第44話 半身
「なに……これ?」
斬られたはずなのに、悲鳴もない。痛みもない様子だ。肉や骨を断ち切られたような、生々しい切断面すら存在せず、きちんと皮膚で覆われている。感じていた違和感の正体はこれだ。
「これが……彼女の力」
まるで人形のパーツを外すかのように、分解する。防御なんて意味をなさない、最高峰の能力。私が死を覚悟した、その時だった。
「いたぞ! あそこだ!」
背後から野太い声が響いた。先程まで私たちを追ってきていた、襲撃者の仲間だろう。
「……ふん」
震える私と麻剣、交互に値踏みするように見た後に彼女は鼻で笑った。
「揃いも揃って雑草か。よく今まで生き残ったものね」
ひどくつまらなそうに吐き捨てる。ヤンが降らなかったことに対して、かなり苛立っていて……同時に呆れてもいるんだ。
「草むしりなんぞに、これ以上手間を取られてたまるか」
彼女は振り返る。新たな標的を処理するために、一瞬にしてその場から姿を消した。
「僕は……ここまでのようだね」
上半身だけになったヤンが、痛覚すら奪われているのか、ただ虚ろな目で宙を見つめて微笑んだ。
「君の力で、眠らせてくれないか。生命活動は続いているようだけど……このままではおそらく何日も保たないし、戦えないから」
「嫌だ、一人にしないでよ……!」
私は泥にまみれて泣き叫んだ。さっきまで、あんなに温かい日常を送っていたのに、こんなのあんまりだ。
「一人じゃないよ。ジュレンだっているでしょ?」
ヤンは静かに告げる。死の淵にいるとは思えないほど、穏やかな表情と口調だった。
「あの子と向き合ってわかった。彼女、特別なんだ」
「特別?」
「うまく言葉にできないけれど、何かが違う。……君と同じだ」
ゆっくりと目を閉じる。あまりも唐突な、別れの時がきた。
「頼んだよ。彼女を倒せるのは、君だけだ」
「うぅ……」
涙を拭う。落ち込んでる暇なんてない。あの王は、「望みを叶えてやってもいい」と言っていた。可能性は残ってるわ。ヤンを元通りに治療させてみせる。
私は彼の残された身体をそっと抱きしめた。そして麻剣で彼を深い眠りにつかせた後、誰にも見つからないよう、大木の太い根の隙間深くに隠す。
「ヤン、必ずまたお話をしましょう」
彼との関係は、戦場でたまたま出会っただけの友なんて言葉では括れない。かといって、恋というのも少し違う。もしも言葉で表すとすれば、ヤンは私の――
「半身」




