齟齬 4
時間がかなり経った…………。周囲はやはりシンとした空気が漂っている。機体の中からは風の音が聞こえない筈なのに、何故かやけに強い風が吹いているような音が聞こえるような気がした。
今、戦況はどうなっているんだろう。
そう思いながらも前のように持ち場を離れたい、とは言い出さない。
クララはひたすらに西の山を見続ける。
「クララ兵長」
その時、フランチィスカの声がヘッドフォンから聞こえてきた。通信は第九部隊専用にしてある。
「なんでしょう」
「私達、このままでいいんでしょうか」
「……第九部隊の任務は、トリューベ国の増援の注意です」
「けれど。悪い状況に追い込まれていたら……」
「…………」
緊迫した状況だというのに、クララはわずかに口元を緩ませた。
私が前にエーレント伍長としたやり取りと同じことをしている。
「もしかしたらそれが相手の狙いかもしれません。私達が離れ離れになるのを狙って一気に襲撃、という作戦かもしれない」
「…………」
私が今、前のようにこの場を離れたいと言い出さないのは、前エーレント伍長のおかげだ――。
私もフランチィスカ達に何かを残したい。
――第九部隊は早めの解散になる――
シュティルから言われた言葉がずっと突き刺さっている。
私が第九部隊に残せるもの――――か。
「……分かりました」
フランチィスカのがっくりとした声が聞こえる。
いつかフランチィスカにも分かる時がくる。そう信じるしかない。
「あのー……」
フランチィスカに続いて、今度はゾイヒェの声が聞こえてきた。フランチィスカと違って、全体の通信にしてある。
ゾイヒェは現伍長のランツェの返事を待つことなく、言葉を続ける。
「このままだとマズいと思うんです! 本当は、本当はっ。もう、負けていて。皆、死んでいてっ」
「……っ」
ゾイヒェは完全にパニックになっている。いや、普通はパニックになるものだ。誰からも指示がない、戦況がどうなっているかも分からない。
情報が何もなく、ひたすら待つ――――というのは、かなり神経が削れる。
「ゾイヒェ、少し落ち着いて」とクララは声をかけるものの、ゾイヒェは止まるどころか早口でまくし立てる。
「皆さんだって、危機感があるでしょう!? このままここにいていいんですか!? 行動を起こすならっ、今しかないんですよ!!!」
まるで演説家のような口調だ。その口調に圧されてか、第四部隊の「たしかに」という声がヘッドフォンから聞こえてくる。
「ここで手遅れになって、誰かが死ぬようなことは嫌なんですよ! だから僕……。先に行きます!」
「ちょっと!」
クララが止める間もなく、ゾイヒェの機体は砂埃をあげ急旋回した。あっという間に、機体の姿は小さくなっていく。
さらにあろうことか。第四部隊兵長のハイトまでゾイヒェに続き、その場を離れてしまった。
「っ!」
もう滅茶苦茶だ。このまま総崩れしてしまう。
一度引いた汗がボタボタと手の甲に流れ落ちる。
その間にも、兵長のハイトの後を第四部隊の部下たちが追おうと機体を動かしている。
……っ。なんとかしないと。
クララは一気に操縦桿を傾ける。
この距離なら、アードラーの方が速い。
だが。クララが前に出るより早く、フックスが第四部隊の前に立ち塞がった。
「止まりなさい」
決して大声ではない。だが背筋を伸ばしてしまうような凄まじさが声にこもっている。
ランツェの声で第四部隊の機体が一気に停止した。
「クララ兵長」
「…………はっ」
一段と低い声で呼ばれ、少し反応が遅れてしまった。
「私は第四部隊を地下に送り届けてから、ハイト兵長とゾイヒェを連れ戻します。クララ兵長はこのまま増援の注意をお願いいたします」
「はっ」
「……では。第四部隊のお二人は私の続いて下さい」
ランツェの言葉に第四部隊は大人しく後ろをついていった。機体が見えなくなってからクララは深くため息を吐いた。
ここから一人で立て直さなきゃいけないのか……。
肩がグッと重くなる。
クララは背を丸めてさらに深いため息を吐いた。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
ここは書いていて「あ~」と自身でも疲れながら書いていました。
ゾイヒェはともかく、ハイト兵長みたいな人っていますもんね……。




