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悪役令嬢だって暴れたい。婚約破棄の絶望から一転、溺愛される悪役令嬢に転生した私が、99人の兄弟と最低の父親を眠らせるまで。  作者: mania
4章 レジャック

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第55話 底知れぬ陽キャオーラ

「いいよな? 騎士様」

「変な呼び方をするな。僕の名前はジュレンだ」

「おう、ジュレン。よろしく」


 にかっ、と効果音がつきそうなほど純粋な笑顔。薄暗く張り詰めた空気を一瞬で吹き飛ばす、底知れぬ陽キャオーラがやけに眩しい。


「恨んでないの? 私たちのこと」

「お互い様だろ。俺の方が少しワリを食った気もするが、これ以上いがみ合う必要はねえしな」


 彼の脳内では、すでに過去の出来事として綺麗に損得勘定が済んでいるらしい。心底納得しているその態度を見せられると、こっちがなんだかひどく大人気ないように思えてくるじゃない。


「私はアイサよ。いろいろあったけど、よろしくね」

「おうよ」


 拘束を解き、恐る恐る伸ばした手を、彼が力強く握り返す。淀みない笑顔に、真っ直ぐで純粋な瞳の光。見つめていると、不意に深い沼へと引きずり込まれそうになる。サイコパス特有の、抗いがたい魅力というやつね。


 いろいろと耐えきれず、私たちは視線を逸らしてレジャックの被害者たちへと目を向けた。


「酷い表情だ……」

「ちょっとあんた、いい加減に解除しなさいよ」

「してるっつうの。そっちのジュレンを見りゃわかるだろ」


 確かに、能力自体は解かれているみたい。けど、限界を超えた苦痛に浸され続ければ、こんな虚ろな感じにもなるか……


「ちなみに殴るだけじゃなく、いろいろ脅したりしてない?」

「そう思うのなら、今この場で俺をぶっ倒してもらって結構だぜ」


 レジャックはあっさりと無防備な首をこちらへ差し出した。この度胸には、感心させられっぱなしだわ。


「ただ、こいつらは元から戦う意志も、痛みに耐える力もない。だから生かしておいただけだ」

「もう……解放して……。傷つくのは……嫌」


 焦点の合わない瞳をこちらに向けた被害者たちに、縋るような弱々しい声でお願いされる。


「どうする?」

「これ以上苦しまないように、眠ってもらいましょう」

「……そうだね」


 静かに、手にした麻剣を彼らに突き刺す。もう痛みも恐怖もない、安らかな仮死状態へと導く。今の私にできる最大限の救済だ。


「俺からすりゃただの現実逃避だが、こっちのほうが幸せなのかもね」

「単なるその場しのぎじゃないわよ、これで撃破数に加算されるから。あなたか私のどっちかは知らないけれど」


 予想外の言葉だったんだろう。レジャックはしばらくの間、間の抜けた顔でポカンと口を開けていたが、やがて面白がるように「ヒュウ」と口笛を吹いた。


「すげえな。裏技みてえだ」

「この力で、このふざけた戦いと王の野望を終わらせるの」

「野望、ねえ。そんな血の通ったもんじゃねえと思うけどな」


 誰の耳にも届かないような微かな声で、レジャックは一人、意味深な言葉をポツリとつぶやいた。

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