第40話 パンがなければネズミでも捕って食べてろ
「君、随分とあの妖精と仲がいいんだね」
「あら? ヤンにも無愛想なの?」
「微笑みかけてはくれるけど、定型文が繰り返されるだけだよ」
「私が同性で話しやすいから、たまたま懐かれただけじゃない?」
そもそも妖精に性別ってあるんだろうか? ともかく、彼女には明らかに好き嫌いがある。それもかなり激しいやつだ。ジュレンなんて、機械みたいな対応しかされていない。何がそんなに気に入らないのか見当もつかないけれど……
「分かる気がするよ。君はきっと、何かが違うんだ」
「うーむ……そうかしら」
あれ? もしかして私、変な意味で狙われてる?
「麻酔の剣。この地獄の中で、誰も死なせずに済む道を切り拓いたんだ」
「そんなに大層なものじゃないわ。ワガママが具現化しただけ。私って、根本が悪役令嬢だから」
「悪役……?」
「私ね、昔は嫌な貴族だったの。6歳になるまで、母と一緒に使用人たちをこき使ってた」
「それって、お母さんの教育がおかしかっただけじゃ?」
「ふふ、否定できないわ。貧しい人々に、『パンがなければネズミでも捕って食べてろ』って言い放つ人だったから」
これ、例え話じゃなくて実話なのよね……。改めて振り返ってみると、とんでもねえ母親だわ。そりゃ貴族があんなのばっかりなら、世界の軋轢もなくならないでしょう。
「幼い子供だったんだ。君は悪くないよ」
「かもね。でも、本当は分かってた。こんなのよくないって」
自然と視線が落ちる。前世も含めトータルで見ると結構な年数を生きているのに、知らないフリ。今更ながら、罪の重さがじわじわとのしかかってくるような気がした。
「王座に就いてやりたいことかぁ……まだ漠然としているけれど、こんな正当化と八つ当たりがいつまでも巡っているような世の中を変えたいかもね」
「……僕は、やっぱりあの王様に悔い改めさせたい」
ぽつり。零れ落ちた後悔の重さに耐えかねたように、ヤンはふいと天を仰いだ。
「街のみんなが襲われたのに、どこかに怒りを置いてきてしまった。もっとワガママな子供になるべきだったんだ」
「いいじゃない。今からでも遅くないわよ、やっておしまいなさい!」
オホホと、かつての邪悪な笑みを顔に浮かべる。あー、この感覚、なんだかすごく懐かしいわ。




