第49話 運命共同体
剣を構えていたおかげでなんとか防げたけど、手がひどく痺れる。無事なのは、完全に偶然だ。
「相変わらず運がいいみたいだが、そう何度も続くわきゃねえよな!」
再び唸りを上げる凶器。肉が抉れるのを覚悟し、両目を強く閉じたーーけれど、それは私たちには届かなかった。
「おん? なんだこの風は」
猛烈な氷の嵐が、見えない壁となって立ち塞がる。
「どれだけ強力な武器でも、止まってしまえば無力にも等しい」
ジュレンが一歩前に出て、『フローズン』の能力を全開にする。吹き荒れる暴風が鞭の軌道を逸らして速度を殺し、私たちを完全に守り抜いた。
「守られっぱなしは嫌なんでね」
彼の真骨頂は、他を寄せ付けない圧倒的な防御力なのかも。ジュレンもまた、私同様に魔剣を成長させていたらしい。
「はっ、ちぃっとばかり面倒くせえのに当たっちまったな」
不敵に笑う。これほどの力を見せつけられてなお、ゲームでも楽しむかのように男はニヤニヤとし続けていた。
「下がれ、アイサ。奴の魔剣は得体がしれない」
確かに。周りで呻いている被害者たちの姿を見ると、ただの武器じゃないんだろう。身の毛もよだつ異能の使い手であることが予想できる。
「お熱いねえ。お前ら、どんな関係だ?」
口元を綻ばせる敵。こいつずっと笑ってんな……とはいえ確かに、私たちってどんな関係って言えばいいんだろう。
軽々しく深い関係なんて言う気はないけれど……ただ利害が一致してるだけと言い切るのは、あまりにも寂しい。
「惚れてんのか? まあ、顔と体は合格だな」
あ゙あ゙ん!? 多少強くて見た目がいいからって、上からいやらしい目線で採点してんじゃあねえわよ。
「浅いな、情緒が子供のまま。人付き合いは誰も教えてくれなかったのか?」
「は? 早死にしてえのか?」
あれ、真顔になった? どうしてここまで凄んでるんだろう。もっと他に血相を変える場面があったはずなのに……どうやら、意図せず神経を逆撫でしたらしい。
「お前が痛めつけた人間や、殺した人間。誰かにとって大切な人だとは想像しなかったのか?」
「何言ってんだお前? 生まれる場所と時代を間違えたな」
「命は平等じゃない。誰かにとっては恐ろしいほど軽く、重たいものだ」
「牧師ごっこはあの世でやってろ。送り飛ばしてやるからよ」
「あの王が僕らを捨てたように、僕らも兄弟同士で争いあっている。ミイラ取りがミイラになったんだ」
男はもう何も言わない。犬に噛まれたとため息をつき、いろいろと諦めたようだ。
「彼女は大切なものを失っていたと、気づかせてくれた」
振り向くジュレンと目と目が合う。数秒にも満たない静寂が、終わりのない時間のように長く、濃く、私たちの間を流れた。
「功罪の大小はあれど、すべての人間が救われるべき。願いは、彼女となら共有できる、託せる、託したい……僕らは運命共同体だ」
視界がふいに滲む。条件や損得だけで繋がっていた薄っぺらで表面的な関係なんかじゃなかった。ヤンの時のように、魂の深いところで共鳴してたんだ。
彼が私をそこまで信頼してくれていたなんて……ならば、私もその背中を、絶対に守らなきゃいけない。




