緑色した桜花へのプレゼント
「お疲れさまでーす。お二人とも、何してるんですかー?」
超絶に微妙な空気だった化学室をその勢いのままに吹き飛ばすかのごとく、化学室のドアがぱんと開き、飛び込んできたのはやっぱり桜花だった。時刻にして十六時四十五分。あと一時間ちょっとで部活動の時間も終わりとなる。生徒会役員ならではの重役出勤ぶりだ。まぁこの部活、普段から何してるわけでもない平凡な部活だし、遅刻大歓迎なとこあるけどな。部長の態度としてそれが正しいかは別として。
「貴女にあげるお人形を作っていたのよ」
「お人形さんですか!!?」
ん……? 見ると霜宮の二つの手のひらの上にはちょこんと乗るサイズの、濃厚な緑色したぬいぐるみがそこにあった。なんだあのいかにもな不気味な物体は?
「ヤモリ……ですか?」
「カメレオンよ」
「ヤモリと…………何が違うのですか?」
「大して違わないわ」
そうか。違わないのか。全然わからん。
桜花はそれこそ小さな女の子がはしゃぐように、目をまん丸くさせて、興味津々にカメレオンのぬいぐるみとやらをじっくり眺めている。そのままほっといたらカメレオンが発する独特な緑色が、桜花の目の中に移ってしまいそうな気がした。てかそれ、本当に毒とかないの?
「いろいろツッコみたいとこだが、とりあえず、なんでカメレオンなんだ?」
疑問その一。あくまで純粋で素朴な、どうでもいい質問から俺は始める。
「前に海で見かけたのよ。あの日から私が作るものは全てこの形にしているわ」
「海にカメレオンなんているのかよ!?」
なるほど全然話がわからなかった。もしかしたら近くでペットとして飼われてたものが逃げ出したとか、そういうことかもしれない。霜宮がこの形のどこに惹かれたのか、さっぱりわからないのはそのままだが。
「いいじゃないですかカメレオン。うちに置いとけば家とか守ってくれそうですし」
いやだからそれカメレオンな。ヤモリじゃないってさっき言ってたよな?
「で、なぜこれを桜花に?」
「あら。貴方も欲しかったの?」
そういう話じゃなくて、いつから物理文芸部は手芸部になったのかって話だ。確かに『芸』の一文字だけは正解だが、少なくとも物理化学部も文芸部も一ミリだって手芸部要素はない。
「でもこれよく見ると目の中が少し黒光りしてますよ? 中に何かあるんでしょうか?」
「さすが嵯峨野さん。よく気がついたわね」
は……? 目の中に何かある……だと??
「両足から電気が供給されて、目の中のカメラが動く仕組みになっているの。この子を嵯峨野さんの部屋に飾るときは、こちらの充電スタンドの上に置いてもらえると助かるわ」
「俺と桜花の部屋を監視する気満々じゃねーか!!」
桜花が手にしていたその物騒なカメレオンとやらを、俺は慌てて一旦さっと取り上げる。確認すると、桜花が黒光りしてるといったその目の中の正体は、超小型カメラだった。ご丁寧に両目に一つずつ、合わせて二個付いている。
それだけではない。開けると舌が飛び出す口の最奥には、超小型マイクまで備え付けられていた。カメラ二つとマイクが一つ、そして四本の足には充電スタンドから供給される電気供給口まで存在する。間違えなくこいつの腹の中にはそれらを一つで繋ぐチップセットとやらが入っているのだろう。
その精巧な完成度に、俺は絶句し、恐れおののくしかない。確かに数分前、霜宮は『AIを書いている』とは言った。その正体が俺と桜花を監視するこのカメレオンであったとは、誰がどう予想すれば当てられるというのか。
すみませんこの女子やはりちょっと物騒なので通報してよろしいでしょうか?
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
読んでくださり、ありがとうございます。
ちなみにこんなぬいぐるみプロでもそうそう作れません(棒)
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