朝の教室、ホームルーム前
四月の青々とした匂いが爽やかな風に運ばれ、窓からすっと入ってくる。来週には連休も始まるせいか、朝のホームルーム前の教室はやや騒がしい感があった。近場で遊びに行ける場所を探し合ったり、今上映されてる映画を確認し合ったり。なるほど。これが高校生の青春とかいう何かであるのか。ふむふむ……。
お気づきだろうが、俺にはほぼほぼ関係なかった。そもそも中学時代に親しくしていた数少ない友人は全員別の高校へ通っているし、まだ入学して間もない高校で、まともに会話できる友人がそんなすぐにできるものなのかと不思議に思ってるくらいだ。
俺は鞄の中にあったラノベを取り出して、栞が挟んであったページを開く。俺の友人はラノベ。別にそれでいいだろ?
そういえばとふと思い出し、俺はこの教室にいるはずの二人の女子生徒のことを視線で追ってみた。と言ってもその二人は、俺の左隣と、真後ろの席だったりするんだけどな。名前が近いせいか、自ずとそうなっていたようだ。もっとも昨日まで真後ろの女子生徒の名前を完全に忘れていたわけだが、今はしっかり覚えている。決してどこかの誰かみたいにその名前を忘れてしまったということはないようだ。
左隣の女子は、一番窓側の後ろから二番目の席だった。いつもの日課なのか、窓の向こう側にある雲の数をぼんやり数えている。未だ中学生と見間違われそうな小柄でひょろりとしたその体型は、幼すぎる顔立ちも相まって、彼女の席の周辺だけ、中学校の一部分の光景を彷彿させていた。これが実は学年トップの秀才なんだとか、皆が知る時が来たら、驚愕の嵐に教室全体が飲み込まれるだろう。
なお、当然彼女はそんなこんなでクラスぼっちである。
次に俺は身体を反転させて、真後ろの女子に視線を向けた。向けた瞬間、睨まれた! 怖い!! 慌てて俺は無言で頭をペコリと下げ『おはよ』の意思を示す。向こうも小さくペコリと下げると、口を小さく動かし『おはよ』もしくは『どうも』とでも言ったようだ。もちろんそんな声小さすぎて聞こえるわけがない。互いにごく簡単な会釈だけ済ますと、彼女は人を一人殺せそうな分厚い本の続きを黙々と読み始めた。なるほどそれは紛れもなく物理文芸部の備品ですね。非常にわかりやすくて光栄です。
なお、やはり彼女も見ての通りクラスぼっちである。
つか、物理文芸部って本当にクラスぼっちしかいないのか!?
こういう表現もなんだが、桜花だって霜宮だってクラスでも上位の美人の部類で、男子からの人気がない方が不思議なくらいなんだ。だが、桜花は桜花で教室では無言の不思議ちゃんをやっているし、霜宮に至ってはとにかく近寄るなオーラがすごい。むしろ霜宮の方は素でそれをやっているのかわからないのだが、それあまり得になることないだろうし、やめたほうがいい気がするんだけどな。まぁ単に俺が怖いだけなんだけど。
「なあ嵯峨野。ちょっといいか」
と、俺のブレザーの裾をきゅいきゅいと引っ張り、野太い声をかけてきたのは、教室の廊下側の方に座る男子生徒だった。名前は確か、北田だか、北野だか、北なんとかさんだったことだけは覚えている。
人の名前を覚えないことに定評のある俺が、なぜ名前の一部分だけでも覚えているかって、そんなのは簡単だ。彼は普段から桜花の方へ視線をちらちら送っていることに、当然気づいているから。とはいえ話聞くだけならと思う俺は、彼の動きに合わせるように、桜花の姿が見えなくなる廊下へと連れ出されていた。
何度でも言おう。俺はシスコンではない。
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
北何とか君: 名前、なんだっけ?
読んでくださり、ありがとうございます。
高校の教室のクラスぼっちって必ずどこかに・・・
ちょっと重い思い出になるのでこれはやめときましょう(?)
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