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脳筋4★

本日2話目の投稿です!





「手が空いたものから集合してくれ」

 屋敷前の広場でケイティ嬢が乗る馬車の音を背に聞きながら声を張ると、これまで僕が指揮をするような立場に無かったことを知っているような顔見知りの騎士や兵士は戸惑いつつ、そうでないものは非常にやりにくそうな顔を浮かべつつ整列をした。

「近隣に土地勘がある者はいるか」

「……私と、隣の者がランズマン領の出身です」

 問いに堂々と名乗り出た騎士に僕は頷く。

「それでは、ボウ国第二王子として、誇り高き騎士マカンとジュムに命じる。後ろに並ぶ20名の誇り高き兵士と共にこの屋敷を中心とした整備を頼む」

「名前……」

 瞬きをせずこちらを見やる騎士に頭を下げると、相手は慌てたように首を振った。

「すまない、間違ったか?」

「いえ!」

「あってます!! 失礼ながら、覚えていただいていたのに驚いただけです!」

「そうか、よかった。……他の討伐隊が駆けつけるまでは僕が魔物を追い払うようにする。その間に、隣国の大使殿を国境まで安全にお送りすることから始めてくれ。けが人など優先順位の判断は任せるが、もし取り扱いにくい爵位の者が騒いだらすぐ僕を呼んでくれ」

「かしこまりました!!」


 騎士二人が兵士を伴って屋敷の門をくぐるのを見届けてから、残った騎士と兵士に向き直ると、彼らのまなざしには先ほどにはない熱がこもっているのがわかった。僕は負けずに見返し、口を開いた。

「ボウ国第二王子として、この場の誇り高き騎士と兵士たちに命じる。――ショーン第一王子殿下を早急に見つけ出し、御守りしてくれ。」

 途端に顔を見合わせる面々と、口を出したそうに屋敷の門近くにたたずむランズマンの当主を前に、僕は真剣に嘘をついた。

「経験から話すが、長くタストロの影響を受けた人間は魔物に狙われやすい。……先ほど退治した魔物のねらいはおそらく兄上だ。」

 その場のどよめきに後に引けないことを実感しつつ、僕はヒューから借りたままの血まみれの剣の柄を握りしめ、迫りくる良心に抗った。

「……またこのような大きな被害が出る前に、どのように抵抗されようとも、第一王子殿下をできるだけ早く、森から離れた堅牢な建物にお連れしなければならない。……君たちが頼りだ。どうか、兄を、国を守るために力を貸してくれ……!」


 この場にヒューがいなくてよかった。途中で笑われでもしたら台無しだったろう。僕はとても気合の入った騎士たちが一斉にランズマン家から飛び出していくのを見送っている間、罪悪感を伴う安堵が腹の中をうずまくのをひたすらに耐えた。それでも僕は少しも後悔していなかった。






「さっきまで城中あっちこっちで騎士や兵士が駆けずり回ってすごい騒ぎで、……殿下はどこにもいらっしゃらないし! こちらは気が気じゃなかったんですから!」

「出かける前に行き先を言うくらい小さい子供でもできますよ?」

「すまない、あとで説明する」

 部屋に戻った僕は従者と侍女にがみがみ言われつつ身分証代わりの紋章つきのマントを受け取り、目的地へと急いだ。そして目的地で扉を叩こうと拳を持ち上げたところで、ケイティ嬢の兄君であるグレゴリー卿が傍らにいることに気づいた。

「卿は妹君のそばにいてくれ」

「いえ。ロビン殿下が第一王子殿下に手をかけられたとき、うまく証拠隠滅できる者が必要でしょう?」

「……それは」

 頼もしい、とつい答えそうになったところで財務管理所の扉が開いた。

「ロビン殿下、コール卿なら先に法務所に向かわれています」

 ヘンリーの言葉にグレゴリー卿とうなずき合って、僕は先を急いだ。


 法務所に足を踏み入れると、法務所長のストープス卿と財務管理所長のコール卿に迎えられ、僕は目が合った順に彼らへ詫びた。城内ですれ違う騎士や使用人のいくらか落ち着いた様子で、僕が頼むより先に、内務の面々が細かいところまですっかり手はずを整えてくれていたのがわかったからだ。

「コール卿、早速力を借りようと思う。ストープス卿、試験結果を聞く前に騒ぎを起こしてすまない」

「光栄です、殿下」

「法務も全く問題ございません。」

「ありがとう。ええとそれで、兄上は今?」

「御身は誇り高きボウ国の騎士たちが一丸となり捕縛……失礼。保護させていただき、国王陛下と王妃殿下と共に大裁室にいらっしゃいます。……あのカーテンの向こうです」

 わざとらしく咳払いをしたストープス卿に指された先へ目を向けたまま、僕は深く息を吸って胸を張る。上手く笑えているといい。

「わかった。それじゃあ、……よろしく頼む」

「お心のままに」

 皆声を揃えて返してくれた。




 案内をされた大裁室には窓がなく、天井の灯りだけでは灰色の壁の隅まで光が届いていなかった。部屋の一番奥、手すりの向こうには国王陛下と王妃殿下が並んで座っていて、部屋の中心には兄が背もたれのない椅子に座ってうなだれていた。

 身に着けているものは王族らしい最高級の品で間違いないのに、今や髪も顔も僕と同じように土だらけで服のあちこちが破れてボロボロで、この部屋に入るまで相当暴れたことは充分察せられた。

 後ろ手に縄をかけられ、腹と足を椅子にくくりつけられて、さらに両脇と背後から騎士に剣を向けられた状態の第一王子殿下は、僕の姿を認めると憎悪をあらわにして唸った。

「~お前の差し金か、ロビン……このようなことをしてただで済むと思うなよ……!!」

 僕は一旦兄を無視して、奥の国王陛下に頭を下げた。顔色の優れない陛下が頷き「報告を」と促すのにうなずき返し、口を開く。

「――本日第一王子殿下主催の式典が開かれていたランズマン伯爵家の敷地に昼頃現れた鳥型の魔物、その後数頭現れた小型の魔物も含め、退治は完了いたしました。式場の混乱による転倒などで軽傷を負った数名のうち、移動が難しくない方はそれぞれの家までお送りし、医者を派遣。歩行が難しい方はランズマン家の部屋をお借りし一時的に介抱をしています。

 ……重傷の令嬢一名は王族の別荘へ医者を呼び治療にあたらせています。」

「そうか……迅速な判断に対応、誠にご苦労だった」


 淡々と状況報告をする僕に陛下が頷くのを、唇を噛んだまま聞いていた兄は途中でこらえきれずにわめいた。

「……救護活動と並行してランズマン家の屋敷に魔物出現の原因とみられる魔素を放出する家具が数点見つかったため、討伐隊主導で、しかるべき処置を命じております。ランズマン家当主の話では、今回の発表のために昨日持ち込まれた家具だということで――」

「おい、お前ぇ、何が言いたい……何が言いたい!!!」

 チャキ、と周囲の剣の音が耳に入ったらしい兄は口をつぐみ、血走った眼で僕を睨んだあと、不満を訴えるように首を横にそらせてみじろいだ。

 僕は兄の視線を追うようにして陛下へ顔を向けたあと、何も言わない相手に息をついた。

「……まず、今回の騒動の原因が兄上にあることを認めていただけませんか。招待した客人に謝罪が必要です」

「~貴様ァ!!」

「陛下、」

 ようやく青い顔の陛下と目が合う。僕は挑むように、兄と同じ色のエメラルドを見つめる。

「……国王陛下。兄上だけでなく、王族の罪すべてを国民にばらされたくなかったら、僕に王位継承権を移してください」

「!!」

 驚愕に大きく見開かれた陛下の瞳は、こちらを映しているようで、何も見ていなかった。僕がそう気づいたとき、兄が耳障りなわめき声を上げた。

「王族の罪ィ!? 身の程知らずのお前の今のこの行動こそが大罪ではないか! この私を! このような屈辱に遭わせておきながら!!」

「……ロビン、続けなさい」

 国王陛下の声はわずかに震えながらも、兄の口を閉じさせる。僕の記憶の中で、父が兄を制したのは初めてのような気がした。




直接対決のターンです。

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