂れ、俺と顔を合わせようとしない。今自分の顔を見られるのが怖いのだろうか。遡るあの日の時間に恐怖を抱き続けているのかもしれない。


「口調も、表情も、態度も、何もかもが違う。あんなの私は知らなかったのよ!」

 一体、霜宮の知らない二年という歳月は、桜花に何を与えたのだろう。霜宮の知らない桜花、俺だけが知っていた桜花、俺も霜宮も知らない桜花。ずっと殻の中に閉じこもっていた桜花は、やがて俺と霜宮の前に再び現れた。


 今日はもしかしたら、桜花にとっても特別な日だったのかもしれない。


登場人物

嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員

霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員

嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務

嵯峨野春斗: 桜花の双子の実兄


読んでくださり、ありがとうございます。

シリアスパートが続いてしまってますね。う〜ん……

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カクヨムでも連載しています

https://kakuyomu.jp/works/822139841863405829


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