022 短期決戦
「「「フリック!」」」
ギルドメンバーが浮き足立つ。
その間にも、阿修羅観音の攻撃が第1PTに向かう。
「やらせない!」
ジャスパーが単機で阿修羅の攻撃を防ぐ。
彼はフリックと同じ第1グループの第1PTだ。
「悪いがこれ以上は従えない――リゼル、雑魚は頼むぞ」
「分かった!」
俺は雑魚を蹴散らしながらボスに突っ込む。
脚力増強シューズの力により、一瞬で距離が詰まった。
「なっ、文人!? さっきまで後方にいたんじゃ!?」
驚くジャスパー。
「そんなことはどうでもいい。あとは俺が引き受けるから、お前はPTを立て直せ! フリックにはコイツを飲ませろ! それで失血死は防げる!」
俺はマジックボックスから高価なポーションを取り出した。
「おいおい、一人じゃきついだろ! 俺も一緒にたたか……」
「やめろ、邪魔になるだけだ」
「邪魔って……」
「きつい言い方で悪いが配慮する余裕はない。俺が仕留めるから、お前はフリックにポーションを飲ませて両グループの第1PTを立て直せ! それが済んだら第2、第3PTと協力して雑魚を駆除しろ! ここの雑魚はボスを倒すまで無限に湧くタイプだ。交代制より全員で担当するほうが楽だ!」
「無限に湧くタイプ……そんなのがあるのかよ」
「稀にある。だから俺がサクッと阿修羅を倒す。分かったら動け!」
「あ、ああ!」
ジャスパーがポーションを持って離れる。
既に意識が朦朧としているフリックのもとへ駆けつけ、半ば強引にポーションを飲ませた。
すると、たちまちフリックの傷口が塞がった。
「すげぇよこのポーション! これでフリックは無事だ!」
「失った腕は復活しないけどな」
あとは俺が目の前の六本腕野郎を倒せば終わりだ。
「塔での借り、返させてもらうぞ!」
まずは普通に攻撃を仕掛ける。
対する阿修羅は防御に徹しつつ稀に反撃を繰り出す。
「こいつ……」
塔の時とは動きが違っていた。
前は超攻撃型だったが、今回はその逆で防御に偏重している。
その理由は無限に湧くディアナイトにあるだろう。
スタミナ勝負になれば自分が有利だと分かっているのだ。
(面倒だな)
防御に徹している相手を崩すのは難しい。
時間をかければ楽勝だが、今は短期決戦が望ましい場面。
「文人、私が囮になって隙を作るからその間に仕留めて!」
リゼルの声が飛んでくる。
俺は不敵な笑みを浮かべた。
「問題ない、すぐに終わる」
「そんなの無理よ」
「まぁ見てな」
ソロの冒険者はボス戦が長引くのを極端に嫌がる。
ボス戦の後に雑魚と戦う回数が増えてしまうからだ。
雑魚は1~2時間で再出現する。
この仕様により、長引くほど道中の雑魚が復活していくのだ。
ボス戦の後は疲労が激しいので、できれば雑魚戦は避けたい。
故に、ソロの冒険者なら誰でも心得ている。
防御態勢の相手を崩す方法について。
「これでも食らいな」
俺はマジックボックスから壺を召喚した。
ボウリング玉より一回りほど小さい壺で、中には油が入っている。
この油壺を剣の腹で打って飛ばし、阿修羅にぶつけた。
「ヌッ……?」
阿修羅は驚き、それから不思議そうにする。
おそらく「何がしたいんだ?」とでも言いたいのだろう。
壺を投げつけたり油をかけたりしても直接的にはダメージにならないから。
「勝負あったな、俺の勝ちだ」
ナイトメアソードを振るい、地面に切り裂く。
その時に出た火花が油に引火する。
それはたちまち巨大な炎と化し、阿修羅を覆った。
「ヌォオオオオオオオオオオ!」
阿修羅がよろけた。
何も持っていない手で全身の炎を振り払おうとしている。
「もらった!」
ナイトメアソードの二刀流による猛攻撃。
それらは防がれることなく命中していく。
そして――。
「俺の世界から失せろ!」
トドメの一撃が決まった。
阿修羅観音の3つある首と6本の腕が宙に舞う。
次の瞬間、それらは光となって消えた。
「レベル差補正がなければ大したことないな」
ホッと一息ついて周囲を見渡す。
案の定、ディアナイトも姿を消していた。
「すげぇよ文人! なんだよさっきの戦い方!」
「まるでハリウッド映画のアクションシーンみたい!」
「あんなのリアルの人間ができる動きじゃねぇよ!」
歓声が上がる。
多くのメンバーが満面の笑みを浮かべていた。
だが、リーダーのフリックは意気消沈したままだ。
俯いて黙りこくっている。
「お宝をいただいたらサクッと帰ろう」
俺は皆を代表して宝箱を開ける。
するとスマホが震えた。
追加のSiriNスキルかと思いきや、お金が増えただけだった。
「チッ、ハズレか」
まぁいい。
最初から報酬は期待していなかった。
「フリック、撤退しよう。それでいいよな?」
「あ、ああ……」
「道中の雑魚は俺が狩るよ」
「その必要はないぞ! 俺に任せろ!」
メンバーの一人がSiriNスキルを発動した。
それによって、俺達の目の前にポータルが現れる。
「このポータルを通ればダンジョンの外へ戻れる。ポータルは俺が通るまでは消えず、PT以外のメンバーも利用可能だ」
「おお、そんなスキルがあるのか。便利だな。うらやましいぜ」
俺達はポータルを通り、安全に千年寺院から離脱する。
そして馬車を手配し、帰路に就いた。
◇
「「「お疲れー!」」」
アークに着いたら、張り詰めていた緊張の糸がほぐれた。
他の連中も同じみたいで、あくびをしている者がちらほら。
「いやぁ、ほんと今日は参加してくれてサンキューな文人!」
「お前のおかげで俺達は助かったぜ!」
「戦い方、すげー勉強になったよ!」
「今度よかったら一緒に狩りしないか? 戦い方を教えてくれ!」
「俺も教わりたい! すげぇよ文人!」
千年騎士団の面々に囲まれる。
俺は照れ笑いを浮かべながら適当に話を流す。
「なんにせよ最小限の犠牲で済んでよかったよ」
今回の戦いによる死者は1人。
阿修羅の投げたフリックの矢で頭を貫かれた男だけだ。
あの状況でこの死者数は奇跡に近い。
「だねー」
と、リゼルが軽い調子で返す。
他のメンバーにしても、仲間の死を悲しんでいない。
「あとでホームの裏にお墓を作っておかないとね」
「だなぁ。まさかアイツが死んじまうとはなぁ」とジャスパー。
「おいおい、なんだかえらく軽いな。死んだ奴は嫌われ者だったのか?」
リゼルが「そんなことないよ」と首を振る。
「これでも悲しんでるし、日本にいた頃だったら泣き崩れていたと思う」
「なら、どうして?」
「慣れちゃったんだよね。魔物と戦うのって死と隣り合わせだから。これまでにも何人か死んだメンバーがいるし、野良PTで活動していた頃もそういうことがあったしね」
「嫌な慣れだな」
「あはは、私もそう思う」
ジャスパーが「それよりさ」と手を叩いて話題を変える。
「酒場に行こうぜー! 祝勝会だ! 死んだ仲間の為にも、生き残った俺達は笑顔でいてやらないとな! さぁ美味い飯を食うぞー!」
その発言に皆が「おー」と手を挙げる。一人の男を除いて。
「ふざけるな!」
怒鳴ったのはフリックだ。
「何が最小限の犠牲だ! 何が美味い飯を食うだ!」
「え、あ、ごめん……」
ジャスパーが謝る。
皆が静まりかえる中、フリックの怒りは収まらない。
「俺は両腕を失ったんだぞ! もう生えてこない! もう魔物を倒せないんだ! 塔の攻略もできない! 地球にだって戻れない! お前らはよくても俺はおしまいなんだよ! お前らはいいよな! ポーションで回復する程度の怪我だったんだから! 俺はもうだめなんだよ! なにもかもおしまいだ!」
空気が変わった。
誰も何も言えない。
フリックは自暴自棄になって当たり散らしている。
だが、仮に冷静だとしても、抱く気持ちは変わらないだろう。
この世界で腕を失うのは致命的だ。
保険のようなシステムは存在せず、バリアフリーという言葉もない。
まさにお先真っ暗だ。
「千年騎士団は解散だ! 解散!」
フリックが喚きながら歩き去っていく。
「そんなこと言わないで」
「とりあえず休もうぜ」
「腕を失ったって大丈夫だよ」
「そうだよ。俺達がカバーするって! 仲間だろ!?」
皆は温かい言葉をかけながらフリックに続く。
「ごめんね、文人。今日はもうお開きでいいかな?」
リゼルが申し訳なさそうに頭を下げる。
「その方がいいだろうな」
後はギルドの問題だ。
部外者の俺がいても邪魔にしかならない。
「また連絡するね、本当にごめん」
リゼルは何度も何度も頭を下げてから、フリック達を追った。
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