霜宮の探し物
俺と桜花が暮らすのは、和室が二部屋とダイニングキッチンを擁する2DKの角部屋だ。ところどころに気品を感じられるアパートの二階にあり、和室の窓は完全に南側を向いているため、朝は少し肌寒く、夜はそれなりに暖かい。今朝も燦々と光が入り込み、窓から差し込んでくる風は、春の息吹を感じさせてくれる。
部屋の北側に玄関とダイニングキッチンがある。玄関開ければ目の前にキッチン、その周りにテーブルと椅子があるといった具合。今日のお客様である霜宮は、その光景を前にして、ふぅと一つ溜息をついた。
「意外ときれいにしてるのね」
「まぁさっきまで桜花と掃除してたばかりだしな」
霜宮は何かを期待していたのだろうか。だが、あまりにもごく一般的すぎるアパートの一室であったため、特にツッコミどころは思いつかなかったようだ。別にツッコんでほしくもなかったけど。
「てっきり、本とか服とか下着とかがそこら中に散らかってるものだと思ってたわ」
「あー…………」
俺は思わず納得し、桜花の方をちらりと見た。そんな俺と霜宮の若干冷たい視線を認識したのか、桜花は小首を僅かに傾げ、一人だけ疑問符を抱えているようだった。
「まぁでも、嵯峨野さんがこの男に襲われていないようで何よりだわ」
「お前は一体俺のことを何だと思ってるんだ……」
「あら。そういう心配をしない方が不自然じゃないかしら。そもそも男女の高校生二人がひとつ屋根の下なんて、はしたないわ」
「それは俺も思わないことないけどな。そもそも好きでこうなったわけじゃないし」
霜宮はくすくすと小さく笑う。それ、そんなに可笑しなことか?
「嵯峨野さん。貴女の部屋に案内してもらってよいかしら?」
「あ、いいですよ。こちらです」
まだ霜宮がこの部屋に来て、三分と経っていない。が、俺との会話を簡単に済ますと、さっさと桜花の部屋へ移動しようとする。そもそもこいつ、何しに来たんだっけ?
ちょっとばかし不気味だ。普段の霜宮の行いがあれなだけに。
「なぜ貴方までついてくるのかしら?」
「監視」
「あ、そう。別にいいけど」
俺は桜花と霜宮の後について、桜花の部屋へと連なって入っていく。ていうか男子である俺が女子である霜宮の監視とか、普通逆だろって思うだろ? ところがどっこい、こいつの常識外れな性格は俺の期待を悪い意味で裏切ってこない。安全安心などではなく、危険不安でしかない。
が、そんな霜宮が桜花の部屋に入って何をしたかと言えば、若干斜め上な想定外の言動を取った。まず部屋の中をきょろきょろ見渡して、目的となる対象を探し始める。てっきり霜宮がくれたカメレオンのぬいぐるみ、通称『カメくん』を探してるのかと思ったが、そもそもカメくんは今俺の部屋で預かってるし、この部屋にはいない。
ではなく、部屋の隅に別のものを見つけて、その前に霜宮は腰を下ろしたのだ。
礼儀正しく、正座を組む。
霜宮の柔らかい視線の先にあるのは、例の木箱だった。
ひとつ息をつき、無言の顔の前に、両手を合わせる。
彼女は目を瞑り、ゆっくりと頭を垂れた。
長い沈黙が続く。時間にするとおよそ三十秒ほどだったか。それでも、一秒一秒の時間が重い。今何が起きているのだろう。俺にはさっぱりわからない。やがて霜宮がその美しい顔を上げると、今にも何かがわっと噴き出してきそうで、それを必死に堪えてるようにも思えたんだ。
「あけみん、もしかして……」
ただの聞き間違えだったかもしれない。俺の隣でその様子を見ていた桜花が、小さい声でそう呟いたような気がした。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
読んでくださり、ありがとうございます。
次回、木箱の正体、ついに明らかに!??
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