中途半端な言葉の羅列
俺達三人は商店街まで戻ってきて、喫茶店で一息つくことにした。俺はアイスコーヒーで霜宮はレモンティー、桜花はオレンジジュースをオーダーする。やや高校生が来るには高い店に思えたけど、それよりとにかくこの二人を落ち着かせることを最優先したのだ。
どういうわけだろう。桜花も霜宮も元気がない。
「大凶と吉って、どちらがいいのでしょうか?」
と桜花。いや考えるまでもなく吉だろ。だがさっきは『大凶は神様からのメッセージ』とか曰わってたわけだから、その気持ちもわからんでもない……のか?
「大凶の次は、凶。私は……呪われてる……??」
と霜宮。……うんその声は間違えなく呪われてますね!
困惑気味の二人をなんとかなだめようと、俺はかける言葉を考える。
いやわかるわけないだろ。桜花は謎の理論で悩みの沼に嵌ってるし、霜宮に至ってはもはや救いようもない程の重症だ。俺の言葉などより今すぐお祓いをしてもらった方が霜宮のためじゃないか。てゆか大凶も凶もそんなに頻繁に出てくるものなの? 別の意味で引き運が強すぎる。
「……それより二人に、少し相談したいことがあるんだが」
俺は頭をひねってひねりまくった上で考えた。で、出てきた言葉がこれなんだが。
「…………」
「なにかしら……?」
桜花は無言で、霜宮は我に返るように俺の方を振り向く。……って、ぶっちゃけ後先何も考えてないことは明確だった。なんでこのタイミング? 自分でそう思うのだからもはや救いようがないなこれ。
「さっき母から例の木箱について、相談を受けたんだ……」
用件を伝えると、霜宮の方は急に険しい顔に変わる。だが俺の気にしていたことは杞憂だったのか、特に嫌な顔という気配もない。むしろ言葉を待ってくれていた、そう思ってしまったのは俺が楽天的すぎるのだろう。
桜花の瞳は灰色に変わる。この表情をどう捉えるべきだろう。俺はその判断基準を持っていない。
話す前にアイスコーヒーを一口啜る。喉を冷たい雫の塊が次々通過していく。
誤解がないよう、桜花を悲しませたくないよう、どう伝えるのが正しいか。考えて、考えて、それが何秒要したのか、俺自身もわからなくなっていた。
「遺書があったらしくて、あの木箱の中身を海に還したい……と」
だが出てきた俺の言葉は、何もかもを端折ったただの羅列だった。
「遺書……? やっぱしそんなのがあったのね……」
そう答えたのは霜宮だった。すぐに話を理解してくれたらしく、特に反論など何もない。だがそれは概ね予想できたこと。あまり関係のないことだった。問題は別の場所にあったから。
俺はそのもう一人と、問題を対峙することになる。
桜花は灰色の目で俺を睨む。目の色はさっきから何一つ変わっていない。
あるいは睨んでいるように見えるのは、俺の錯覚かもしれない。
虚ろで、じっと俺の目から離そうとせず、無言で何かを語りかける。
ただし言葉などはない。虚無に等しい沈黙が、俺と桜花の間に壁を作る。
もしかしたら本当に言葉を失っていたのは、俺ではなく、桜花の方なのか。
「取らないで!!」
唐突に沈黙は破られた。
それは義兄に初めて反発した、義妹の怒りだったかもしれない。
尖った声音は鋭い槍のように、俺の胸へぐさりと突き刺さった。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
読んでくださり、ありがとうございます。
このお話もいよいよ終盤です。
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