幻想の中のAI
協議の結果、桜花の許可があるときに限り、霜宮はこのカメレオンくんへインターネットアクセスすることが許されることとなった。その間違えなく弁解にしか聞こえなかった霜宮の話によると、あくまでこいつは桜花を楽しませるために創ったものであり、桜花の、桜花による、桜花のためのぬいぐるみであることを、しっかり強調していた。
その言葉、そのまま桜花を霜宮にひっくり返したら、俺も納得できたんだがな。
「釈然としないわ。どうして貴方に覗き魔のような疑いをかけられているのかしら」
「俺にはそこに疑問を抱く方が釈然としないんだがな」
「でもこのヤモリ可愛いからいいじゃないですか。わたしこれ、大好きですよ」
だからヤモリじゃなくてカメレオンな。どう違うのか説明できる自信ないけど。
「ところでこれ、俺達を監視する以外にどんな機能があるんだ?」
そう霜宮に尋ねると、キリッとした瞳で睨まれる。但し、いつもより若干温度高めな視線である気がするのは、俺のただの思い過ごしかもしれない。
「表情を作り出すことと、鳴くことくらいかしら。中に小型のLLMを内蔵しておいたから、私達の会話の内容を把握して、反応するくらいなら容易にできるわね」
「エルエルエムだと……? 微妙に物騒だな」
俺がそう反応すると、その瞬間カメレオンくんの首と目元が微かに動く。何とも言えぬ視線によって、睨めつけられてしまった。おいまさかこいつ、攻撃手段とか持ってたりしないよな?
てゆかそれ以前に、実際のカメレオンって鳴くことあるんだっけか?
「あの……えるえるえむって、なんですか?」
そう尋ねたのは桜花だった。あぁそうか。桜花の部屋にはパソコンという類のものがない。スマホですら大概放置気味の桜花にとって、今時のインターネットというものは完全に未知の領域なのかもしれない。
「巷で呼ばれている『AI』の心臓部分のことね。機能としては単純な次単語予測でしかないわ。ただあまりにも流暢な単語予測をしてくるものだから、人はその連なった単語の羅列を読んで、AIと会話した気分になってしまうらしいの。……ふふっ。あまりに滑稽な話でしかないけれどね」
俺の理解もおよそ一致しており、間違ったことは言ってないと思うのだが、そもそも霜宮は今時のAIとやらをどう解釈しているんだ?
「胡散臭いわね……。自分でこんなもの創っておいてなんだけれど」
少し俯いた霜宮の表情が僅かに曇る。ふと何か忘れ物を思い出したような、そんな表情にも写った。
「でも、いいんじゃないですかね。何もないよりは、何かがあった方が」
まるでそんな忘れ物の記憶を共有したかのように、桜花は言葉を繋ぐ。
俺は、この二人のやり取りを幻想の中で聞いてるような、そんな気配を感じた。
「嵯峨野さん。今度、貴女のお宅へ伺ってもよいかしら?」
「はい、いいですよ。ぜひうちに遊びに来てください」
躊躇なく一つ返事で答える桜花であったが、そのお宅っていうのは俺が住んでることも忘れていないか? 霜宮がうちに来るって……何か妙なものを仕掛けられそうで嫌なんだけど。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
読んでくださり、ありがとうございます。
ところで『LLM』って一般用語なんだっけ??(多分違う)
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