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脳筋6★

ご閲覧、ご評価、ブックマーク、いいね!誠にありがとうございます!!とても嬉しいです〜(uu)




「っ助けてくれ、この通りだ」

「え」

「お願い、ロビン……なんでも言うことをきくから……」

「……。ええと、それじゃあ……」

 第一王子殿下を部屋に送ったあと訪ねてきた僕の顔を見るなり、国王陛下と王妃殿下はがたがたと身を震わせ小さくなってしまった。

 実の親に怯えられていることに傷つくのはそこそこにして、僕はひとまず自分が王位を継ぐ日までに、兄がこれまでしでかした悪行の数々を、できる限り被害者が納得行く形で償ってくれるように頼んだ。兄の悪行は相当あるらしいから随分無理を言ったつもりだったけど、陛下も王妃殿下も顔色が悪いまま必死でうなずくだけだった。ひょっとしたら、兄を引きずり下ろした時の剣を腰におさめたままだったのが良くなかったのかもしれない。





 ランズマンの屋敷で魔物騒ぎが起きてから(僕が王宮で騒ぎを起こしてから)二日ほど雨が続いたおかげか、タストロの樹液に魅かれた魔物はほとんど現れなくなった。

 僕を含む王都近くにいた討伐隊数人で屋敷の見張りをしつつ、軍部総出で片付けと修繕に当たっている間、ローツ家をはじめとした近隣の貴族が率先して手押し車や鍬や名前が覚えられない最新式の道具などを貸してくれたので、予定よりもずっと早く仕事が進んだ。


「ロビン殿下、これでタストロ製の家具回収はすべて終わります」

「わかった。ブロン卿の指示に従って処理が終わったら、皆は先に帰るよう伝えてくれ。」

「かしこまりました」

「ロビン殿下も、どうかご休憩なさってください、後は家の者らでもできますから」

「ありがとう」

 ランズマン家の当主からお茶を受け取り息をつく。ローツ家だけでなく、多忙なヘルマン家の植物学者まで駆けつけてくれて本当に頼もしいばかりだ。未だ自分が王位継承者になったと発表したわけでもないのに、日ごとに好意的になっていく周囲の様子に少し首をかしげつつお茶を飲んだ僕は、崩れかけた植木の隙間に挟まっている紙を見つけた。それはボウ国をかたどった地図だった。

「これ……兄上が作らせたにしては装飾が少なくて見易いな」

「あ〜、それケイティさんが作ったんだぜ! 毎日こつこつ遅くまでマルクんとこで情報収集してさ、良く出来てるよなー!」

 僕は同僚の口から自分の婚約者の名前が流暢に飛び出す違和感を思い出しつつ、地図を眺めながら確かめた。

「……何のために?」

「え? 式典で俺ら討伐隊が意外と国のために仕事してるってことをご貴族さんに教えるためでしょ。いやー、その場にいなくても大成功したってわかるよな! 討伐隊だってわかると皆なんか優しいし!!」

 俺も手伝ったんだぜー! と自慢げに笑ったヒューに呆然とした表情を返しながら、僕はケイティ嬢が討伐隊や僕の名誉のために手を尽くしてくれていたことを、そこでようやく知ったのだった。




 僕は城に戻ってすぐ、途中までしたためていたケイティ嬢あての手紙を握りつぶした。静養中少しでも彼女の暇つぶしになればと思って、王宮の中にある珍しい鳴き声の鳥の巣のことだとか、マルクの店で最近人気のメニューについてだとかを能天気に書いていたからだ。彼女が目を通す前にキッカー家に届いてしまっていた手紙は、グレゴリー卿に頼み込んでどうにか返してもらって処分した。一日分足りない気がしたけれど、恐ろしくて確かめていない。


「『ケイティ嬢が守ってくれた誇りのおかげで』……全然気づかなかったくせに今さらこんなことを書いて、押しつけがましいだろうか……。『元気になったら一緒に遊びに』……僕のせいで魔物に襲われて、もう愛想をつかされていてもおかしくないのに馴れ馴れしすぎるだろうか……」


 事情を知ってから改めてしたためた手紙は、何度書きなおしても後悔と反省の中に隠しきれない図々しい欲求が染み出た詫び状にしかならず、体調が万全でない彼女に読んでほしいものにはならなかった。

 会いたくてたまらないのに、嫌われてしまっていたらと思うと怖くて、なかなか次の一歩が踏み出せないまま数日が過ぎた。そして最悪の事態として振られる覚悟が決まらない間にも、着々とランズマン家の片づけと王宮での引き継ぎは進んだ。振られたとしてもあとには戻れない。



 片づけ要員として駆り出された最後の日、ランズマン家の噴水のかけらを拾い終わった僕は偶然、パトリシア嬢が馬車から降りたところに居合わせた。

 久しぶりに会った元婚約者は相変わらず飾りが多く華やかな格好をしていたけれど、以前のように、出会い頭に僕の恰好を上から下まで品定めするような目線を投げてくることはなく、こちらへ親し気に笑いかけてきた。

「やあ、久しぶり」

「ごきげんようロビン殿下。ケイティ様、ずいぶんお元気そうでしたね!」

「……え、会えたんだね?」

 僕の返事に怪訝な顔をした元婚約者は、すかさずこちらを問い詰めた。

「? ええ。今日はお話も少し、……もしかして殿下、全然お見舞いに行かれてませんの?」

「……」

 居心地悪くなりながらうなずく僕に、パトリシア嬢はだからあんな寂しそうなお顔を、と呟いてから頬を膨らませた。

「もう!! ~あなた様がそんな情けないことではこの国の未来が思いやられますわよ!!」

 腰に手を当て、なお威嚇するように胸をそらせた彼女の剣幕に僕があっけに取られていると、パトリシア嬢は自分が降りたばかりの馬車を勢いよく指さして高らかに声を張り上げた。

「今すぐケイティ様のところに向かわれるなら、ランズマン家から王家への賠償請求を減らしてさしあげてもよくってよっ!!」

「……――ありがとう!!」

 もし向かわれないなら倍額請求しましてよ!! と続けられた脅しに背中を押され、僕はついに踏み出せずにいた一歩を進んだ。


 つくづく情けない僕がケイティ嬢に会いに行く口実として、ピンク色の馬車に揺られながらポケットから出した紙にやっと殴り書いたのは、身勝手極まりない自分の気持ちだった。

『僕を選んで』


 恰好のつかなさは、ようやく会えた彼女に思わず告げてしまった気持ちと、そう変わらなかったんじゃないかと思う。





###





 幸運なことに、情けない僕が玉座に就いた時、ケイティは僕の隣を選んでくれた。けれど、僕が少々……かなり手荒な方法で玉座をもぎ取ったことを彼女は知らないままだ。

 だからケイティは今も、王宮の面々が相変わらず脳筋な人間として僕を扱っている理由は、内的な公務をほっぽって軍部の訓練場に遊びに行ったり、彼女を連れてマルクのレストランに行ったりするせいだと信じている。全くの間違いではないので、いつかボロが出てしまう時まではそういうことにしておくつもりだ。

 実際僕は相変わらず全然内務に詳しくないし、部下にしかめ面をされながら慣れない書類に立ち向かったり、打ち合わせの場で缶詰になったりすることも多い。それでも大ごとになる前に、知識も経験値も貴族相手の人脈も僕よりずっと広くて多いケイティが絶妙なフォローをしてくれるので、それほど困ってはいない。


「あの……先ほどは申し訳ございませんでした、少々出しゃばりすぎましたわ……」

「うん? 説明してくれて助かったよ。頓珍漢な質問しないで済んだしな。ヘンリーだってそう言っていただろう?」

「ヘンリー様はお優しいから……」

「いや、僕には結構厳しいんだけど」

 今日も主に法務所と内務所と財務管理所を行ったり来たりして、怒られて叱られて公務に取り組みくたびれた僕は、必要のない反省をしているケイティと一緒に自分の部屋へ向かっていた。

 お世辞でも比喩でもなく、僕が国王でいる為には彼女が不可欠だ。これまでもその事実を自分なりに伝えてきたつもりなのだが、聡明でいて謙虚な彼女にはなかなか信じてもらえない。その歯がゆさも愛しい。のろけている場合ではないとあちこちから怒られそうなので口にはしないけど、僕の手綱は間違いなくケイティが握っている。


 気分転換にマルクの店へ連れていこうか考えていると、ちょうど通路の向かい側から歩いてきた役人の一人が、僕を見つけてさっと道をあけた。すれ違った時のやや青ざめた彼のひどくこわばる表情を見つけて、隣を歩くケイティが不思議そうな顔をしたあと、少しだけ口を尖らせた。

「……ショーン殿下と仲の良かった方ですわね。あんなに避けるみたいにしなくても。ロビン様はむやみに権力をふるう方ではいらっしゃらないのに……」

「野犬みたいに尻でも噛みつかれると思ったのかもね」

「まあ、ふふふ」

 庇われた嬉しさ半分、嘘がばれそうな緊張感半分で僕がどうにかとぼけて見せると、かわいい顔で拗ねていたケイティがこらえきれずに笑ってくれた。彼女の笑顔を見れるなら、脳筋のままでも悪くない。


(それにしても……黒くならなくてよかったな)

 僕の隣にいてくれる姿勢のよい彼女の胸元では、今日も鱗石が知らん顔をして揺れている。脳筋な僕の運命はケイティの小さな手の中にある。







これにて格下げレディと脳筋プリンス、本編完結です!


ここまでお読みくださいまして誠にありがとうございました(^^)!!

すこしでも楽しんで頂けたら幸いです〜

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