第53話 詰みゲー回避
「あれ? 完全に眠らせないのかい?」
ジュレンが立ち上がり、何事もなかったかのように聞いてくる。どうやら、男が気絶したと同時に能力も解けたらしい。あと、多分私の演技にも気付いていたわね……よく見てくれている証拠。
「協力してもらいたいの。リタイアされたら困るわ」
「まさか、仲間に引き入れるつもりか? こんな外道を」
私の手際を眺めていたジュレンが、顔を引きつらせて冷や汗を流しだす。理解してはいる、とんでもないことを言ってることくらい。
「彼の能力は大きな助けになる。私とは相性が悪かっただけで、すごい強者だもの」
それに応用の効く力だ。生け捕りや尋問にも効果的。必要以上に痛めつけないよう、注意を払わせないといけないけれど。
「根っからの性悪だろう。隙を見せれば寝首を掻かれるのがオチだ」
「逆に言えば、他に協力者はいないはず。あんな戦い方と性格だもの」
「……なかなかえげつないことを考えるね」
「手段を選び過ぎてたら、この詰みゲーには勝てないのよ」
『詰みゲー』という聞き馴染みのない言葉に、必死に脳内の辞書を引いている様子のジュレン。ごめんね、そんな言葉はこの世界にはないの。
「君がそこまでして備えようとしている相手……一体なんなんだ?」
「分からない。みんな、ほぼ抵抗できずに、不用品を整理されるように倒されていったの」
脳裏に蘇るのは、あの黒髪の子の、一切の感情を排した無機質な瞳。思い出すだけで、無意識にゴクリと唾を飲み込んでしまう。
「正直、王よりも怖かったわ」
「……」
「それに……なんか、ほっとけないのよね」
作業を終え、足元に転がる男を見下ろしながらぼやくと、ジュレンが深々と額を押さえた。
「君、過去にダメな男と一緒にいたことないかい?」
「うっ……」
図星だ。こういう影のあるタイプに、ちょっとだけ弱い。ほんのちょこっとだけね。




