第50話 痛みの魔剣
「ひっでえ芝居だな。見てるこっちが金を貰いたいくらいだ」
確かに御伽話を語っているのは分かっている。響かない相手だっているのは間違いない……あれ? 目つきは鋭いままだけど、肩が微かに震えている。
感動したとまでは言わないけれど、思うところがあるのかもしれない。そもそも、黙って話を聞いていたこと自体が不思議だわ。
「代金は、お前らが泣き叫ぶ声で払ってもらおうかね」
再び、魔剣がうねりを上げる。相も変わらず風によって鞭の軌道は大きく制限され、速度も完全に死んでいる。……けれど、氷越しに見える相手の唇の端は、ひどく吊り上がっていた。
「届かない武器でどうするつもりだ?」
「舐めすぎなんだよ」
男が手首を捻った瞬間、鞭の先端に仕込まれた無数の棘が、まるで意思を持った散弾のように全方位へ弾け飛んだ。
「ぐっ!?」
耳をつんざくような破裂音。氷の隙間を縫った幾つもの棘が、風を押しのけてジュレンの肉体を貫く。冷気の中に赤い鮮血が混じった。
「届かないと言ったのは訂正するが、この程度で倒れるとでも?」
確かに傷は浅い。決して致命傷には見えない。しかし、男は薄く笑った。
「終わりだよ、何もかも」
「……うあ!?」
ジュレンの体が、糸を切られた操り人形のように跳ね、激しく膝をつく。まるで脳髄に直接熱した鉄の棒を突っ込まれ、かき混ぜられているかのような悶絶を見せる。
「だから、みんな這いつくばって……」
「そう。ま、俺の力は神経に直接火傷を起こさせるみたいなもんだ」
這いつくばるジュレンを見下ろし、男が淡々と種明かしをする。ヴィアダルや私と同じ、搦め手の能力。掠っただけで抗えぬほどの苦痛を与える、いわゆるチート武器。
「アイサ……逃げろ、君だけでも」
「残念。手遅れ手遅れ」
獣のように歯を剥き出しにして、男がこちらへ歩み寄ってくる。急き立てられるように、私は無様に後ずさる。
「あんた、周りから誰もいなくなるわよ! こんなことばかりして!」
「子供か。調教してやるよ」
感情の抜け落ちた、どんよりとした瞳。そして、黄土色の礫が容赦なく私へと降り注いだ。
「あぐうっ……!」
「アイサっ!!」
目と思考が追いつかないほどの圧倒的な速度。避ける間もなく鋭い針が肩と足に深く食い込む。焼け焦げるような激痛と共に、私はその場に崩れ落ちた。
「さて、絶望で歪んだツラを拝ませてもらおうかねぇ、お嬢ちゃん」




