文芸部で小説を書く目的
銀色のステンレスの胴体に青色の帯をまとった電車がホームへ滑り込んでくる。各駅停車しか停まらないこの駅では日曜の朝という時間帯であっても人はまばらだ。それに比例するかのように、電車の中も特に混雑はした様子はない。ピンポンという音と同時にドアが開くと、俺と桜花と霜宮の三人はいつもどおりの電車の中へ乗り込んだ。
俺と桜花の家の最寄り駅から海のある方向へ向かうには、二駅先のターミナル駅で一度乗り換える必要がある。以前は直通電車も走っていたのだが、今は観光目的とした特急以外は全てそのターミナル駅が終着駅となっている。そして乗り換えた先の電車には途中駅が二駅しかない。そのせいか利用客も近辺住民か海へ向かう人くらいしかなく、喧騒もまばらでゆったりとした車内風景が流れていた。
「ところでなぜ貴方は文芸部なんてやってるのかしら?」
俺のすぐ隣で立っていた霜宮が唐突にこう聞いてきたのは、もうあと数分で目的地の駅に着くそんなタイミングだった。はて、なんでと言われたところで、すぐに回答できるものでもない。
「別に特に深い目的なんてないかな。強いてゆうなら読書する時間が多かったからとか」
「でも貴方は毎日真面目に小説書いてるようにも見えるけど」
「それは、他にやることがないから?」
「つまり、ただの暇つぶし?」
「……そうとも言うか」
深い目的などなく、ただのありきたりの時間を費やしているだけ。言うなれば、無駄な時間なのかもしれない。ってなんかそれめっちゃ格好悪いな。
「そういうお前はどうなんだよ? あんな監視ロボットなんて作りやがって」
やり返すべく矛先を霜宮に向けてやる。とはいえ、こいつはこいつで真面目に物理化学部とやらをやってるんだよなぁ。方向性は斜め上でしかないけど。
「ああ、これのことかしら?」
「あ。カメくん持ってきてたのか」
「GPSで貴方の部屋にあることはわかってたから、少し拝借させてもらったわ」
「そいつGPSまで内蔵してたのかよ!??」
てゆかGPSで部屋まで特定するとか精度高すぎません? 怖すぎるんですけど。
「貴方ではないけど特に深い目的などないわ。少し気になることをやってるだけよ」
ただ霜宮の口調はごく自然なそれで、言葉に嘘偽りなど一切ないように思えた。いつもと変わらない平穏さで、特に熱なども感じられない。ゆっくり進み続けるこの各駅停車のようで、やがて定刻通りに終着駅へと辿り着くのだろう。
まぁ深い目的がないという話自体は説得力皆無だけどな。当たり前のように監視ロボット作ってしまう霜宮の性格の方がやはりちょっとズレている。
「このロボット、元々目的は貴方達の監視じゃないのよ」
「それなら今すぐ撤去してほしいというのが俺の本音なんだけどな」
「違うわ。……貴方達の監視なんて、私もそんな暇人じゃないし」
もしかして俺に喧嘩売ってる? そんな優しい声音で失礼極まりないことを言われたところで反応に困るとしか言い様ない。
ただそんな俺の内心を一切無視するかのごとく、霜宮の温かみのある視線は電車の反対側のドア横に立つ桜花の方へと向けられていた。桜花は一人ぼんやり流れる窓の向こう側を眺めている。
「桜花がこの世の何処かで笑っていてほしいと願って、AIを書いてたのよ」
霜宮の瞳は桜花に向いていて、向いていないように思えた。
さらに視線のその先にいるはずの桜花へ、絶えず話しかけているかのようで。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
読んでくださり、ありがとうございます。
一応この作品には舞台のモデルがあります。
ターミナル駅で乗り換えて三駅目で海。わかる方にはわかるかと。
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