挽回の光
大会二日目。まだ朝の光が薄い時間に、琴葉は目を覚ました。昨日、泣いたはずなのに、胸は不思議と軽い。ベッドの隣に、沙紀が静かに寝息を立てている。
——大丈夫。
そう思えた。洗面台で顔を洗い、鏡を見る。そこにいるのは、いつもの自分だった。不安で固まった顔ではない。挑む顔。
会場。午前9時、二日目作業開始。
加工。昨日までとは違う。鑿が、迷わない。木目を読む目が、澄んでいる。音が、消える。
0.7㎜削りすぎた分は、天端面で吸収する。基準はぶらさない。
刃は立っている。打ち込む。刻む。止まらない。
観客席からは、息を詰める空気。だが琴葉の中は、静かだった。
――やることは、決まっている。
和也も、同じだった。昨日と同じ手順。だが動きは、わずかに速い。無駄が削ぎ落とされている。
昼休憩。
琴葉は笑っていた。
「大丈夫そうかい?」
「うん。昨日より、いいです」
坂崎は短く頷く。
「そうか‥」
それだけ。
午後。組立。時間は容赦なく進む。残り30分。和也が、手を挙げた。
14時30分。完成。67名中、最初に完成させた。一瞬、会場の空気が揺れた。
工具を置き、深く息を吐く。そして、静かに笑った。
まだ終わっていない。視線は、数エリア先の相棒へ。
琴葉は、最後の納まりを確認している。刻みの精度。面の通り。組み直しは、ない。
残り2分。手が、上がった。
完成。だが、琴葉は笑っていなかった。放心したように立ち尽くす。やり切った、というより、すべてを出し切った顔。
作業時間が終了し、片付け。坂崎が近づく。
「お疲れ。何点だい?」
和也が答える。
「90点です」
「減点の10点は?」
「満点だと、この先伸びしろがなくなるので」
坂崎が、わずかに笑う。
「なるほど」
移動して同じ質問を琴葉にする。琴葉が、ゆっくり顔を上げた。
「……120点です」
「理由は?」
「昨日のミス込みで、全部返せたからです」
その言葉で、ようやく笑顔が戻った。
観客席。玲奈が泣いている。ほのかも。琴葉の両親も、目を拭っていた。大応援団。月島工匠の職人たちも、黙って頷く。和也の父が、拳を握っている。
沙紀は、静かに写真立てを胸に抱いた。
「おつかれ」
その一言だけ。
夜。応援団は帰路についた。ホテル近くの焼肉屋。
「おつかれー」
坂崎と沙紀が、生ビールをあおる。恋の写真が、テーブルに置かれている。
和也と琴葉は、黙々と肉を焼いた。
焦げる音。煙。笑い。さっきまでの張り詰めた空気が、嘘のようだった。疲労が、やっと体に降りてくる。
「終わったな」
和也が言う。
「うん」
琴葉は、少しだけ窓の外の空を見上げた。 昨日の夜より、星がよく見えた。
勝敗は、まだ分からない。
でも。やれることは、全部やった。
刃は、立っていた。
心も、折れなかった。
大会二日目、終了。
あとは、結果を待つだけだ。
第108目の投稿になりました。ここまでお読みくださりありがとうございます。
2人とも時間内に作品を完成させました。琴葉はリカバリ成功出来ました。琴葉は課題完成後、和也は夕食時に脱力です。
次回は結果発表です。
お楽しみいただければ幸いです。




