第33話 オカマはイケるクチなの?
「しつこいわね!」
肩を上下させ、荒い息を吐きながら立ち止まる。見えた人物は、骨格や体つきはどう見ても男性のそれなんだけど、ぽってりと厚い唇はリップで何重にも彩られている。
妙にくねくねとしてなんというかこう、たおやか。魔剣はあちこちがシールやラメでデコレーションされている。ちょっと分けてくれないかな……羨ましい。
「ああもう、汗だくで気持ち悪い!」
「あなた、女の子なの?」
恐る恐る尋ねる私に対し、その人物はふふっと妖艶な笑みを浮かべてみせた。
「ええ、そうよ。心はね……ところであんたたち、戦うからには王座についてやりたいことがあるの?」
「ん? これって後継者争いなの?」
「決まってるでしょ、ニブちんね。ただの道楽に付き合ってるわけないでしょ」
言われてみれば、確かにそうか。生き残った子供に跡を継がせるのが妥当。とはいえ、あの人は普通じゃないから、100%は信じられないけど。
「私が勝ち残って目指すのは、両性の世界。男と女という無粋な区別がなくなる、完璧で美しい世界よ」
「そんな世の中、どうやって実現する気?」
「誰もがいつでも自由に性転換ができる世界にするのよ。基本的人権としてね」
あれ、思いのほか筋は通っているんじゃ? 生まれ持った性別に違和感や不満を持つのは誰にでもある話かもしれない。私だって、自分が男だったら……と考える場面が0でないわけではない。
「私が王になったら……莫大な財産を注ぎ込んで、達成してみるわ。魔法だろうが科学だろうが、どんな手段を用いてでも」
「君はさっきの男の仲間なのかい?」
「いいえ。知らないし、タイプじゃないわ」
タイプかどうかは聞いてないんだけど……
「それなら、僕たちの仲間にならない?」
「あら?」
「え!?」
私と彼……彼女は揃って目を丸くし、ヤンを凝視した。まったく予想だにしなかったお誘い。
「その目的、おそらく僕らは誰も反対しないよ。戦う必要なんてないでしょ?」
ヤンは小声で「だよね?」と私に同意を求めてくる。予想外の変わり身の早さ……だけど、言う通りだ。私も別に、掲げられた理想を拒む理由がない。
彼女はぶつぶつと何かを呟きながら考え込み、やがて値踏みするような視線で、鋭い問いをこちらへ投げかけてきた。
「あなた、オカマはイケるクチなの?」
ヤンをビシッと指差して放たれた問い。私たちの背筋をゾクリと悪寒が走り抜けた。
「いや……僕と何の関係があるの?」
「お黙んなさい! 私はねえ……自分好みの顔をした男が、私を放り出して他の女とイチャつくのが、何より許せないのよ!」
「……」
ガチンと石化し、目の輝きを失うヤン……なんて理不尽極まりないんだ。あまりに不憫で、私は思わず両手で顔を覆ってしまった。




