キバコタケノコと既読スルー
俺のスマホに着信があったのは、ちょうど霜宮が『AIを書く』作業に戻ったのと同じタイミングだった。霜宮は俺と少しだけ会話できたことに満足しているようで、顔がいつもより穏やかなそれになり、元に戻る様子もない。もしかしてこいつ、普段から誰かとの会話欲求に飢えているのだろうか? ふと教室の中のぼっち霜宮の様子を思い出し、俺は密かに合点してしまっていた。
ズボンのポケットからスマホを取り出すと、着信は既読スルーをスカしていた母からだった。恐らく仕事の一区切りの合間に電話をかけてきたのだろう。大切な打ち合わせが終わったばかりとか、そんなタイミングで母は俺によく電話をしてくるのだ。
「あ、タイシ。やっと出てくれた」
「なんだよ母さん……」
やっととか言う割に、声は穏やか口調。特に急いでる様子はないようだが。
「あんたが今更な話題をチャットに入れてきたりするから、こうして忙しい合間を縫って電話かけてあげてるんじゃない。……ぷぷっ。奥手な男の子は損するわよ? 桜花ちゃん可愛いんだし、いつどこで獣のような男子が狙ってるかわからないんだから」
「あー、確かに」
今朝はそんな話を北何とか君としたばかりだ。彼が獣かどうかは置いといて。
てか奥手とか損とかその辺りは何の話をしてるのかちっともわからんのだが。
「それより、木箱知らない?」
「キバコ???」
だから何が『それより』だよ。こっちが聞きたかった話はどうした!?
「そう。私もちらっとしか実物を見た記憶はないんだけどね。多分まだ存在してるとしたら、見た目は木箱の状態してると思うのよ。もしかして桜花ちゃんの部屋にあるんじゃないかなーって」
「それ、十五センチほどの立方体の形した木箱のことか?」
「あー、二年前に見たときはそれくらいの大きさだったかも。あれから大きくなってなければ、今もそんなもんかもねー」
「え。あの木箱って成長するものなの!??」
木箱と言えば、桜花が大切そうに抱えていたあの木箱のことだろう。もっとも桜花はそれを俺に触らせもせず、しかもそれが何であるのか完全に忘れているようだが、まさか成長するものだったとは。
そういえば世間一般的には、キバコタケノコ論争ってのもあったな。キバコとタケノコのどっちがよりよく成長して、美味しく食べられるか?みたいな話だっけ。
「まぁいいや。そっちの手続きはこちらで済ましておくから、桜花ちゃんにヨロシクね!」
「あ、おいちょっと待て」
んなくだらないこと考えてる暇はなかった。これはいつもの母の電話のパターンだ。俺は慌てて反応してみるが……。
「あら残念。ちょうど上司に呼ばれてしまったわ。じゃあまたねー」
ぷー、ぷー、ぷー。
明らかに上司とは縁もゆかりも感じない温かみのある声で、電話切りやがった! 結局俺が聞きたかったことなど最初から全てスルーするつもりだったようだ。一体どれだけ既読スルーを決め込めば気が済むんだ?
「ねぇ。木箱って、あの何も装飾もないただの木箱のことよね?」
「え……?」
俺が怒り心頭スマホと睨めっこしていると、今度は絶対零度の声音が頭上から降ってくる。椅子に座ったまま電話をしていた俺の眼の前には、サイズ的には控えめな女子の胸元……おっと、俺は慌てて視線を上方へ逸らすと、腕を組んだ状態で俺を見下している霜宮の姿があった。ちょっと待て。俺何か悪いことしたか?
「なぜ貴方の母親が、貴方にそれを電話で確認しているのかしら? そんなの一緒に住んでいれば、改めて確認するまでもない話よね?」
「ん…………???」
お、おう。話の流れを理解してきたぞ。そういえば霜宮にはまだそのことを黙ってたんだっけ?
「まさか貴方、桜花とひとつ屋根の下で飽き足りず、二人きりでの同棲を強要してるんじゃないでしょうね?」
「いやいや待て。つか言い方!!!」
同棲の意味は何であって、俺は何に飽き足りず何を桜花に強要してるって?
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
嵯峨野千鶴: 泰史の母親。お仕事忙しい
北何とか君: 名前、なんだっけ?
読んでくださり、ありがとうございます。
ちなみに私はタケノ・・・おっと、戦争になるのでやめとこ
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