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悪役令嬢だって暴れたい。婚約破棄の絶望から一転、溺愛される悪役令嬢に転生した私が、99人の兄弟と最低の父親を眠らせるまで。  作者: mania
3章 ヤン

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第44話 半身

「なに……これ?」


 斬られたはずなのに、悲鳴もない。痛みもない様子だ。肉や骨を断ち切られたような、生々しい切断面すら存在せず、きちんと皮膚で覆われている。感じていた違和感の正体はこれだ。


「これが……彼女の力」


 まるで人形のパーツを外すかのように、分解する。防御なんて意味をなさない、最高峰の能力。私が死を覚悟した、その時だった。


「いたぞ! あそこだ!」


 背後から野太い声が響いた。先程まで私たちを追ってきていた、襲撃者の仲間だろう。


「……ふん」


 震える私と麻剣、交互に値踏みするように見た後に彼女は鼻で笑った。


「揃いも揃って雑草か。よく今まで生き残ったものね」


 ひどくつまらなそうに吐き捨てる。ヤンが降らなかったことに対して、かなり苛立っていて……同時に呆れてもいるんだ。


「草むしりなんぞに、これ以上手間を取られてたまるか」


 彼女は振り返る。新たな標的を処理するために、一瞬にしてその場から姿を消した。


「僕は……ここまでのようだね」


 上半身だけになったヤンが、痛覚すら奪われているのか、ただ虚ろな目で宙を見つめて微笑んだ。


「君の力で、眠らせてくれないか。生命活動は続いているようだけど……このままではおそらく何日も保たないし、戦えないから」

「嫌だ、一人にしないでよ……!」


 私は泥にまみれて泣き叫んだ。さっきまで、あんなに温かい日常を送っていたのに、こんなのあんまりだ。


「一人じゃないよ。ジュレンだっているでしょ?」


 ヤンは静かに告げる。死の淵にいるとは思えないほど、穏やかな表情と口調だった。


「あの子と向き合ってわかった。彼女、特別なんだ」

「特別?」

「うまく言葉にできないけれど、何かが違う。……君と同じだ」


 ゆっくりと目を閉じる。あまりも唐突な、別れの時がきた。


「頼んだよ。彼女を倒せるのは、君だけだ」

「うぅ……」


 涙を拭う。落ち込んでる暇なんてない。あの王は、「望みを叶えてやってもいい」と言っていた。可能性は残ってるわ。ヤンを元通りに治療させてみせる。


 私は彼の残された身体をそっと抱きしめた。そして麻剣で彼を深い眠りにつかせた後、誰にも見つからないよう、大木の太い根の隙間深くに隠す。


「ヤン、必ずまたお話をしましょう」


 彼との関係は、戦場でたまたま出会っただけの友なんて言葉では括れない。かといって、恋というのも少し違う。もしも言葉で表すとすれば、ヤンは私の――


「半身」


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