ゆらゆらゆれるミルクコーヒーの白
俺と母は車でやや西へ進み、近くにあったファミレスに入ることにした。
時計の針は十一時半を指している。ちょうどお昼時とはいえ郊外という立地条件もあるせいか、さほど混み合ってるわけでもない。橙色のエプロンを付けた店員さんに席を案内され、スムーズに中へ入ることができた。窓側のボックス席で、外では国道を走る車がひっきりなしに流れている。
俺はオムライス、母はラーメンセットをオーダーする。どこか子供っぽいように思える俺のチョイスは一旦さておき、昼からラーメンというのもなかなかに母らしい。最近よほど仕事が忙しいのだろうか。
一通りのオーダーを選び、ドリンクバーからアイスコーヒーとホットコーヒーを一つずつ取ってきたところで、母はここぞとばかりに尋ねてきた。
「で、泰史は結局あの木箱の中身が何かわかったの?」
ああ、今日はその話だったな。これなら桜花の近況を聞かれた方がよほど気が楽だ。
とはいえ俺も今朝になってようやくその中身に確証を得たばかりだ。もしかしたら成長するかもしれない、一見おぞましくも思えるその箱に、霜宮は手と手を合わせて合掌した。桜花にとって大切なそれは、俺に絶対に触れさせようともしない。ともすれば消去法で自ずと答えが出てしまう。
「春斗君の、遺骨……だな」
「正解っ!」
クイズ番組の司会者のように明るく振る舞う母だが、俺としては正直深い溜息しか出てこない。
オーダーしてからまだ五分も経っていない。がらんと空いたファミレスのテーブルに、どこか手持ち無沙汰を感じた。ミルクたっぷりのコーヒーカップの中はゆらゆら白く揺れている。
「そもそもなんでそんなものがうちにあるんだよ?」
「知らないわよー。気づいたら桜花ちゃんが隠しちゃったらしくて、そのままずっと行方不明だったらしいんだからー」
息子が行方不明で必死に探す親たちってか。あまり笑えない。
「じゃあ今日はあの木箱をお墓に……」
だとするとやることは一つしかない。母はその手続きを進めていたのだろう。
「ところがそういうわけにもいかなくなったのよー。木箱がなくなってしばらく経ってから、春斗君の遺書が見つかってね」
「遺書??」
「そこにはこう書かれてあったの。『僕は海に還ります』って」
「はぁ…………」
そもそもそういう話だったな。今日俺と桜花と霜宮が海に来ることになったのも恐らくそれが理由だ。海に来たいと言い出したのは桜花だし、その意味を理解して霜宮は躊躇なくついてくることを選んだのだろう。
「だとすると春斗君がお墓の中にいるのもおかしな話でしょ? それで浅川さんとしては遺骨を海に還そうって話になってるわけ」
「で、肝心のその木箱を探していたと」
「だって葬式の時はまだ遺書が見つかる前だったし、あの後まさか木箱がいなくなるなんて想定してなかったんだから」
そりゃ足の生えた木箱なんてあるわけないしな。てか真っ昼間からすごい話しちゃってる気がするんだけど。本当にさっきからずっと溜息しか出てこない。はぁ……。
「だから泰史に頼みたいのは、桜花ちゃんを説得してあの木箱を取り上げてほしいのよ」
「おい今さらっと無理難題を押し付けてないか……?」
ここまで話すと母はストローに口を付け、アイスコーヒーをずずっと啜る。俺の方はむしろぽかんとするばかりで、俺の手元にもコーヒーがあることをすっかり忘れてしまっていた。慌てて母の真似してカップに手を伸ばす。もうとっくに冷めているはずなのに、じわりと温度が手に伝わる感覚を覚えた。
そうか。これが俺のやるべきことか。今の桜花に俺がしてやれること。
……想像してたのよりちょっと斜め上すぎるんだけどまぁこの際仕方ないのか?
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
嵯峨野千鶴: 泰史の母。お仕事忙しい!
浅川春斗: 桜花の実兄。霜宮の元クラスメイト
読んでくださり、ありがとうございます。
ドリンクバーで皆さん何を持ってきますか?
ちなみに私は一杯目はメロンソーダが多いです。……なぜ?
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