表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と彼らが僕の心に火を灯す  作者: 牧村せつら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/122

挽回の光

 大会二日目。まだ朝の光が薄い時間に、琴葉は目を覚ました。昨日、泣いたはずなのに、胸は不思議と軽い。ベッドの隣に、沙紀が静かに寝息を立てている。

——大丈夫。

そう思えた。洗面台で顔を洗い、鏡を見る。そこにいるのは、いつもの自分だった。不安で固まった顔ではない。挑む顔。


 会場。午前9時、二日目作業開始。

加工。昨日までとは違う。鑿が、迷わない。木目を読む目が、澄んでいる。音が、消える。

0.7㎜削りすぎた分は、天端面で吸収する。基準はぶらさない。

刃は立っている。打ち込む。刻む。止まらない。

観客席からは、息を詰める空気。だが琴葉の中は、静かだった。

――やることは、決まっている。

和也も、同じだった。昨日と同じ手順。だが動きは、わずかに速い。無駄が削ぎ落とされている。


 昼休憩。

琴葉は笑っていた。

「大丈夫そうかい?」

「うん。昨日より、いいです」

坂崎は短く頷く。

「そうか‥」

それだけ。


 午後。組立。時間は容赦なく進む。残り30分。和也が、手を挙げた。

14時30分。完成。67名中、最初に完成させた。一瞬、会場の空気が揺れた。

 工具を置き、深く息を吐く。そして、静かに笑った。

まだ終わっていない。視線は、数エリア先の相棒へ。

琴葉は、最後の納まりを確認している。刻みの精度。面の通り。組み直しは、ない。

 残り2分。手が、上がった。

完成。だが、琴葉は笑っていなかった。放心したように立ち尽くす。やり切った、というより、すべてを出し切った顔。


 作業時間が終了し、片付け。坂崎が近づく。

「お疲れ。何点だい?」

和也が答える。

「90点です」

「減点の10点は?」

「満点だと、この先伸びしろがなくなるので」

坂崎が、わずかに笑う。

「なるほど」

移動して同じ質問を琴葉にする。琴葉が、ゆっくり顔を上げた。

「……120点です」

「理由は?」

「昨日のミス込みで、全部返せたからです」

その言葉で、ようやく笑顔が戻った。


 観客席。玲奈が泣いている。ほのかも。琴葉の両親も、目を拭っていた。大応援団。月島工匠の職人たちも、黙って頷く。和也の父が、拳を握っている。

沙紀は、静かに写真立てを胸に抱いた。

「おつかれ」

その一言だけ。


 夜。応援団は帰路についた。ホテル近くの焼肉屋。

「おつかれー」

坂崎と沙紀が、生ビールをあおる。恋の写真が、テーブルに置かれている。

 和也と琴葉は、黙々と肉を焼いた。

焦げる音。煙。笑い。さっきまでの張り詰めた空気が、嘘のようだった。疲労が、やっと体に降りてくる。

「終わったな」

和也が言う。

「うん」

琴葉は、少しだけ窓の外の空を見上げた。 昨日の夜より、星がよく見えた。

 勝敗は、まだ分からない。

でも。やれることは、全部やった。

 刃は、立っていた。

 心も、折れなかった。

 大会二日目、終了。

 あとは、結果を待つだけだ。


第108目の投稿になりました。ここまでお読みくださりありがとうございます。

2人とも時間内に作品を完成させました。琴葉はリカバリ成功出来ました。琴葉は課題完成後、和也は夕食時に脱力です。

次回は結果発表です。

お楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ