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君と彼らが僕の心に火を灯す  作者: 牧村せつら


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109/122

帰る場所

 大会三日目。アリーナは、昨日までの熱が嘘のように静かだった。

 閉会式。67名の選手が整列している。壇上には、金銀銅のメダル。

結果は、まだ誰も知らない。

琴葉は、手を組んで前を見ていた。和也は、隣で深く息を吸っている。

呼名が始まる。


金賞の発表が終わる。金賞は一人だった。


銀賞の発表。

「銀賞――小暮和也」

和也は、一度だけ目を閉じた。歩き出す。

表情は、穏やかだった。

 メダルを受け取る。

 観客席。父が拳を握りしめている。月島工匠の職人たちが、黙って頷く。

 沙紀は、写真立てを胸に抱きながら、静かに笑った。

 恋の笑顔が、そこにある。

銀賞は2人だった。和也は先に表彰されていた。


銅賞。銅賞は3人。その2人目に、

「銅賞――相沢琴葉」

一瞬、一瞬、音が消えた。琴葉が目を見開く。

拍手。大きな拍手。足が、わずかに震える。

壇上へ上がる。メダルをかけられた。

――重い。

昨日の削り屑の重さとは違う。努力の重さ。

視線を上げると、観客席に両親の姿。

母が泣いている。

琴葉は、深く頭を下げた。


敢闘賞7人の発表が終わり、式は静かに締めくくられた。

 

 表彰台の上で写真を撮る。

琴葉はまだ少し現実感がなかった。

「銀賞、おめでとう」

琴葉が言う。

「銅賞、おめでとう」

和也が返す。

二人は、ほんの少しだけ笑った。


午後。

沙紀が早々に連絡を入れていた。月島工匠のグループラインが賑わう。アカデミーにも報告が届く。車で帰路へ。高速道路を6時間。


 夕方6時過ぎ、アカデミーの校門が見えた。

校舎前に、人影。校長、各科の職員。

神門が一歩前に出る。

「おかえり」

その一言だけ。

和也と琴葉は、同時に深く頭を下げた。

「ありがとうございました」

実習場の前には、雄介たちが待っていた。

「おかえりや!」

「すごいやん!」

「ほんまに銀と銅やん!」

騒がしい声。あいりが泣きながら笑っている。

望が目を赤くしている。ほのかが手を叩く。

玲奈が「おめでとう」と何度も言う。

和也は笑った。

琴葉も、やっと心から笑えた。


 その夜。本当なら月島工匠で祝勝会の予定だった。

だが、沙紀が言った。

「先に行く場所がある」

車は、町外れの墓地へ向かう。恋の墓前。銀と銅のメダルを、そっと見せる。

「……取れたよ」

和也が言う。琴葉も並ぶ。

「約束、守れました」

ずっと、ここにあった約束だった。

 風が吹く。線香の煙が、静かに揺れる。

 沙紀は写真を取り出し、墓石の前に置いた。

「よかったな」

それだけ。


その後、月島工匠で大宴会。笑い声が絶えない。だが、二人はもう騒がなかった。騒ぐ理由が、もうなかった。

 やり切った顔で、ただ座っていた。

 勝った。負けた。それよりも。最後までやり切った。

 それが、胸にあった。

 五輪は終わった。だが、道は終わっていない。

 帰る場所がある。それが、いちばんの誇りだった。


第109話目の投稿になりました。ここまでお読みくださりありがとうございます。

和也 銀賞、琴葉 銅賞。技能五輪の予選の練習から約1年以上の積み重ねが結果を出しました。

次回は日常生活に戻った中での別れです。

お楽しみいただければ幸いです。

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