023 ラスボス
数日後、リゼルからチャットが届いた。
千年騎士団が解散したらしい。
その原因となったのは、やはり千年寺院における阿修羅観音戦。
時間が経って冷静さを取り戻しても、フリックの気持ちは戻らなかった。
こうしてフリックは脱退。
彼を一人にしておけない、と更に数名のメンバーが脱退。
創設から10日足らずのギルドでこの状況から立て直すのは難しい。
話し合いの結果、メンバーは解散してリセットすることを選んだ。
そして、リゼルは――。
『私はソロで鍛え直そうと思う。仲間の存在は大事だけど、仲間がいないと駄目な人間でいるのは嫌。文人みたいなソロでも戦える強い冒険者になる』
◇
いつの間にか3週間が過ぎていた。
この世界に来てから。
そして、22日目。
この日、俺はついに到達した。
レベル40に。
「これで塔のレベル差補正は完全に消え失せたぞ!」
肌寒い鍾乳洞のダンジョンで握りこぶしを作る。
目の前には戦利品の宝箱が落ちていた。
ここはレベル48のPT用ダンジョン。
当たりを引けば大幅なパワーアップに繋がる。
「装備かスキル来い、装備かスキル!」
そう祈りながら宝箱を開ける。
中は空っぽで、スマホが震えた。
この時点で装備の可能性はない。
スマホを確認する。
そこには報酬が書かれていた。
『SiriNに〈超強化〉をインストールしました』
思わず「来た!」と叫んでしまう。
久しぶりのSiriNスキルだ。
しかも〈超強化〉とかいういかにも強そうな名前。
「さて、どんな効果だ?」
ヘルプでスキルの情報を確認する。
それによると、〈超強化〉は1日1回限定のドーピングスキルだった。
使用すると、30秒間だけ全ての能力が爆発的に強化されるらしい。
かなり限定的なスキルだが、だからこそ期待できる。
「今日はもう帰るだけだし試していくか」
魔物が現れることを期待しながら帰路に就く。
だが、一向に魔物の姿が見当たらない。
再出現時間までもう少しかかりそう――と、その時。
「いたいた」
ダンジョンに入ってすぐの場所で敵と遭遇した。
背中から二匹の蛇を生やしたミノタウロスだ。
不気味な見た目に違わぬ強さをしている。
「いくぜ、〈超強化〉、発動!」
SiriNに命じてスキルを発動する。
その瞬間、自覚できるほどの異変が生じた。
敵の動きがコマ送りになったのだ。
にもかかわらず、自分の動きはこれまでより機敏になっている。
そんな状態なので、当然ながら俺の攻撃は強烈だ。
敵の攻撃が及ぶ遙か前に三枚おろしにすることができた。
「やべぇぞ、なんだこのスキルは!」
名前に「超」が付くだけあり、強化具合が半端ない。
これなら30秒という短時間でも全く問題ないだろう。
「レベル、装備、スキル……完璧だな」
ニコニコ顔でダンジョンを後にする。
今日は疲れを癒やすとして、明日、挑戦するとしよう。
全冒険者の目標たるダンジョン――天使の塔に。
◇
その日は興奮から眠れなかった。ベッドの中で体を何度も右に左にと動かし、時には起きて意味もなく室内を歩き回る。鍛冶屋に研いでもらってピカピカのナイトメアソードを布で拭き、切れ味が落ちにくくなるという謎の液体を刀身に塗布する。
それでも眠れないものだから腕立て伏せとかしちゃった。
というのは全て嘘で、実際はいつもと何ら変わりなくぐっすり眠った。
「体の調子は良好、食糧も1ヶ月分ある。ポーション各種、替えの服、その他、全てにおいて問題なし」
塔の前で大きく息を吐いた。
目を瞑って精神を集中させる。
「攻略の時間だ」
23日目の朝、俺は天使の塔に足を踏み入れた。
今度は本気でクリアを目指す。
◇
塔に挑むのは今回で2度目のこと。
その経験から分かったことがある。
前回と今回で雑魚の種類が違うのだ。
今回は大型の敵が多かった。
どうやら各階層の地形や敵はランダムのようだ。
だが、雑魚は所詮雑魚なので問題ない。
「思ったよりあっさりだったな」
危なげなく49階まで突破した。
ここまで苦戦らしい苦戦をしていない。
いよいよ残すは最終――50階のラスボスだけだ。
「40階のボスも楽勝だったし、こら余裕かもしれないな」
ポータルを通る前に休憩する。
通常のダンジョンとは違い、魔物の再出現はない。
クリアした階層ではゆっくり過ごすことが可能だ。
カンカン照りの太陽を眺める。
この場所の気温は37度くらいありそうだ。
どれだけ休んでも噴き出る汗が止まりそうにない。
「体力も回復したし、ササッと終わらせるか」
疲労回復ポーションを飲んでポータルに向かう。
クリアが目前だというのに、不思議と何の気持ちも抱かなかった。
◇
50階のダンジョンは純白のエリアだった。
この世界に来る直前で過ごした場所――神の間を彷彿させる。
どこまでも無機質で、どこまでも異質な空間。
なんとなく、ラストはこんな感じの場所になるような気がした。
「汝、我らに挑む者なりか」
前方約20メートルの上空から翼の生えた4人組が降臨する。
背丈は2メートル程。全員が白銀の鎧を纏っている。
天使の塔という名前だし、こいつらは天使だろう。
相手に攻め気が感じられないので、スマホで確認してみる。
大天使:ミカエル
大天使:ガブリエル
大天使:ラファエル
大天使:ウリエル
案の定、天使だった。
それもただの天使ではなく大天使だ。
間違いなく今までで一番強い敵になる。
「我、汝に問う」
頭上に赤黒い王冠を浮かべるボス――ミカエルが言う。
他の天使には王冠が浮かんでいないので、コイツがこの階の親玉だ。
驚くことに言葉を話せるらしい。
「命を賭して我らと戦う覚悟があるか」
「なに?」
「覚悟なき者は今すぐこの場より去るがよい。追いはせぬ」
攻め気がないのは圧倒的な自信からか。
俺は「なめられたものだな」と笑った。
「ここまで来て戦わずに帰れるかよ」
「死を選ぶか、それもよかろう」
「だが、その前に一つ尋ねていいか?」
意思疎通が可能だと信じて問う。
「聞こう」
案の定、ミカエルは会話に乗ってきた。
「あんたらは天使だろ?」
「いかにも」
「天使はイイ奴というのが俺達の価値観だ。そう、魔物とは敵対する存在のはず。なのに何故、あんたらは俺達の敵――魔物側なんだ?」
「それは我らが天界から追放されたからだ」
「なるほどね」
そういう設定なわけか。
実は俺達が悪の手先でした、みたいな設定ではないようだ。
ま、自分の立場が正義か悪かなんてどうでもいいのだがな。
「これ以上は話すことはない。戦うとしようぜ」
「よかろう。いくぞ、冒険者」
ミカエルとウリエルが地を這うように飛んで迫ってくる。
ミカエルは光の剣を、ウリエルは炎の剣を構えた。
「うおっ、さすがはラスボス、鋭いな」
2天使の攻撃はこれまでの敵より遙かに鋭い。
それでも落ち着いて捌くことが可能だ。
「出でよ、キューピット隊!」
後方でガブリエルがラッパを吹く。
幼児体型の黒い天使の群れが現れた。
一様に弓を持っており、非常に鬱陶しそうだ。
「放て!」
ガブリエルの指示でキューピット隊が矢を放つ。
「チッ……!」
空から降ってくる大量の矢を避けて戦うのは骨が折れる。
「まずは雑魚からだ!」
ミカエルとウリエルの剣を弾き、ガブリエルに突っ込む。
矢の雨をくぐり抜けて距離を詰め、ナイトメアソードを振るう。
「させぬ」
割って入ってきたのはラファエルだ。
意識の外から一瞬で距離を詰められた。
左手に持っている盾を使って俺の攻撃を防がれる。
コイツは防御特化らしく、右手にも盾を持っていた。
「面倒な連携だな……」
ミカエルとウリエルが近距離、ガブリエルが遠距離攻撃を担当する。
そしてこちらの攻撃はラファエルによって防がれる。
かなりバランスのいい相手だ。
「それでも、この程度なら――」
俺は〈超強化〉を発動した。
30秒のドーピングタイムだ。
「これなら止められないだろ!」
先ほどとは比較にならない速度でキューピット隊を倒す。
約50体のキューピットは文字通り瞬殺だった。
残り27秒。
「どうせラッパを吹くたびに呼べるんだろ、お前!」
近くにいたガブリエルの首を刎ねようとする。
――が、またしてもラファエルが割って入ってきた。
「なるほど、瞬時に駆けつけて他の天使を守る能力があるのか。ならば!」
鎧の隙間を縫うように剣を通してラファエルを撃破。
残り23秒。
「今度こそ!」
「ヌオオオオオオオオオオオ!」
間髪入れずにガブリエルを殺す。
残り22秒。
「強い! やはりこのスキルは強い!」
ミカエルに迫る。
この際、ウリエルは後回しだ。
ボスから確実に仕留めてやる。
――と、思いきや。
「なっ……!」
俺の剣が防がれた。
防いだのは半透明の光るラファエルだ。
ミカエルの体の中からスッと出てきた。
「なるほど、ダメージを与えるには何かしらの条件があるわけか」
ゲームでもこの手のギミックはつきものだ。
状況から考えるに、おそらく全ての雑魚を倒す必要がある。
作戦を変更してウリエルを仕留めにかかる。
「遅いぞ! 雑魚天使!」
ウリエルの剣を軽々回避してカウンターの斬撃一閃。
胴体を真っ二つにして撃破。
その瞬間、光るラファエルが消えた。
「思った通り! これで終わりだ!」
俺はミカエルに斬りかかった。
残り時間は13秒。
これなら余裕で間に合う。
――否。
「させぬ!」
再びラファエルに攻撃が防がれた。
今度は実体のあるラファエルだ。
「死ぬがいい、冒険者!」
さらに背後からウリエルが斬りかかってくる。
「キューピット隊、矢を射ろ!」
ガブリエルも復活していた。
ついでにキューピット隊も。
「これは……!」
再び敵の猛攻が俺を襲う。
それに耐えてミカエルを攻撃しようとしても、ラファエルに防がれる。
「作戦を練り直す必要があるな」
躊躇することなく撤退を選んだ。
「今日は勝ちを譲っておこう、ミカエル」
「いつでも挑みに来るがいい、冒険者よ」
〈超強化〉の残り時間が0になると同時に、俺はポータルへ逃げ込んだ。
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