第41話 分かたれる世界
「見ず知らずの女の子のために、一歩を踏み出す勇気が出なかったのにね。情けないや」
「見ず知らず……そうなんだけど、腹違いの兄弟なのよね」
そう、この共食いに参加させられている全員の血が繋がっているのだ。みんな他人の顔をして戦っているけれど、おぞましいことこの上ない。やはり私たちは、あの王の血を受け継いでいるのだろうか。
「知らないって恐ろしいね。それだけで、見殺しにしてしまう。君のためなら動けたのに」
透き通った湖のような、ひどく澄んだ眼差し。ヤンは私を真っ直ぐに見つめる。
「王様も僕の街を攻めたとき、こんな感じに切り捨てたのかな」
「まさか、あんなのに同情してるの? 必要ないわよ」
「そうじゃない。ただ、人は案外簡単に冷酷になるのかもなって」
ハッとする。確かに、私も悪役令嬢だったときは、召使たちのことなんて知ろうとも思わなかった。一人一人に顔と歴史があるのに……彼らをただの背景の一部のように扱ってしまった。
「僕も王様も、もっと色々なものを知るべきだったんだ。あの人、僕らのことを知らない。だから、こんなに惨いことができるんだ」
いやーあれは根っからの悪人だと心の中で否定しつつも、もし毎日寝食を共にしていれば……あの狂人でも我が子を殺すことに躊躇いを覚えたのだろうか。
「君が戦う姿を見て、僕も前を向けた気がする。兄弟であること、誇りに思うよ」
胸の奥がじんわりと熱くなる。私とヤンは同じように戦うことから逃げてきた弱さを共有し、それを乗り越えようとしている。前世の私と同じように不器用な彼に、私は理屈抜きで、魂の根っこからの繋がりを感じる。
――
「はーあ。ああいう男女と出くわすと、何もかもやる気をなくすわ」
一方その頃、マデスは独り呟きながら、茂みの中を歩いていた。「見せつけやがって」と、ブツブツと愚痴をこぼしながら。
「そうだ! 私もいい男捕まえて、イチャイチャドキドキしよ。いつ死ぬのか分からないなら、目先の幸せを探したほうが得だわ!」
ポンっと掌を叩き、ニヤリと笑う。どんな状況下にあっても、どこまでもマイペースで楽観的。これこそが彼女の真の強みなんだろう。
「よし! 分かたれた世界を一つに戻すために……頑張れ、わた」
「ベラベラと喋りすぎ」
背後から忍び寄った何者かの刃が閃く。マデスは悲鳴を上げる間もなく、振り下ろされた巨大な武器によって……脳天から股下まで、左右真っ二つに切り裂かれた。




