高校生の遊び場所とは何処
「さて。用は済んだわ。私はここで失礼させてもらおうかしら」
「っておい! 今日は一体何しにここに来たんだ!??」
俺がすかさずそうツッコむと、霜宮はぎろっとした限りなく零度に近い視線で俺を睨んでくる。いや俺、なにか変なこと言ったか? だって霜宮がこの部屋に来てやったことと言えば、木箱の前に座って手を合わせただけ。そのためだけにここに来たって……。
「あの、霜宮さん。今日まだ早い時間ですし、せっかくなのでどこか遊びに行きませんか?」
桜花がその氷を溶かすように、暖かい言葉を霜宮にかける。そうだ。季節はもう春なのだ。いつまでも霜宮にとって居心地の良い冬が続いたら、世界はいずれ凍りついてしまうだろう。
「せっかくのお誘い悪いのだけど、嵯峨野さんと遊びへ行く場所なんて、その案を全く持ち合わせていないわ。ごめんなさい」
「待て待て。そんなの今から考えればいいだけの話だろ」
なぜ『遊びに行く場所が思いつかない』が、『遊びに行かない理由』になるんだ? もしかして霜宮って友人と遊びに行くにはそれなりの理由が絶対に必要だと思っちゃってるくちか。どんだけぼっちなんだよ。
「それなら、一体どこへ行けばいいのかしら?」
「どこ…………?」
「どこでしょう??」
但し、俺も桜花も他人のことは言えないな。霜宮はごく簡単な質問をしているはずなのに、二人してそれに答えることができないのだ。ごく一般的な高校生が遊びに行く場所ってすなわちどこだ? まさか三人揃って一つも案が出てこないとは。もしかすると物理文芸部のぼっちセンスとやらは、硬いたわしなどでゴシゴシ磨き落とそうとしても、まるで歯が立たないものなのかもしれない。
てか三人とも、友達いなさすぎでしょ。
俺は遊びに行く場所を考えるのと同時に、実はもう一つの考え事もしていた。
内容はもちろん、あの木箱についてだ。
一辺が十五センチほどの立方体。
つまり見た目は真四角の、木でできたただの箱。
あの中には何が入っているのだろう?
桜花はあの木箱を誰にも触らせようとしない。それだけ大切な物のはずなのに、中身についてはまるで記憶がない。いや、本当に記憶がないのか、俺は若干疑問を抱きつつある。そう思ったのは、つい先程聞こえてしまった桜花の言葉に依存する。実はあの木箱と同様、ただ蓋をしてるだけではないかと。
母はあの木箱について、『成長してなければ』と言っていた。当然木箱そのものが成長することがあれば、世界七不思議に取り上げられてもおかしくない程にあり得ないことだ。だとすると木箱の中身が成長するかもしれないということ。いやもしそうなら、成長した中身が木箱を突き破って出てくるはず。今のところその様子はない。つまり中身は、成長しない生き物である可能性が高いということか。
極めつけは霜宮だ。最初霜宮は『おぞましい』と言っていた。ところが実際に彼女が木箱を目の前にした姿はどうだ? だって、あの様子はどう見たって……。
俺は深く溜息を付く。どうやらとんでもないものがこの木箱の中にあると確信する。
とっとと母にその対処をしてもらわないと、後々面倒なことになるのではと。
「あの…………海に、行きませんか?」
いつもと少し違う低めのトーンだったため、最初はそれが誰の声かわからなかった。
桜花の提案に、霜宮は訝しい表情を浮かべた。一度目を瞑り、やがて同意する。
「いいでしょ。行きましょうか」
およそ高校生の遊び場としてはやや毛色が違うようにも思えたが、まぁ二人が納得したのであれば俺は反論する余地などあるわけもなく、そもそも対案さえ何もないわけで。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
読んでくださり、ありがとうございます。
皆さんは学生時代どこへ遊びに行きました?
私は……予備校???(違うそうじゃない!)
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