第34話 男は度胸、女は愛嬌、オカマは即興
「イチャついてないわよ! まだ出会ったばかりなのに!」
「やかましい! 私がそう感じるかどうかが全てなのよ!」
「あんたタダの男好きじゃない! この自己中!」
互いに獣のようにグルルと唸り声を上げ、バチバチと火花を散らして睨み合う。何が理想の世界よ。さっきまで抱いていた尊敬の念が台無しだわ。
「このまま争い続ける気なのかい? 実の父親に酷い目に遭わされて、反抗したい気持ちはないの?」
あ、ヤンがしれっと話題を逸らした。無駄にヒートアップした場を落ち着かせ、相手に冷静さを取り戻させようとしているんだわ。その柔軟な思考回路は、ぜひ見習いたい。
「強制させられてムカつきはしたけど……どうせ跡目を巡って似たような争いをするんだから、変わらないわ。物事が前倒しになっただけ」
むむ、否定しきれない……。ヴィアダルも含め、兄弟の何人かは「この世は戦い、奪い合うのが当然の摂理だ」と信じて疑わない人もいた。争いを避けようとする私たちの方が、実は少数派なのかもしれない。
「やるしかないか」
ヤンは静かに息を吐き、スッと重心を落とした。そして、風と光とともに己の魔剣を生成する。
「!?」
私は我が目を疑った。顕現した彼の武器は、漆がかった艶のある木刀。私と同じ、植物由来の武器だっから。
「ペアルックにでもしたつもり? 誰も倒せないわよ、そんなの!」
ファンシーな魔剣を構えるあんたが言うのかい。と心の中で反論するものの、確かに木刀は頼りなく感じる。
「やってみないとわからないよ」
苛立つ相手。血相を変えて、襲いかかってくる。
「現実を教えてあげるわ!」
けど、打ち合いが始まってすぐに、相手の表情が青ざめた。
「な……なんなの、こいつ!?」
何もかもスローモーションで見ているかのように、相手が振り回す剣を紙一重で完璧に躱していくヤン。見る見るうちに敵へと肉薄していく。本当はこんなに戦えたんだ……
「それがあんたの能力か……木刀でも、並の人間じゃ相手にならないわね」
「大人しく捕まるなら、麻酔の剣で眠ってもらうけど?」
「優しいのね……改めて見ると、やっぱりいい男ね」
無言になるヤン。ああもう、真面目に相手するのをやめたのね。いや、何も言葉が出なくなっただけか……
「かくなる上は」
そうだった……敵の魔剣の能力はまだ明らかになっていない。ここからが本当の戦いだと、私は身を引き締めり。
「逃げるわ」
って、おい!
「あれだけ偉そうにしておいて、ふざけんじゃないわよ!」
「無駄な意地は張らない! 男は度胸、女は愛嬌、オカマは即興で生きていくの!」
それだって今思いついたんでしょうが……ヤンと同じく、もう真剣に言葉を交わすのが面倒になった。ただ追って仕留めることだけを考えよ。




