繋がる右手と繋がらない左手
俺達は緑色のレトロな電車に揺られ、ことこと海沿いを東に向かっていた。沿線には観光地が多いせいか、四両編成の電車は日曜休日となるとそれなりに混む。人の隙間から覗く車窓には、青い太平洋を大きく眺めることができた。なるほど、この絵画のような景色も混雑する理由として一役買っているのだろう。
ちなみに言い出したのは霜宮だ。彼女が負けず嫌いなのは知っていたつもりだが、自分の引いたおみくじにまで難癖をつけるとは思わなかった。『別の場所でおみくじ引いて貴方には絶対に勝つ』と俺を指さし高々と宣言してみせた。ようは大凶を引いたことに納得がいかず、不参戦だった俺より良いおみくじを引きたいらしい。てゆか、おみくじってそういう類のものだったっか?
終着駅の近くには大きな神社がある。平安時代から続くこの神社では、特に勝負運にご利益があるらしい。とすれば霜宮にはうってつけの神社なのかもしれない。逆に桜花には無縁なんだろうが。
電車は終着駅に到着し、神社へ続く商店街を歩く。見渡す限り人だらけで、俺は思わず桜花の左手を右手で掴んだ。互いがはぐれないよう注意して前を進む。
「そうやってさり気なく女子の手を繋ぐ男子ってどうなのかしら?」
左耳から霜宮の呟き声が届く。なお俺の左手は空いたままだ。つまり何も掴んではいない。いや別に深い意味はないつもりだがな。
「お、おう。俺は桜花の兄だしな」
「本当にそれが理由なのかしら?」
明確に率直な感想。『私が貴方の義妹だったら同じようにするのかしら?』という顔でこちらを睨んでいる。てゆかこんな可愛くない義妹だったら正直嫌だ。……あ、率直すぎた。
「タイシくん。霜宮さん。どうかしましたか?」
すると右側から桜花の甲高い声が、俺達の声を上書きしてきた。
「いや特に何も……」
「気にすることなど何もないわ。それより先を急ぎましょ」
そう答えると桜花はにっこり微笑む。んー? もしかしてその顔、本当に俺と霜宮の会話の内容が聞こえてなかったのか? 『二人で喧嘩はだめですよ?』と無言の圧をかけられてるように見えなくもないのだが。
最近、桜花の別の声が聞こえてくるようになってきた気がする。今のがまさしくそれだ。
周囲に舞う桜の花弁の中に、何か別の言葉ではないシグナルが含まれているのではないかと。それは考えすぎかもしれないし、桜花本人だって無自覚なのかもしれないが。
もしかしたら俺は、桜花の本当の義兄に近づけているのだろうか。
歩くのが困難なほどの混雑ぶりは、神社の中まで辿り着くとそれほどでもなかった。商店街と比べると通路が開けているせいだろう、さくさく前へ歩くことができる。いつの間にか桜花の左手も俺の手から離れていた。理由は簡単で、神社に着いた途端桜花はあちらこちら左右を自由に行き来しているから。こうなると一々相手にする方が疲れる。ま、俺なんて最初から興味がなかったってことか。だとするとお義兄さんちょっと悲しい。
霜宮が冷ややかな目でその様子を楽しんでいる気もするが、それこそ気にしたら負けだろう。
本殿でお参りを済ませ、振り返った場所の先でおみくじを引く。……引くというより、百円玉を入れると中からおみくじが出てくるという完全に自販機なのだが、とりあえず『引く』って言葉で合ってるのか? 他に言葉も思いつかないし、日本語わからんねー!
なお出てきたおみくじは、桜花は吉、俺が末吉。
霜宮はやっぱし、凶でした。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
読んでくださり、ありがとうございます。
江ノ電って本当にいつも混んでますよねー
評価、感想をいただけると励みになります。
カクヨムでも連載しています
https://kakuyomu.jp/works/822139841863405829




