第55話 底知れぬ陽キャオーラ
「いいよな? 騎士様」
「変な呼び方をするな。僕の名前はジュレンだ」
「おう、ジュレン。よろしく」
にかっ、と効果音がつきそうなほど純粋な笑顔。薄暗く張り詰めた空気を一瞬で吹き飛ばす、底知れぬ陽キャオーラがやけに眩しい。
「恨んでないの? 私たちのこと」
「お互い様だろ。俺の方が少しワリを食った気もするが、これ以上いがみ合う必要はねえしな」
彼の脳内では、すでに過去の出来事として綺麗に損得勘定が済んでいるらしい。心底納得しているその態度を見せられると、こっちがなんだかひどく大人気ないように思えてくるじゃない。
「私はアイサよ。いろいろあったけど、よろしくね」
「おうよ」
拘束を解き、恐る恐る伸ばした手を、彼が力強く握り返す。淀みない笑顔に、真っ直ぐで純粋な瞳の光。見つめていると、不意に深い沼へと引きずり込まれそうになる。サイコパス特有の、抗いがたい魅力というやつね。
いろいろと耐えきれず、私たちは視線を逸らしてレジャックの被害者たちへと目を向けた。
「酷い表情だ……」
「ちょっとあんた、いい加減に解除しなさいよ」
「してるっつうの。そっちのジュレンを見りゃわかるだろ」
確かに、能力自体は解かれているみたい。けど、限界を超えた苦痛に浸され続ければ、こんな虚ろな感じにもなるか……
「ちなみに殴るだけじゃなく、いろいろ脅したりしてない?」
「そう思うのなら、今この場で俺をぶっ倒してもらって結構だぜ」
レジャックはあっさりと無防備な首をこちらへ差し出した。この度胸には、感心させられっぱなしだわ。
「ただ、こいつらは元から戦う意志も、痛みに耐える力もない。だから生かしておいただけだ」
「もう……解放して……。傷つくのは……嫌」
焦点の合わない瞳をこちらに向けた被害者たちに、縋るような弱々しい声でお願いされる。
「どうする?」
「これ以上苦しまないように、眠ってもらいましょう」
「……そうだね」
静かに、手にした麻剣を彼らに突き刺す。もう痛みも恐怖もない、安らかな仮死状態へと導く。今の私にできる最大限の救済だ。
「俺からすりゃただの現実逃避だが、こっちのほうが幸せなのかもね」
「単なるその場しのぎじゃないわよ、これで撃破数に加算されるから。あなたか私のどっちかは知らないけれど」
予想外の言葉だったんだろう。レジャックはしばらくの間、間の抜けた顔でポカンと口を開けていたが、やがて面白がるように「ヒュウ」と口笛を吹いた。
「すげえな。裏技みてえだ」
「この力で、このふざけた戦いと王の野望を終わらせるの」
「野望、ねえ。そんな血の通ったもんじゃねえと思うけどな」
誰の耳にも届かないような微かな声で、レジャックは一人、意味深な言葉をポツリとつぶやいた。




