義兄と義妹
「なぁ。桜花さんの好きなタイプって、どんなやつか知ってるか?」
「知らねーな」
「……そっか」
北何とか君は明らかに人を疑う視線で俺の顔をまじまじと見てくる。さすがにこれは少し気味が悪く、俺は一歩後ずさった。俺の顔に何かついてるのか? そんなぶっきらぼう面を見せつけられたところでとにかくきしょいとしか言いようないんだが。
「だったら嵯峨野が桜花さんの好きなタイプを調べて、オレにこっそり教えてくれねーか」
「なんでだよ。自分で調べればいいだろそんなの」
純粋にめんどくさい。しかも相手はあのめんどくさい桜花とか、めんどくさいの二乗だ。
が、俺のそんな答弁が気に食わなかったのか、北何とか君の顔はより険しいものとなった。こいつもこいつで十分めんどくさいな。てか最近の俺の周りってそういう連中が増えてきてないか? 他には主に、霜宮とか霜宮とか。
「なぁ。なんでそんな非協力的なんだよ? やっぱしお前、桜花のことが好きなのか?」
「だからありえないってんの。そもそもお前こそ桜花のこと、どこまで知ってるんだよ?」
が、北何とか君はあまり想定してない質問だったのか、鳩が豆鉄砲で打たれたような顔……って俺もそれってどんな顔かと思わないことないが、とにかく鳩があっけらぽかんとした顔を浮かべていた。ごつい柔道部員(仮 ※実際は何部か知らない)がそんな顔もできるのかと知ると、それはそれで愉しくも思えてくる。もしかして変顔大賞にノミネートできる? うんもちろん口には出せないけど。怖いし。
「んっと…………可愛い?」
「それだけか??」
まぁあいつを可愛くないと思う男子などほぼ皆無だろう。性格はさておき。
だが北何とか君は、さらにじっくり考えて、悩みこみ、悩みこみ……。それから数秒間、さらに悩んで……って、どんだけ待たせるんだ? こいつ、本当に桜花のことが好きなのか??
「なぁ……。桜花さんって嵯峨野から見て、どんな人なんだ?」
「俺に全振り!??」
唐突に、逆質問が返ってくる。実にはた迷惑なやつだ。
「あれは…………俺の義妹だ」
「んなことはわかってるよ!」
だが俺の一次回答も酷いもんだ。まさかこいつに突っ込まれるとは思わなかった。一体この会話、どっちがボケでどっちがツッコミなんだろ?
「義妹なんだけど……なんて言えばいいのだろう。俺も桜花のことをほとんど知らないから、それが怖いって感じる時がある。もしかしたらこの何気ない一言で、実は内心傷ついてるんじゃないかとか」
「? ……どういう意味だ?」
はて。こいつにどこまで話していいのだろう。俺は慎重に一つ一つの言葉を選んでいた。まさか桜花が過去の記憶を失っているとか、そんなことは話さないほうがいいだろう。どこまで情報を開示すれば、桜花は同じ教室にいるクラスメイトの中に溶け込むができるのだろう。そんなことを考えながら、頭の中を整理していた。
「あいつ、見た目以上に繊細でさ。だけどあの笑った顔がとてつもなく儚く、美しいと思えるんだ。俺はあの顔を、絶対に壊したくはない。桜花の全てを、俺が守ってやりたいというかさ」
それはまるで、眩いばかりのガラス細工のようで。触れた瞬間、ぱんと弾け飛んでしまうんじゃないかという恐ろしさがある。一度壊れたら元に戻すことも難しくて、もしかしたらもう二度と戻らないかもしれない。
実際に、桜花は霜宮のことを忘れている。過去に何があったか俺にはわからないが、あの様子、桜花にとって霜宮は数少ない友人だったように思う。もし過去の桜花に霜宮のような友人が他にもたくさんいたら、登校拒否なんてことにならなかったんじゃないかと。
一度壊れてしまった桜花を、もうこれ以上、壊すこともないようにと。
「ふーん。つまり嵯峨野は、桜花さんのお兄さんをやっているんだな」
「そう……かもしれないな」
少し恥ずかしい会話をしてしまった気がする。ただその結論で、どこか腑に落ちない自分がいることに気がついていた。桜花を守りたい。なるほど確かに俺は、良い義兄でいることを望んでいるのかもしれない。
でもそれは本当に、兄が抱く感情なのだろうか。
別に兄とかじゃなくても、そんな言葉だけの関係、俺には関係ないとも思えたんだ。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
北何とか君: 名前、なんだっけ?
読んでくださり、ありがとうございます。
とりあえず同じ年の義妹との距離感って大変そうだなぁとかとか
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