第21話 “正義”
エレーナVSクライアです。
エレーナとクライアは戦闘に入る。
「じゃ……行くよ、エレーナ。」
「来い、クライア。」
クライアは木々の間をサークリングするように目にも留まらぬスピードで翔び回った。
一方のエレーナは、中央でどっしりと構えて動かない。
動いたとしてもビボットターンを踏むくらいだ。
クライアは翔び回りながら、氷の魔法を纏った手刀を放つ。
リオーラたちと共に戦った時にはこの韋駄天のような攻撃に苦しめられたものだ。
だがエレーナにとっては2回目のクライアとの戦い。
重い剣を振るうよりも軽いこのスタイルの方がエレーナにとっては、このスピード戦の場合は戦いやすかったし、貧民街に居た幼少期は格闘術で町の男とも対等に渡り合えたのだ、今は剣の方が慣れているとはいえ、エレーナの本来のスタイルは拳や蹴りを使った格闘戦を主に戦うのである。
クライアとの戦いの攻略法は前はウォレスに防がせてリオーラで撃ち落とし、止まったところにクライアに攻撃をエレーナが仕掛けるという戦法で勝ったので、エレーナにとっては初めてのソロ戦。
だがアルタルキア最凶の町と悪名高いバンテルで、独りで生き抜いてきたエレーナにとっては造作もない。
クライアの攻撃も冷静にパーリングで捌いていき、一瞬で順応していく。
だが、クライアもこれだけでは終わらない。
「『氷結跳弾』!」
氷を一瞬で作り出し、木々に反射させてエレーナに襲い掛からせる。
エレーナも冷静に左足軸回転で回し蹴りを放ち、氷を粉々にした。
が、クライアはこの隙を突いて一瞬で近づき、空中でハイキックを放つ。
エレーナは左腕で顔面をガードし、脚を振り払った後で左ショート裏拳を放った。
羽があるとはいえ、体勢が崩れていたクライアはまともに貰い、後退りさせられた。
「……やるわね……ここまでとは思ってなかったわ、エレーナ……!」
「……まだ全力じゃないでしょ? もっと本気で来なよ、クライア。」
エレーナの煽りにカチンときたのか、クライアは全身を氷で纏わせる。
「言ってくれるじゃないの……!! じゃあ本気で行かせてもらうわよ、久々に!!」
この技の名は『氷結の精霊』。
渾身の魔力を込めて放つ技で、まともにダメージを受ければ致命傷を負うレベルだ。
たとえエレーナであろうとも、だ。
「……あの時とは状況は違う、だけど……分からずやに分からせるためよ。」
「分からずやはどっちよ!! 覚悟なさい、エレーナ!!」
クライアは突進し、エレーナを穿ち抜こうとする。
しかしエレーナはこの攻撃を見切っていた。
一直線に突進してくる技である、と。
エレーナは一つ深呼吸を吐き、クライアの攻撃をしゃがんで避けたと同時に、右胴回し蹴りを放った。
パキィ………ン………と、ガラスが割れるような音が周囲に響き渡る。
その音の正体は、ボトッと転げ落ちた一枚の物体が現していた。
クライアの右羽だった。
地面に転げ落ちたクライアは羽を押さえ蹲った。
これで勝負あり、クライア戦闘不能でエレーナの勝利が決まったのである。
奥部に駆けつけてきたドレムが2人の姿を目の当たりにする。
「……オイ、何があった、エレーナ……なんだよこれ……」
エレーナはクライアを担ぎ、羽を持ってクライアの家の前に立っていた。
「ドレム、話は後。まずはクライアの治療が先。」
「はぁ?? なんだってんだよ……まあいいや、入るぞ。」
ドレムは状況が飲み込めないまま、エレーナに連れられてクライアの家へと入っていった。
エレーナは応急処置で羽を針と糸で縫っていく。
これは嘗ての仲間のフランに教えてもらったことで、もし自分が居なくなっても大丈夫なように叩き込まれたものである。
クライアは痛みに耐えるかのような呻き声を発するが、エレーナは諌めるような声を掛けながら羽をゆっくり、着実に縫っていった。
エルフ系の羽は、牛の角と同じで背骨にくっついている。
つまり血管や神経が通っている。
要するに、エルフ系にとっては羽がないと、まともに戦えなくなるのである。
ある程度縫い終わったエレーナは、包帯を巻く。
これで応急処置は完了した。
「……ったく、何があったんだよ……」
ドレムは呆れたように聞く。
「……決闘を申し込んだ結果がコレよ。アンタ言ってたじゃん、力尽くでも言うことを聞かせなきゃいけないって。」
「……そりゃ言ったけどよ……だからってこうなるとは俺も思ってなかったぞ?」
「クライアが勝ったら私たちは手を引く、私が勝ったら魔王の魂を半分貰うって。そういう取引よ。」
「なんだよそれ……まあクライアはああだから、そうするしかなかったかもだけどよ……わざわざ羽へし折るこたぁなかったろ。」
と言っていると、クライアが腕を踏ん張らせて起き上がった。
「なによ、ちょっと勝ったくらいで……調子乗んじゃないわよ、この裏切り者……!!」
今にもドレムに殴り掛かろうかという勢いでドレムを睨むクライア。
「馬鹿野郎。寝てろ。羽、また取れんぞ?」
「うるさい!! アタシはエレーナに負けただけで!! アンタには負けてないわよ、ドレム!!」
……謎理屈で駄々を捏ねるクライアだが、羽に痛みが走り、左手で押さえた。
「……いいから黙ってろ……あのな、お前は俺たちに負けた。俺との勝敗は云々じゃねえ。俺が指示したってわけじゃねえが……エレーナは俺の代理戦争をやった。それで負けたんだぞ、クライア。分かれよ、いい加減そこは。」
この言動にカッときたのか、クライアはドレムに掴みかかる。
「なによ、勝手なことばっか言って!! 勝手に裏切りやがって、このゴミクズ悪魔!!」
「ちょっと、落ち着きなって……」
エレーナは2人の間に割って入り、制止する。
「……まあ、確かに……俺たちもそうなように……クライアやティタノゾーア様にも“正義”があんのは分かるさ。クライアなんて人一倍そうだしな……けどよ……」
ドレムはため息を吐きながら続けた。
「お前がいくら俺にゴミクズだの悪魔だの言ってもよ……“正義”を語れるのは勝者だけだ。お前は結果的にエレーナに負けた。それが答えだよ。」
「クッ………」
クライアは苦虫を噛み潰したような顔で俯いた。
2人は顔を見合わせて、交渉が難航しそうだな、とアイコンタクトで示し合わせる。
と、ここでノックが。
エレーナが開けると、年老いた女性のダークエルフが。
「お前さんら。大丈夫かい?」
「まあ……なんとか無事よ。まだ出血があるから包帯は適度に変えなきゃダメだけどね。」
「そうかい……そりゃあよかった。」
と、女性はクライアの横の椅子に座った。
「お……お婆ちゃん?? なんで来たの……?」
「まったく……人の頼みは素直に聞きなって、私が何回言ったと思ってるんだい。」
クライアの実の祖母であるピリーアスは、クライアを諌めるように強い口調で言う。
「……まあいいさ。クライア……なんでドレムちゃんが来たか分かるかい? ……アンタに魔界の状況がマズくなるということを伝えに来ただけさ。それを止めるために……魔王の魂の半分を使って力を貸して欲しい、って言ったのよ。」
「ピリーアスさん……何回も言ってんだろ、“ちゃん”付けは止せって……まあいいや、話しなよ。俺らは別室にいるから。」
と、ドレムはエレーナを促し、別室で待機することにした。
「何よ、お婆ちゃん……今の状況がマズくなるって……」
「いいかい? よく聞きなよ、クライア……ティタノゾーア様は……恐ろしいことをやってのけるよ、このまま放っておくと、な……」
ピリーアスから語られるティタノゾーアの計画。
それは彼の忠義者だったクライアの心をも揺るがすものであった。
ドレムが何故、ティタノゾーアを止めようとしていたのか、次回語られます。




