19
ここからはケイティ嬢視点です!
10日前、これ見よがしに王家の紋章が目立つ派手な封筒で、わたくし宛の手紙が届いた。
『ショーン第一王子殿下の新事業披露パーティーへの招待』という体裁を取っていたものの、文面は王族からの招集命令だった。
「ほとんど間がないタイミングで招待状を出すなんて全く……前もって用意しておいてよかった」
手紙と共に届いた意味深なドレスについては幸い文面では触れられていなかったので、袖を通すことなくすぐ封をして廃品倉庫にしまわせた。婚約者ではない相手から贈られたドレスを着て婚約者の前に現れるような人間だと思われていることに余計に腹が立った。どこかで見たデザインだなと思っていたら、パトリシア様が以前お茶会で身に着けていたものとそっくりでしたね、と侍女に言われた。
ランズマン家のお屋敷へ向かう馬車の窓に映る自分を見て、今日までのことを思い起こしていたわたくしは顔をしかめる。
「……しばらく人に会えないほど体調を崩していたようには見えないわね」
「お嬢様が美しくて困る人はおりませんよ。ランズマン家の方は知りませんけど」
「ありがとう……」
リンに甘やかされつつも、鱗石のネックレスを握りしめる力が強くなる。ロビン殿下のお近くに席が設けられているかはわからないけれど、せめて並んだ時に少しでも見劣りしないといい。
(お話しする間もなく修道院へ直行するか、不敬罪で牢屋に入れられることになるかもしれないけれど)
なにせ、わたくしの目的は魔物討伐隊の地位を向上させることと、ロビン殿下を次期国王陛下の立場へと押し上げること、そしてショーン殿下に恥をかかせることなのだ。
目的地に到着してまっすぐ案内されたお庭は、以前訪れたときよりもさらに広大で華美になっていた。小ぶりでも存在感のある噴水が庭の出入り口を挟むように二か所、テラスと続いている庭の中心には実際に水が流れる水瓶を持った立派な女神像が置かれ、キラキラと反射する光が像の周りで綺麗に揃えられた色とりどりの花々をさらに美しく輝かせていた。
「王宮のお庭のようだわ……」
「やあ、よく来たね。病み上がりのところ呼びだててすまなかった」
広い庭を見渡して知り合いを探していると、背後に怖気が走った。
「――第一王子殿下、パトリシア様。どうもご無沙汰しております。この度はお招き下さり、ありがとうございます」
内心ひどくうろたえながらも、カーテシーをスムーズに行えた自分を褒めたい。こちらを睨むように見やっているパトリシア様のドレスは濃いめのワインカラーで、いつものあどけない雰囲気の彼女だと合わなそうな大人っぽいデザインだったものの、お化粧とアクセサリーで巧みにバランス調整されて着こなしていた。
「見事な花壇ですわね」
「君の美しさには負けるがね」
「……申し訳ございません殿下、噴水の音でよく……パトリシア様、あの噴水の像も大理石ですの?」
「ええ、彫刻家のナヴサに作らせましたの!」
「あのナヴサの! ……とても素晴らしいですわ」
わたくしはやけに近くで妙なことを言い出した殿下から離れつつ、彼の話をひとまず流すことにする。得意げなパトリシア様と反対に一瞬顔に浮かべた不満を打ち消すように、気取った咳払いをして仕切り直した第一王子殿下の話も、わたくしは丁寧にパトリシア様へ流す。
「……んんっ、そのドレスが似合うと言ったんだ。……私が贈ったものとは違うようだが」
「ありがとうございます、父が快気祝いにと仕立ててくれたものでございます。パトリシア様のドレスもとても素敵ですね、その生地の模様ってもしかして……?」
「うふふ! ショーン殿下がくださったの。織物で有名なアトラ領の技術者と王族御用達の職人が共同で仕立てた一点ものですのよ!」
「本当に素晴らしいですわ!」
「……そう、素晴らしいだろう」
パトリシア様のおかげで、自分の近くに来ようとするショーン殿下と思う通りに距離を置いて、話半分で豪華な庭の中を進むことに成功したものの、お屋敷に到着してすぐ見舞われた周囲の視線と、出会い頭のパトリシア様の態度に浮かんだ嫌な予感は的中してしまった。
テラスの中心に見慣れないデザインの椅子が三脚ある。
わたくしはテラスから庭に向かって等間隔で横並びに置かれた椅子を見て、思わずパトリシア様を見やったが、彼女は黙ったまま椅子を睨みつけるだけだった。
今回のパーティーの主役は新事業を発表されるショーン殿下で、大々的な発表会の場を提供する形になったランズマン家は、パトリシア様が次期王妃となることをアピールするために手を尽くしてこの場を整えたのに違いないのに。わたくしはパトリシア様の気持ちを考えながら目の前の椅子を眺め、すぐに疑問がわいた。
「ケイティはこちらに座るといい……どうした? 座りたまえ」
ショーン第一王子殿下は、わたくしを右、パトリシア様を左の椅子にかけさせたあとでその間の椅子に当たり前の表情で座った。ひとり満足そうに頷くショーン殿下に、わたくしは思い切って尋ねた。
「あの……ロビン殿下のお席はどちらでしょうか」
「呼んでいない」
「は?」
「なにか不満でもあるのか? それとも、わざわざ弟の前で夜会で伝えた言葉を私にまた言わせたかったということかな。全く涼しい顔をして人が悪いな、ケイティ」
「……いえ」
勘違いと自信に満ちたショーン殿下の流し目に、わたくしは顔が引きつるのを奥歯をきつく噛みしめ、やっと堪えてうつむいた。
「ただ、最後にお会いしたかっただけですわ……」
ショーン殿下が他の招待客に挨拶をされている隙に、そっと呟いた内容が聞こえたらしくパトリシア様がこちらを見やった。苦笑いをしてごまかすと、彼女はひたすらに険しかった表情をいぶかしげなものに変えた。




