女子の部屋にある秘密の木箱
「なぜ貴方は黙っていたのかしら? やはり桜花とやましいことをしていたからではなくて?」
霜宮はそう言うと、まるで人間ではない野獣を見る目つきを浮かべ、少しばかり俺から距離を取った。だが霜宮が化学室を見回しても、今ここにいるのは俺と霜宮の二人だけ。そのことに霜宮は気づくと、さらに俺から距離を取る。ついさっきまで俺を間近で見下していたくせに、あっという間に三メートルほどの空間が俺と霜宮の間に出来上がってしまった。
つか俺がこんな教室で何をすると考えているんだ? あり得ないにも程がある。
「あらぬ誤解を招きそうだったからだよ。あの桜花相手にそういうのありえないだろ?」
「つまり、桜花ではなく私ならそういうことがありうるってことね」
「話の飛躍しすぎだ!!」
てゆかここで言う『そういうこと』ってどういう意味だ? あ、最初に言ったのは俺の方だったか。何はともかく、あの桜花だぞ? 言動の精神年齢がおよそ中学生で止まってるかのような女子相手に、文字通りの妹として見ることはできても、そういうのはさすがにないだろ。
「ということは……私も桜花も貴方には女子として見られてないってことね」
「あ、ああ。まぁ、そういうことになる……かな?」
「サイテー」
「おい今のどう答えるのが正解だったんだよ!!」
その目は覇気のないとろんとした灰色の瞳へ変わる。品格そのものを感じない、半オクターブ下がった棒読みの声音だった。まぁ女子として見るなら桜花より霜宮の方がありと言えばありなのかもしれないが、めんどくさい女子というのもそれはそれで勘弁だ。
ま、こういう関係の方がお互い身のためで、それならそれでいい気もするけど。
「そんなことより、霜宮は木箱の中身って何だか知ってるのか?」
「木箱……?」
こんな話を続けても埒が明かないと考え、話題を変える。が、その話を持ち出した瞬間、霜宮の声はさらに半オクターブ下がってしまう。元の声からすると合計一オクターブ下がったことになり、こいつの多彩な表現力にも思わず感心してしまうほどだ。声優でも目指してるのかな?
「……そう。やっぱしあれは桜花が持っていたのね」
「ああ。本人は中身を何だか忘れてるようだけどな。って俺の質問の回答になってないんだが」
「おぞましいわ。それを、こんな場所で回答するのは」
「なんでだよ!??」
いよいよ話が会談じみてくる。母はそれが成長するものと答えてみたり、霜宮に至ってはおぞましいとまで言い出しやがった。いやだって桜花の部屋の隅に無造作に置いてあるごく普通の木箱だぞ? もし仮にそれがそんな物騒なものだとしたら、俺の隣の部屋に置いてあること自体が実は間違えなんじゃないかって。
やだよ夜中に木箱が勝手に暴れ出すとか。俺寝るのが怖くて眠れなくなるんですけど。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
読んでくださり、ありがとうございます。
そろそろ木箱の中身も核心に迫ってきましたね(ほんとか?)
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