物理文芸部の陰謀
放課後の化学室にキーボードを叩くカタカタ音が二つ、静かに響く。
そもそも部活動ってなんだろう?
体育会系の部活であれば、誰かと何かを競って、次は必ず勝つため、日々練習を続ける活動のこと。文化系であれば、例えば吹奏楽部ならコンクールで一つでも上の賞を取るため、日々個人練したり皆で合奏したりするはずだ。あ、コンクールのためだけに吹奏楽やるって実は相当精神力を擦り減らすらしくて、部員同士言い争いが始まって、部活が崩壊してしまうこともあるのだと、妹の英葉が言ってたな。英葉が友人からそう聞いたって話だったか。ソースはよく知らんが、確かにそんなアニメを観た記憶なら俺にもあったわ。
話を戻して、そもそも物理文芸部って結局何する部活なのだろう?
ちなみに俺は部長だ。ただし部長権限は皆無に等しい。気づいたら桜花に勝手にそうされてただけだ。てゆかさっきからパソコンを無言で弄り続けてる霜宮は『集中してるから声かけるな!』オーラがもの凄いし、桜花は桜花で今日も生徒会室で作業があるらしくてこの場にはいない。
時計の針はおよそ十六時半を指していて、窓の外はまだ大分明るい。俺は辛うじて日の光が入ってくる化学室の入口付近で、ただの元文芸部員として小説の続きを書く他なかった。それにしても、少し寒いな。
そういえば桜花の話によると、元物理化学部員は霜宮の他に三年生が二人いるらしかった。そういう点では元文芸部もほぼ似たような状況だ。俺の他に、三年生が一人だけいた。で、桜花はその先輩方にも物理文芸部の入部を誘ったらしいのだが、三年生は三人とも『受験勉強の方が忙しいからほぼ行かないけど名前だけ入れといて』という回答だったとのこと。
つまり物理文芸部は一年生が俺と桜花と霜宮の三人、三年生は全員幽霊部員が三人とで、計六人ってことになる。確かうちの高校の部活動最低人数は五人だって生徒手帳で見た記憶があるから、なるほど人数的には桜花の絶妙なアイデアによって、最低要件を満たしたってことか。
物理化学部と文芸部を強引に合体させて物理文芸部ってのはやり過ぎだと思うがな。
そもそも『化学』はどこいった!?
「ねぇ。貴方、さっきから何をしているの?」
唐突にどこか殺気だった霜宮の声が、化学室の反対側からようやく届く。というのも俺は化学室の入口付近に座り、霜宮は化学室の最奥付近に座ってそれぞれ作業をしている。特に深い意味はなく、気づいたらこうなってたと。
「小説を書いてる。何か用か?」
ちなみに今俺が書いているのは、『文芸化学部の陰謀』という昨日から書き始めたばかりの小説だ。ネットで公開することを前提にしていて、一応毎日更新し続けようと考えている。なお何をモデルにして書いてるかは言わずもがなだろう。
「特に用はないわ。ただ、こうして黙っていられると少し薄気味悪いと思って」
「それはお互い様だからな。そっちこそ何してるんだよ?」
「AIを書いてる。今はバグがないか、デバック中ね」
えっと、そもそもAIって、書くものだったっけか??
すると彼女は僅かに微笑み、不釣り合いな小さなえくぼをその白い顔へ描き上げた。
……おっと、これは今俺が書いてる小説の中の一文。決して霜宮のことではない。
たぶんな。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
嵯峨野英葉: 泰史の実妹。ロンドン在住
読んでくださり、ありがとうございます。
そういえば皆さんの高校に物理化学部ってありました?
うちの学校は、あったような、なかったような・・・?(?)
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