018 リゼル
「あなたに訊きたいことがある」
ピンクの髪の女が言う。
今になって気づいたが、彼女の顔は日本人に見えた。
「訊きたいことって?」
「いつもソロで活動しているの? 仲間は? 友達は?」
ネットによくあるゴミサイトのタイトルみたいだ。
思わず「調べたけど分かりませんでした!」と言いたくなる。
「ソロだよ。仲間はいないが友達はいる」
脳裏にシャーロットとマリナの顔が浮かぶ。
勝手に友達扱いにしてよかったのかな、と思った。
結局、二人とは殆ど連絡をとっていない。
最近は通話はおろかチャットすらしていなかった。
「友達がいるのにソロで活動しているって珍しいね。もしかして、友達はレベル上げを放棄しちゃったタイプ?」
「そんなことないよ。分からないけど、たぶん頑張ってるんじゃないかな」
「そうなんだ。ならどうしてソロでやってるの?」
「人と群れるのが好きになれなくてな」
「そっかぁ……」
残念そうな表情をする女。
「で、それを訊くために待っていたのか?」
「違うよ」
「だったらなんだ?」
「あなたを私の入っている〈ギルド〉にお誘いしようかと思ってね」
「ギルド……」
「もしかして知らない?」
「いや、ギルドが何かは知ってるよ」
ギルドは最近になって増え始めたものだ。
ネットゲームで「ギルド」や「クラン」と呼ばれるものと同じ。
共通の目的を持った者達が形成する組織のこと。
この世界のギルドは、日本の学校における部活動に近い。
「私の所属するギルド〈千年騎士団〉は、そこらのお遊びギルドとは違うの。あなたは人と群れるのが嫌いみたいだけど、それでもきっと興味を持ってもらえると思うよ」
「ほう。どう違うんだ?」
「目標は塔の攻略より上――最強よ。塔の攻略は通過点に過ぎない」
「それは珍しいな」
大体のギルドは塔の攻略を目的としている。
もっとも、その多くが既に目的を失って馴れ合っているだけだが。
とにかく、純粋に強さを求めているギルドは聞いたことがなかった。
「もちろんそういうギルドだから入隊には一定の強さが求められるわ。でも、そのせいで人が足りてないのも事実。30人しかいないからね」
「よくある中小ギルドって規模だな」
規模の大きなギルドは100人以上に及ぶ。
彼女らのギルドは少数精鋭なのだろう。
「だからあなたのような腕の立つ人間が参加してくれると嬉しいわけ。どう?」
「お断りだ。PTですら気が進まないのにギルドなんて無理だ、性に合わない」
最近ではPTを組もうなどとは思わなくなっていた。
ソロのほうが気軽で安全、且つ効率もいいからだ。
自分があと5人いればいいのに……といつも思っている。
「群れるのが嫌いって言ったから断られるとは思ったんだよね。だけど、あなたみたいな凄く強い人は見たことないし、『はい、そうですか』で諦めるつもりなんてないから」
「だったら、どうする?」
「もう少し粘る!」
「作戦とかないのかよ」
「ないない!」
思わず笑ってしまう俺。
「とりあえず見学だけでもしていってよ! 参加しなくてもいいからさ! ずっとソロなら、ギルドのこと何も知らないでしょ?」
「それはそうだが、見学しても入らないよ」
「気が変わるかもしれないじゃん! あながち悪くないよ、ギルドって!」
「無理だと思うけどなぁ、群れるの嫌いだし」
「そう言わずに、ほら、スマホ出して!」
「スマホ?」
「フレンド登録するのよ! 逃げられても追えるように!」
「こわっ」
「こう見えて私はしつこいんだから」
「どう見てもしつこそうだが……」
「もー、なんだっていいでしょ? ほら! 早く! スマホ!」
女はスマホをちらつかせながらせかしてくる。
「やれやれ、分かったよ」
面倒なのに捕まったものだ。
俺は苦笑いでスマホを取り出し、女をフレンドに登録した。
それによると、彼女の名前はリゼルというらしい。
「リゼル? 日本人だと思っていたが」
「日本人だよ、文人と同じでね」
「その割に日本人ぽくない名前だな」
「名前を変えたのよ。名前の変更はスマホの設定でできるでしょ。もしかして文人、ヘルプを読まない人? 駄目だよ、ヘルプは熟読しないと」
ヘルプを熟読せよ、か。
俺がよく他人に言うセリフだ。
まさか俺が言われる側になるとはな。
「名前を変更できることは知っているよ。俺だって苗字の『洛乃宮』を消して『文人』だけにしているわけだし。気になったのはなんで全く違う名前に変更したのかってことだ。本名がキラキラネームなのか?」
「ううん、普通だよ。本名は明梨っていうの。明るい梨と書いて明梨。ちなみに苗字は鷹見ね」
「イイ名前だと思うが、自分の名前が嫌いなのか?」
「そうでもないよ。ただ、なんとなく外人ぽい名前にしたかっただけ。こんな髪の色をしている日本人の女がまともなわけないでしょ? だったら外人ぽい名前のほうがいいかなって」
一理あるな、と思った。
「じゃ、アークに戻ってギルドホームに行きましょ!」
「ギルドホームなんてものもあるのか」
「皆でお金を出し合って買ったの。本気で活動しているわけだし、いつも適当な酒場に集るのはどうかと思ってね」
「いいんじゃないか、本格的だ」
「でしょー」
リゼルがPTを申し込んできたので承諾する。
彼女のレベルは24だった。
「レベル34!? ソロでそこまで上げたの!?」
俺のレベルに驚愕するリゼル。
「そうだけど」
「凄すぎでしょ。というか、もうレベル30台に到達している冒険者がいるなんてね……。てっきり27くらいが今のトップレベルだと思っていたよ」
「上には上がいるってことさ。俺よりもレベルの高い冒険者だってどこかにいるだろう、見たことはないけど」
「文人のことを知ったら、ギルドの皆はぶったまげるだろうなぁ」
「そんな大したものじゃないさ。レベルより実力のほうが大事だ。レベルは飾りに過ぎない」
「文人は実力も凄いじゃん。私を助けてくれた時、イマジンムーブを使ったの?」
「助けた時だけじゃない。常に使っているよ――今もね」
「常に!? 同レベルの相手にも使うの? というか使えるの?」
「もちろん」
前方に現れたリザードマンを喋りながら倒す。
リゼルが武器を構えようとしている間に戦闘が終わった。
「世間では雑魚専スキルとか言われてるけどね、イマジンムーブ」
「そりゃそうでしょ。想像に集中する余裕なんかないし、戦闘中は」
もはやイマジンムーブのことを知らない冒険者はいないだろう。
にもかかわらず、戦闘でイマジンムーブを使う冒険者は少ない。
大半の冒険者は、スライムやミニウルフと戦う時しか使っていなかった。
「鍛えればなんとかなるものさ。現に俺はなんとかなっているから今まで生きているわけだし」
「どうやったらそんな風になれるのよ……」
その後も雑談を楽しみながら進み、俺達はダンジョンを後にした。
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