第11話 貧民街より生まれし勇者
新章「追憶編」。
エレーナの、勇者に選ばれる前の過去が明らかになります。
今回はその話です。
ドレムとエレーナは、エレーナの故郷だというアルタルキア王国の西南端に位置する町に来ていた。
のだが。
その町はドレムが絶句するほどの荒れ模様だった。
「……オイ………エレーナ、お前冗談で言ってねえ……よな……???」
エレーナは珍しく緑色のローブを被って、自分の生まれた町を説明する。
「………ここは貧民街・『バンテル』……私はここで育ったの。」
「……いかにも、って感じだな………魔界でもこんな所なかったぜ……? 人間界はそんな貧富の差が激しいのか……??」
エレーナは俯きながら歩を進める。
「……着いてきて、ドレム。今アンタが言ったこと、教えてあげるわ。」
「お、おう………」
バンテルは、アルタルキア王国の中でも特に危険とされている貧民街で、窃盗や売春、殺人、密売買が日常となっており、町の中は荒くれ者が多い。
エレーナはそこで生まれ育ったのだというのだ、驚きだ。
それでよく真っ直ぐな、真っ当な人間に育ったものだ。
ドレムは気が狂いそうだった。
死んだように人間が生きているのだから。
魔界の魔物は知能は多少なりともあるが、ドレムや他の魔王とその血脈が特別知能が高いというくらいで、本能的アクティビティで生きているので、あんな目をして生きている者はいない。
ドレムは幼い頃にムーユと共にティタノゾーアに拾われた記憶が甦る。
ドレムで死にかけたのに、エレーナは肌の傷ひとつもないし肌艶もある。
似たような境遇で生まれ育ったのに、何故こうも性格が違っているのか、ドレムには理解が出来なかった。
やがて、エレーナはここで歩を止めた。
路地裏のようなものだったが……。
「……子供の頃、ここで生活していたの。」
「………路地裏でか?? ……見たところ何もねえところだよな……?」
「……ここの住人は……自給自足じゃないと生きていけないの。……毎朝捨てられてくるゴミを漁っては城下町から出た残飯を漁って食べる毎日……みんな生きるのに必死なのよ。それは……今も昔も。」
「……貧富の差、ってどういうこったあだよ……」
「王国へ出稼ぎに行く人もいるよ、勿論。だけど大半が……ああやって喧嘩だったり盗んだり、カラダを売ったり……それでも私が生きられたのはこの路地裏で小さい頃は生活していたから。」
フウ……と一つ息を吐き、エレーナは続ける。
「……覚えてる範囲、なんだけど……5歳の時には独りでここで生活してたんだ。……親に捨てられたというのは分かる。……私、両親の顔……覚えてないから。」
と、エレーナはまた歩み始める。
「貧富の差、っていうのは各町々そうなんだけどね? この町の外れも……バンテルの元締めで密売の人間がいたりしている。一番儲かっているのは密売買なの。バンテルは国の中枢も見向きもしない……だから密売買には最適な場所なの。今の国王は私がバンテルの出身だ、って聞いた時は大層驚いていたわ。」
「……そうかよ……エレーナ、聞くが、生きるためには何でもやったんだろ?」
「……そうね……私も例外じゃなかった。ゴミも漁ったし、ここに入ってきた人から食べ物を盗んだりとか……喧嘩もしたわ。生きるために。……皮肉にも腕っぷしだけはあったからね。」
エレーナは少し俯いている。
少し後悔していそうな顔だった。
「……でもよ、勇者の力が目覚めた、ってんならよ……そこから人生変わったんじゃねえの?」
ドレムも歩きながら質問を返す。
「……そうね。12の時までは荒んでいた。だってそうしないと生きていけなかったし……大の大人をのめした事もあったからさ……腕っぷしだけで生きていける自信があったからね……でも力に気付いたのはさ……」
と、こう続けたエレーナ。
「……その時になったある日……別の町までわざわざ行って……市場から食べ物を盗んだ時かな。……逃げてはいたんだけど……途中で兵士に追いつかれちゃってさ? やるしかないって思って兵士を殴り飛ばそうと思ったら躱されて地面に叩き伏せられちゃってね……」
「……自業自得じゃねーか……」
苦笑いしながら自らの過去を語るエレーナに、ドレムは少し呆れ気味だった。
「……その時の兵士がさ? 左手の……この勇者の証の3本線を見つけた時に……『この子は世界を救う勇者だ!!』……なんて言っちゃってさ? 私は何言ってんだとしか思えなくてね……そのあと連行されてね、王城まで。そこからは剣の修行の日々よ。勇者の剣を振れなきゃ意味ない、なんて言われちゃってね……」
「……で? 王城での生活は落ち着けたのか?」
「……3年はかかったね……慣れるのは。煌びやかな感じは……私は見たことが無かったしね、それまで。」
エレーナは一つ息を吐いた。
そしてまた、こう続けた。
「……王城でリオーラと会って……打ち解けて……そこから仲良くなって……一緒に切磋琢磨していって……そこからちょっとずつ……私も今みたいな感じになってってさ? ………で……たまたま訓練が休みだった時に……私はリオーラをさ? バンテルへ連れていってね……? リオーラが行きたいって言ってたから。」
「……そうかよ……で、リオーラの反応はどうだったんだ?」
「アンタと同じよ。……リオーラはここでも有力な貴族の家柄の末っ子の娘だったの。……貧乏なんて知らないから驚くのも無理はなかったよ。でも私が最初尖ってたわけも分かってくれて……その時にあの路地裏で約束したんだ……。」
「約束?」
エレーナはそれはもう叶わないな……と呟いて、ドレムにその事を明かした。
「……冒険が終わったらまた……路地裏に来よう、ってね……」
幼馴染って、どこまでの範囲になるんでしょうね()
次回はリオーラとの日々を語ります。
エレーナがどれだけリオーラを大事にしていたかが分かるかなと思います。




