第45話 前を向いて
ーー
「……ん……」
「目覚めた?」
「……アイサ? 僕は……何日眠っていたんだ?」
「一週間ってところね」
偶然見つけた穴の中で、ジュレンの看病を続けていた。大型動物が掘り進めたようなその窮屈な空間で、ヤンを失った喪失感に胸を掻きむしられそうになりながらも、なんとか耐え抜いた。
「身体の痛みはどう?」
「大丈夫だ。君が診てくれたのか、ありがとう」
ジュレンは、暗い表情を隠しきれない私の様子に気づいたのか、少し声を落とした。
「何か……あったのかい?」
「そうね。色々と」
私はわざと明るい声を絞り出した。無理にでも前を向かないと、ヤンが遺してくれたが全て、水の泡になってしまう。
「先に謝っておくけど、傷口の処置と、汚れた身体を拭かないといけなかったから……色々脱がせてもらったわよ」
「へ……!?」
顔を真っ赤にして、慌ててはだけた服をかき合わせる。その様子を見て、少し笑みが溢れる。
「それにしても、あなた本当に大切に育てられてたのね。身につけてる服、全部最高級品じゃない」
「え? そうなのかい?」
「ちょっと……自分が身につけてるその服、超超超有名ブランドの特注品だって知らずに着てたの?」
「うん……」
キョトンとしている彼を見て、私の中の血が沸騰するかのように騒ぎだす。
「見えない裏地の縫製にまで、ものすごく手間とお金がかかってるってこと! お母さん、あんたの服にめちゃくちゃ愛情と労力を注いでたんじゃないの……」
ファッションが三大栄養素の私を誤魔化せるはずがない。この服の本当の価値と、仕立てさせた人間の深い愛情を知っていれば、こんな能面みたいな顔はしていられないはずだ。
「大人になったときのためにって、用意してくれていたんだ」
「まったく、母親好きならもっと愛の形ってやつに関心を……!」
勢いよく言いかけて、ハッとした。思わず自分の口を両手で強く塞いだ。再び、言ってはいけないことを口にしてしまった。今さら知っても遅いこと。だって、彼が愛したお母さんは、すでに……
「どうして、母親好きだって知っているんだ……?」
「ごめんなさい。私、無神経だった。今の、忘れて」
気まずくて俯く私。だが、ジュレンは怒るどころか、驚くほど真剣な、射抜くような眼差しで私を見つめていた。
「教えてくれ」
「いや、でも……最低のお節介だったわ。本当にごめん」
「頼むアイサ、知りたいんだ。今からでも……母さんは、自分が食べられない日だって何日もあったのに」
飢えてもなお、我が子が将来着る物だけは決して売り払わなかった。それが彼の母親なりのワガママであり、確かな愛の証明なんだ。
私はまるでヤンが乗り移ったかのように、夢中で服の知識を語る。解説するもの全て、私の好みだ。楽しいな、きっと彼のお母さんとは気が合っただろう。
ヤン、私……なんとかやっていけるかもしれないわ。
次から新章始まります。変わらず不定期投稿となります。
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