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017 謎の女剣士

 謎の異世界転移から14日が経過した。

 この2週間で、冒険者の環境は大きく変わっていた。


 ほぼ全ての冒険者が地球へ戻ることを諦めたのだ。

 レベルが上がると敵が強くなり、危険が増すから。


 ゲームであれば、レベルを上げればキャラも強くなる。

 レベル5の時に倒せなかった敵も、レベル10になれば倒せるだろう。


 しかし、この世界では違う。

 レベルの恩恵はレベル差補正しかない。

 レベルが1から100に上がったとしても、本人の強さは変わらないのだ。


 にもかかわらず、敵は強くなっていく。

 レベル20の雑魚ですら、低レベル帯のボスに匹敵する強さだ。

 ヒデヨシのようなスキルこそ使わないが、基礎的な能力はボスと違わない。


 危険な戦いになれば死人が出る。

 死なずに済んでも、再起不能な深手を負うこともある。

 ポーションで治せる範囲にも限りがあるわけで。


 結果、大半の冒険者がレベル5~10の敵で心が折れてしまった。

 そんな彼らは今や雑魚専と化し、低レベルの敵を狩る日々を送っている。


 レベル差10以上の格下を倒しても、経験値は得られない。

 経験値が得られないのだから、当然、レベルも上がらない。

 故に、冒険者の多くがレベル10~20で止まっていた。


 だが、彼らの心はそれほど荒んでいない。

 殆どがこの世界で過ごすことを受け入れたからだ。

 簡単に金が稼げるし、その他の環境だって悪くない。

 中には現地人の女と交際している冒険者もいるくらいだ。


 もはや門の前でPTを募集している人間などいない。

 今では馴染みの仲間と固定のPTを組んで活動するのが一般的だ。

 知らない奴と組む野良PTの文化は完全に消えつつあった。


 そんな環境下において、俺のレベルは33になっていた。

 ほぼ毎日に渡って狩りをしているが、それでもレベルの上がる速度が鈍っている。

 どうやらゲームと同じで、この世界もレベルが上がれば上がるほど、レベルアップに必要な経験値が増えるようだ。


「もうそろそろボスだな」


 俺は今、ソロでとある大空洞に来ていた。

 敵レベル25のノーマルダンジョンだ。

 最近は強い敵と戦ってばかりなので、息抜きに楽な狩場を選んだ。

 といってもここに来るのは初めてなのだが、思ったよりも余裕で拍子抜けしている。

 本日の目的は気分転換なのでちょうどいい。


「今日こそ“当たり”が出てくれよな」


 ボスがドロップするアイテムのことだ。

 倒せば必ず宝箱が出るけれど、中身の質はランダムである。

 当たりはSiriNスキルや装備で、ハズレは追加の経験値や金だ。


 最近は殆どハズレだった。

 ヒデヨシ以降の当たりは装備1個のみ。

 脚力増強スニーカーという靴で、文字通り脚力を強化する。


「おっ」


 珍しく先客と遭遇した。

 ヒデヨシキャッスル以来のことだ。

 いつもダンジョンには自分しかいないので驚いた。

 道中の雑魚が健在だったところを見ると、別の出入口から来たのだろう。

 このダンジョンは無数の入口があるからおかしくない。


(女……ソロか?)


 先客はピンクの髪をした女だ。

 丈の短い濃紺のワンピースに、純白のロングコートを羽織っている。

 あのコートはボスドロップの装備品〈リジェネコート〉だ。

 軽傷を自動的に回復する効果がある。


「くっ……!」


 女は右手に持ったレイピア――フェンシングの武器みたいな細長い刺突用の剣――を巧みに操っているが、戦況はよろしくなかった。


 ここの雑魚は二足歩行の大型トカゲことリザードマン。

 全長約2メートルで、単体でもそれなりに強いのに、連携して攻めてくる。

 今も4体のリザードマンが同時に襲いかかっている。


「やはり厳しいわね……! このままじゃまずい……!」


 左手の小さな丸い盾でリザードマンの槍を防ぐ女。

 首筋からは大量の汗が流れており、既に疲弊しきっている様子。


(助けてやるか)


 俺は鞘から剣を抜いた。

 しばらく前に新調した武器――ナイトメアソードだ。

 刀身が真っ黒で、魔物に視認されにくい特性を持つ。

 要するに防がれたり回避されたりしにくい武器だ。

 ゲームだったら「命中率+」みたいな効果が付いているだろう。

 使い勝手がいいので、今はコイツの二刀流だ。


「助けはいるかい?」


 加勢する前に尋ねておく。

 今の状況が女の理想なら邪魔したくない。


「あなた、なんでこんなところにソロで……! 危険よ!」


「他人の心配をしている場合か。というかそっちもソロだろ。で、助けはいるの? いらないの?」


「…………」


 女は何も言わず、苦悶の表情を浮かべる。

 それから、目に見えて悔しそうな顔で言った。


「……ちょうだい」


「なんだって?」


「助けてちょうだいってば」


 どうやら他人に頼るのが嫌なタイプらしい。

 俺も同じタイプなので気持ちは分かる。


「任せておけ」


「ありがとう。1体もらってもらえる? 相手が3体ならどうにかなるから」


「いや、3体もらおう」


「そんな、危険よ」


「問題ないさ。4体でも余裕だが、全部取られるのは嫌だろ?」


 俺はナイトメアソードを振るい、サクッと3体倒す。

 倒すまでの時間は数秒だった。

 右手を2回、左手を1回振っただけでゲームセットだ。


「なっ……!?」


「俺にとってはぬるいんでね、このダンジョンは」


「凄ッ……こんな人がいたなんて……」


「世の中には上がいるものさ。じゃ、俺は先に行くよ。助けたお礼ってことでボスはいただくぜ」


 女に背を向けて大空洞の奥を目指す。


「あの……」


 女が呼び止めてくる。


「ん?」


「いや、なんでも……助けてくれてありがとうね」


「気にするな。冒険者同士なんだから助け合ってなんぼだ。またな」


 再び歩き出す。

 それから最奥部でサクッとボスを倒して宝箱を回収する。


「チッ」


 今回もハズレだ。

 よりによって追加のゴールドだった。

 経験値ならまだマシなのに。


「ま、今日は息抜きの日だったし何だってかまわないか」


 剣を鞘に戻して帰路に就く。

 しかし、少ししたところで足を止めた。

 先ほどの女がポツンと佇んでいたからだ。

 周囲の魔物はいないし、戦闘を終えてまもなくといった感じでもない。


「誰かを待っているのか?」


「誰かじゃなくてあなたを待っていたのよ」


 そう言って、女はこちらに近づいてきた。


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