表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/32

023 ラスボス

 数日後、リゼルからチャットが届いた。

 千年騎士団が解散したらしい。


 その原因となったのは、やはり千年寺院における阿修羅観音戦。

 時間が経って冷静さを取り戻しても、フリックの気持ちは戻らなかった。


 こうしてフリックは脱退。

 彼を一人にしておけない、と更に数名のメンバーが脱退。


 創設から10日足らずのギルドでこの状況から立て直すのは難しい。

 話し合いの結果、メンバーは解散してリセットすることを選んだ。


 そして、リゼルは――。


『私はソロで鍛え直そうと思う。仲間の存在は大事だけど、仲間がいないと駄目な人間でいるのは嫌。文人みたいなソロでも戦える強い冒険者になる』


 ◇


 いつの間にか3週間が過ぎていた。

 この世界に来てから。


 そして、22日目。

 この日、俺はついに到達した。

 レベル40に。


「これで塔のレベル差補正は完全に消え失せたぞ!」


 肌寒い鍾乳洞のダンジョンで握りこぶしを作る。

 目の前には戦利品の宝箱が落ちていた。


 ここはレベル48のPT用ダンジョン。

 当たりを引けば大幅なパワーアップに繋がる。


「装備かスキル来い、装備かスキル!」


 そう祈りながら宝箱を開ける。

 中は空っぽで、スマホが震えた。

 この時点で装備の可能性はない。


 スマホを確認する。

 そこには報酬が書かれていた。


『SiriNに〈超強化〉をインストールしました』


 思わず「来た!」と叫んでしまう。

 久しぶりのSiriNスキルだ。

 しかも〈超強化〉とかいういかにも強そうな名前。


「さて、どんな効果だ?」


 ヘルプでスキルの情報を確認する。

 それによると、〈超強化〉は1日1回限定のドーピングスキルだった。

 使用すると、30秒間だけ全ての能力が爆発的に強化されるらしい。

 かなり限定的なスキルだが、だからこそ期待できる。


「今日はもう帰るだけだし試していくか」


 魔物が現れることを期待しながら帰路に就く。

 だが、一向に魔物の姿が見当たらない。

 再出現時間までもう少しかかりそう――と、その時。


「いたいた」


 ダンジョンに入ってすぐの場所で敵と遭遇した。

 背中から二匹の蛇を生やしたミノタウロスだ。

 不気味な見た目に違わぬ強さをしている。


「いくぜ、〈超強化〉、発動!」


 SiriNに命じてスキルを発動する。

 その瞬間、自覚できるほどの異変が生じた。


 敵の動きがコマ送りになったのだ。

 にもかかわらず、自分の動きはこれまでより機敏になっている。


 そんな状態なので、当然ながら俺の攻撃は強烈だ。

 敵の攻撃が及ぶ遙か前に三枚おろしにすることができた。


「やべぇぞ、なんだこのスキルは!」


 名前に「超」が付くだけあり、強化具合が半端ない。

 これなら30秒という短時間でも全く問題ないだろう。


「レベル、装備、スキル……完璧だな」


 ニコニコ顔でダンジョンを後にする。

 今日は疲れを癒やすとして、明日、挑戦するとしよう。

 全冒険者の目標たるダンジョン――天使の塔に。


 ◇


 その日は興奮から眠れなかった。ベッドの中で体を何度も右に左にと動かし、時には起きて意味もなく室内を歩き回る。鍛冶屋に研いでもらってピカピカのナイトメアソードを布で拭き、切れ味が落ちにくくなるという謎の液体を刀身に塗布する。

それでも眠れないものだから腕立て伏せとかしちゃった。

 というのは全て嘘で、実際はいつもと何ら変わりなくぐっすり眠った。


「体の調子は良好、食糧も1ヶ月分ある。ポーション各種、替えの服、その他、全てにおいて問題なし」


 塔の前で大きく息を吐いた。

 目を瞑って精神を集中させる。


「攻略の時間だ」


 23日目の朝、俺は天使の塔に足を踏み入れた。

 今度は本気でクリアを目指す。


 ◇


 塔に挑むのは今回で2度目のこと。

 その経験から分かったことがある。


 前回と今回で雑魚の種類が違うのだ。

 今回は大型の敵が多かった。

 どうやら各階層の地形や敵はランダムのようだ。

 だが、雑魚は所詮雑魚なので問題ない。


「思ったよりあっさりだったな」


 危なげなく49階まで突破した。

 ここまで苦戦らしい苦戦をしていない。

 いよいよ残すは最終――50階のラスボスだけだ。


「40階のボスも楽勝だったし、こら余裕かもしれないな」


 ポータルを通る前に休憩する。

 通常のダンジョンとは違い、魔物の再出現はない。

 クリアした階層ではゆっくり過ごすことが可能だ。


 カンカン照りの太陽を眺める。

 この場所の気温は37度くらいありそうだ。

 どれだけ休んでも噴き出る汗が止まりそうにない。


「体力も回復したし、ササッと終わらせるか」


 疲労回復ポーションを飲んでポータルに向かう。

 クリアが目前だというのに、不思議と何の気持ちも抱かなかった。


 ◇


 50階のダンジョンは純白のエリアだった。

 この世界に来る直前で過ごした場所――神の間を彷彿させる。

 どこまでも無機質で、どこまでも異質な空間。

 なんとなく、ラストはこんな感じの場所になるような気がした。


「汝、我らに挑む者なりか」


 前方約20メートルの上空から翼の生えた4人組が降臨する。

 背丈は2メートル程。全員が白銀の鎧を纏っている。


 天使の塔という名前だし、こいつらは天使だろう。

 相手に攻め気が感じられないので、スマホで確認してみる。


 大天使:ミカエル

 大天使:ガブリエル

 大天使:ラファエル

 大天使:ウリエル


 案の定、天使だった。

 それもただの天使ではなく大天使だ。

 間違いなく今までで一番強い敵になる。


「我、汝に問う」


 頭上に赤黒い王冠を浮かべるボス――ミカエルが言う。

 他の天使には王冠が浮かんでいないので、コイツがこの階の親玉だ。

 驚くことに言葉を話せるらしい。


「命を賭して我らと戦う覚悟があるか」


「なに?」


「覚悟なき者は今すぐこの場より去るがよい。追いはせぬ」


 攻め気がないのは圧倒的な自信からか。

 俺は「なめられたものだな」と笑った。


「ここまで来て戦わずに帰れるかよ」


「死を選ぶか、それもよかろう」


「だが、その前に一つ尋ねていいか?」


 意思疎通が可能だと信じて問う。


「聞こう」


 案の定、ミカエルは会話に乗ってきた。


「あんたらは天使だろ?」


「いかにも」


「天使はイイ奴というのが俺達の価値観だ。そう、魔物とは敵対する存在のはず。なのに何故、あんたらは俺達の敵――魔物側なんだ?」


「それは我らが天界から追放されたからだ」


「なるほどね」


 そういう設定なわけか。

 実は俺達が悪の手先でした、みたいな設定ではないようだ。

 ま、自分の立場が正義か悪かなんてどうでもいいのだがな。


「これ以上は話すことはない。戦うとしようぜ」


「よかろう。いくぞ、冒険者」


 ミカエルとウリエルが地を這うように飛んで迫ってくる。

 ミカエルは光の剣を、ウリエルは炎の剣を構えた。


「うおっ、さすがはラスボス、鋭いな」


 2天使の攻撃はこれまでの敵より遙かに鋭い。

 それでも落ち着いて捌くことが可能だ。


「出でよ、キューピット隊!」


 後方でガブリエルがラッパを吹く。


 幼児体型の黒い天使の群れが現れた。

 一様に弓を持っており、非常に鬱陶しそうだ。


「放て!」


 ガブリエルの指示でキューピット隊が矢を放つ。


「チッ……!」


 空から降ってくる大量の矢を避けて戦うのは骨が折れる。


「まずは雑魚からだ!」


 ミカエルとウリエルの剣を弾き、ガブリエルに突っ込む。

 矢の雨をくぐり抜けて距離を詰め、ナイトメアソードを振るう。


「させぬ」


 割って入ってきたのはラファエルだ。

 意識の外から一瞬で距離を詰められた。

 左手に持っている盾を使って俺の攻撃を防がれる。

 コイツは防御特化らしく、右手にも盾を持っていた。


「面倒な連携だな……」


 ミカエルとウリエルが近距離、ガブリエルが遠距離攻撃を担当する。

 そしてこちらの攻撃はラファエルによって防がれる。

 かなりバランスのいい相手だ。


「それでも、この程度なら――」


 俺は〈超強化〉を発動した。

 30秒のドーピングタイムだ。


「これなら止められないだろ!」


 先ほどとは比較にならない速度でキューピット隊を倒す。

 約50体のキューピットは文字通り瞬殺だった。

 残り27秒。


「どうせラッパを吹くたびに呼べるんだろ、お前!」


 近くにいたガブリエルの首を刎ねようとする。

 ――が、またしてもラファエルが割って入ってきた。


「なるほど、瞬時に駆けつけて他の天使を守る能力があるのか。ならば!」


 鎧の隙間を縫うように剣を通してラファエルを撃破。

 残り23秒。


「今度こそ!」


「ヌオオオオオオオオオオオ!」


 間髪入れずにガブリエルを殺す。

 残り22秒。


「強い! やはりこのスキルは強い!」


 ミカエルに迫る。

 この際、ウリエルは後回しだ。

 ボスから確実に仕留めてやる。

 ――と、思いきや。


「なっ……!」


 俺の剣が防がれた。

 防いだのは半透明の光るラファエルだ。

 ミカエルの体の中からスッと出てきた。


「なるほど、ダメージを与えるには何かしらの条件があるわけか」


 ゲームでもこの手のギミックはつきものだ。

 状況から考えるに、おそらく全ての雑魚を倒す必要がある。

 作戦を変更してウリエルを仕留めにかかる。


「遅いぞ! 雑魚天使!」


 ウリエルの剣を軽々回避してカウンターの斬撃一閃。

 胴体を真っ二つにして撃破。

 その瞬間、光るラファエルが消えた。


「思った通り! これで終わりだ!」


 俺はミカエルに斬りかかった。

 残り時間は13秒。

 これなら余裕で間に合う。


 ――否。


「させぬ!」


 再びラファエルに攻撃が防がれた。

 今度は実体のあるラファエルだ。


「死ぬがいい、冒険者!」


 さらに背後からウリエルが斬りかかってくる。


「キューピット隊、矢を射ろ!」


 ガブリエルも復活していた。

 ついでにキューピット隊も。


「これは……!」


 再び敵の猛攻が俺を襲う。

 それに耐えてミカエルを攻撃しようとしても、ラファエルに防がれる。


「作戦を練り直す必要があるな」


 躊躇することなく撤退を選んだ。


「今日は勝ちを譲っておこう、ミカエル」


「いつでも挑みに来るがいい、冒険者よ」


 〈超強化〉の残り時間が0になると同時に、俺はポータルへ逃げ込んだ。

お読みくださりありがとうございます。


【評価】【ブックマーク】で応援していただけると励みになります。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ