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脳筋5★

ようやっと兄弟対決です。





「ショーン第一王子殿下、3年前の11月5日チプラ領サートス村にて領民78名を反逆罪で牢送りにしましたね」


 ストープス卿から受け取った文書を読み始めた僕に、兄上は怪訝な顔をした。

「その後、100名余りで構成されていたサートス村の残りの村民は強制的に移住させられ、今その土地にはショーン第一王子殿下直轄の茶畑と生産工場があります」

「何が言いたい……」

「反逆罪で捕らえられた内6名は妊婦で、全員移送中に死産、母体も一人命を落としています」

「だからどうした!! ハ! 罪人が増える前に死んでいいことじゃないか!!」

「サートスを買い上げるにあたって11月1日付でショーン第一王子殿下の署名が入った契約書があります、1ベクダールにつき50ボウ。加えて工場を建てる人件費を建て替えるようにと。……一般的な地価での計算では1ベクダール1万ボウで払われるべき土地がです」

 僕はコール卿から受け取った書類を掲げるように持ち上げて、部屋の奥にいるこの国一番の権力者へ語り掛ける。

「暴挙を取り下げるよう書かれた村民からの請願書もここに。反逆罪で捕らえられた78名全員の署名があります」

「――だから何だというのだ? そのでたらめの紙切れで私の立場が変わるとでも?」

 拘束されたままでありながら、あまりにもいつも通り悪びれない兄の様子に、僕の両脇に立っていたストープス卿とコール卿がしびれを切らす。

「~ショーン第一王子殿下が同じように買い上げ、ご自身の事業のために開発された土地はこの5年間で10か所以上あります!!」

「数字の合わない書類の数もこんなものではありませんぞ!!」

「――黙れ!!」


 広い部屋に響き渡る兄の大声にストープス卿たちが口をつぐむと、兄は血走った眼をこちらへ向けた。

「おい貴様ら、誰の許しを得て発言している!! 私の行いは国のための慈善事業だ! そんな嘘っぱちが書かれた紙切れなんぞすべて焼いてしまえ! 今すぐに!! ほら何をしている、早く処分しろぉ!!」

 ひたすらわめきちらす王子に向けられたままの騎士の剣先が震えている。彼らの表情を窺うと、この場に兄の所業を知っていた者は少ないらしい。責任感と愛国心溢れるこの騎士たちをけしかけ、結果失望させてしまったことを申し訳なく思いつつ、僕は兄を睨み返した。


「……兄上、継承権を渡さない気なら、僕が国民の前ですべて明らかにします」

「そんなことをすれば王族であるお前も立場がないぞ!!」

「……あいにく、僕はこの国が斃れても生きていけるので困りません。」

 書類をストープス卿たちに手渡しながら言い返す僕の言葉に、兄は一拍置いてからヒステリックな笑い声を上げ、つばを飛ばしながらこちらを罵った。

「……は、ハハッ、アハハハハハハ!! とうとう正体を現したな、この逆賊め、野蛮人め!! 高貴さのかけらもない、土にまみれて魔物を狩るしか能がない! 血筋を無駄にして生きているお前のようなバカで下等でみじめな人間に王位など渡せるわけがないだろう!! お前のような人間と血がつながっているなど全く恥ずかしい!! はあ〜あ……、お前とケイティのおかげですべてがパアだ! 清く高貴な私の正しい行いを! これっぽっちも理解できない知能の奴らでことごとく足を引っ張りやがって! お前らは全くお似合いだよ! あんな身の程知らずで道理のわからない出しゃばりクズ女などお前にくれてやる! 今すぐ私の目の前から消え失せろ! 揃ってこの国から出てい――おい、何をする気だ……?」


 嗤う途中で顔色を変えた兄に、僕は鞘から抜いたばかりの剣をゆっくり持ち上げた。手入れする暇がなかったので、そこには魔物の黒い血や、黒ずんだ脂にまみれた毛がべっとりついたままだ。

 汚れた剣からこちらへ怯えた視線を移した兄に、僕は目を細めてうなずき返した。

「おかげさまで、僕は他に交渉の方法を知りません。……もっと早くこうすれば良かった」

「う……嘘だろ、血のつながった実の兄に、や、やめろ!」

 恥じていたはずの血筋を今度は切り札にして椅子ごと身じろぐ相手と、一歩ずつ距離をつめていく。

「ご存じですか? 魔物の解体方法には順序があります。万一仮死状態から目を覚ましても逃がすことが無いよう翼があるものはまず翼、」

「は……?」

 緊張と恐怖と不満の入り混じった顔の兄を眺めながら、僕は討伐隊に入ったばかりのころ仲間に教わった通りを口にする。

「手があるものは手を落とし、足を落とし尾を落とし、腹を割いてはらわたをかきだし、皮をはぐのはそれが済んでからです。胃液で汚れてしまうと価値が下がるものが多いから」

「!! ま、待て、待て……! え、えぇ? ま、お前……」

 教わった通りに、剣先を魔物の急所へ向け、手元が狂わないように狙いをさだめた。

「そして――皮をはいだ後は心臓を刳り取る。」

「っっっひぃいいいいい」

「~ロビン!! お前にする! ショーンは下ろしてお前に王位継承権を与える!! ボウ国国王の私はお前に玉座を譲る! ここに誓う! 宣言する!! ……だから剣をおろしなさい!!」

「やめてぇっ、ロビン!!! 私たちが悪かったからぁ!!!」

 情けない兄の声と兄を囲む騎士たちの動揺した様子に、事態を察したらしい陛下と王妃殿下の方から悲鳴混じりの懇願が飛んでくる。

「やめてくれぇ」

「ロビン!!」

「ロビン、おねがい!!」

「……」

 生まれて初めてここまで熱心に自分へ向けられた家族の思いに、どこからともなくこみ上げる寂しさを払うようにして、僕は剣を思いきり振るった。


 部屋に鈍い音が響いた。




「おっと……」

 白目を向いて失神した兄をくくりつけていた椅子が彼の小便で濡れる前に、僕は床に突き刺した剣を取り上げて鞘におさめた。その間に、呆然とした表情で互いの手を握り合う国王陛下と王妃殿下の元へ足を運んでいたストープス卿が、陛下に署名されたばかりの王位継承権移譲の書面をこちらへ向けて大きくうなずいた。

「……やりすぎたかな」

「甘いくらいでしょう」

「おめでとうございます、ロビン殿下。……次期国王陛下!」

 コール卿とグレゴリー卿に両方から肩を叩かれて、僕は長い息をついた。





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