第43話 廃棄処分
「何人も相手にするより、彼女と戦う方がずっとマズい予感がする」
同感だ。あれはまさに、人の形をした『死』そのもの。外にいた人たちはもう誰も残っていないし、二人だけで太刀打ちできると思えない。
「奥へ向かおう。実は抜け道があるんだ。狭くていつ崩れるかわからないから、本当は使いたくなかったけど……」
「あの子と正面衝突するよりは、遥かにマシね」
ヤンが気絶したジュレンを背中に担ぎ上げる。私たちは洞窟の奥へと駆け出した。
「!?」
後方から再びコツコツと音が聞こえてくる。急速にテンポを速めていく足音、なんて恐ろしい速度なんだ。肺が焼け切れるほど走る。
「ぜぇ……ぜぇ……」
なんとか外に出た。どこかに隠れようと、残った余力を振り絞って足を動かし出した、その時
「射程」
耳元で直接囁かれたかのような、凍りつくほど冷たい呟きが聞こえた。彼女はもう、追いついている。きっと途中からブーツを脱いで、足音を消していたんだ。
「危ないっ!」
私はヤンに強く突き飛ばされた。直後、いきなり世界がズレて歪むような強烈な錯覚を覚える。
「ヤン!」
体勢を立て直したヤンは、先ほどの戦い同様、彼女の魔剣をすんでのところで躱していく。しかし、圧倒的な猛攻に徐々に追い詰められ、彼も荒い息が止まらない。
「…‥こちらが構えると同時に動く。お前、かなり見えているわね」
ヤンは彼女の興味も引いたらしい。一度、武器が下ろされる。
「悪くない。私の部下になるなら生かしてあげるわ」
「仲間や家族じゃなく、手下扱いなんだね」
「身の程を知れ」
「断ると言ったら?」
「もういい。何度も口答えできると自惚れている時点で、廃棄処分よ」
直後、幾重にも重なる斬撃が空間を埋め尽くした。全てを避けることなど、人間には不可能だ。たとえそれが、ヤンのような超人であっても。
「うあっ!!」
「ヤン!」
ドサリ、と鈍い音が響く。信じられない、信じたくない光景が…‥ヤンの身体は、上半身と下半身に分かたれていた。




