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015 初挑戦

 街に戻った俺とマリナは、新たな力を試すことにした。

 SiriNにインストールされたという〈マジックボックス〉だ。


 ヘルプに追加されたページ「SiriNスキル」で詳細を確認する。

 それによると、異次元空間にアイテムを収納できる能力らしい。

 逆に収納したアイテムを取り出す――厳密には召喚することも可能だ。


「発動方法はSiriNに命令するかイマジンムーブでいいらしい」


「イマジンムーブの習得が望ましいデスネー!」


「いちいち口にするのは面倒だしな。ま、今回は声に出して試してみよう」


 俺はスマホを左手に持ち、右手に赤いポーションを持つ。


「SiriN、このポーションを収納してくれ!」


『かしこまりました』


 次の瞬間、右手のポーションが静かに消えた。


「凄いデース! 手品みたいデース!」


 マリナが拍手する。

 それに対して俺は笑った。


「マリナにも同じ力があるんだぞ」


「試してみマース! SiriN、私のバックパックの中にある物を全て収納してくださいデース!」


『かしこまりましたデース!』


 マリナと同じような口調でSiriNが返事し、彼女のバックパックが空になった。


「できましたデース!」


 同じ要領で、今度はアイテムを取り出してみた。

 こちらも特に問題ない。

 ゲームのようにどこからともなくアイテムが現れた。


「便利な能力だな。これは狩りの快適度が大幅に上がるぞ」


「デスネー!」


 明日以降の戦いを軽く想像した後、「よし」と呟く。


「これで解散だな。一緒にメシでも食いに行くか?」


「行きマース!」


 俺は馬車を手配し、マリナと一緒に乗った。


「運転手さん、ゆっくり進行でお願いしマース!」


 客車に乗り込むなり、御者に注文するマリナ。

 壁の向こうから「かしこまりました」と元気のいい声が返ってくる。


「馬車の速度を緩めることができるのか、知らなかったぜ」


「外の景色を楽しめるのでオススメなのデース!」


「たしかに」


 客車の窓から外を見下ろす。

 京都やバルセロナを彷彿させる整理された区画が美しい。

 上空から見下ろすと、数百万の人が蟻のように見えた。


「文人、私たちの連携は完璧でしたネー!」


「ああ、そうだな」


「よかったら今後も一緒に活動しませんカ? 私たちなら最強になれマスヨ!」


 マリナとペアか、悪くない。

 だが……。


「悪いな、今は誰ともつるむ気がないんだ。単発的にPTを組む分にはかまわないが、ずっと一緒に活動するというのは気が進まない」


「そうなんデスカ、残念デース」


 マリナがシュンとした顔で俯く。


「そんなに悲しむなよ。二度と組まないと言っているわけじゃない。機会があればまた一緒に戦おう。俺から誘うことだってあるかもしれないし」


 マリナは「むぅ」と唸り、何やら考え込む。

 ほどなくして「だったら……」と口を開いた。


「私のことを忘れられないようにするのデース!」


「忘れられないようにって、ちょ、おわ、何をする!?」


「今日のお礼デース!」


「お礼って、お前、そんなところを触るなぁ!」


「いいからいいから、減るものじゃないのデース! それに文人、まんざらでもない顔をしていマース!」


「おっほ……! これは……たまりません……!」


「運転手さん、あと1時間追加で走ってくださいデース!」


「かしこまりました!」


 馬車が目的地に到着するまでの間、俺はマリナに襲われ続けた。

 それは彼女の言葉通り忘れられないものであり、とても素晴らしかった。


 ◇


 5日目――。


「またな、マリナ」


「文人、いつでも声をかけてくださいネ!」


「もちろん」


 朝、宿屋の前で俺達は解散した。

 昨日は同じ宿屋、いや、同じベッドで眠った。

 良いか悪いかで言えば文句なしに良かった。


「疲れが尾を引いている……夜遅くまで頑張りすぎたか」


 適当な薬屋で疲労回復ポーションを購入する。

 それをグビッと飲み干し、体の調子を整えた。


「まだクリアできないのは分かっているが――」


 顔を上げ、視線を目の前に並ぶ建物群の更に奥へ向ける。

 ひときわの異彩を放つダンジョン〈天使の塔〉を見た。


「――挑んでみるか」


 天使の塔は全50階からなる特殊なダンジョンだ。

 ヘルプによると、中は隔絶された空間とのこと。

 その為、塔の中で他のPTと会うことはないそうだ。


 塔の敵レベルは階層と一緒。

 つまり3階にいる敵のレベルは3ということ。

 今の俺は20レベルなので、29階までは攻略できる。

 それ以上の敵はレベル差補正によってダメージを与えられない。

 なので、俺が百戦錬磨の人間だったとしてもクリアは不可能だ。


 それでも挑戦してみることにした。

 敵の感触を知っておきたいからだ。

 失敗してもリトライし放題なので問題ない。


 酒場で聞いた話によると、普通のダンジョンと変わりないそうだ。

 10階にボスがいるらしいので、20階、30階、40階もボスの可能性が高い。

 50階は言わずもがな。


「よし、やるか」


 馬車で塔の前にやってきた。

 近くで見るとますます大きく感じる。

 東京タワーよりも遙かに高い。

 とても50階しかないようには見えなかった。

 実は300階あると言われても、感想は「でしょうね」になる。


「もしかしてお前も塔に挑むのか?」


 背後から話しかけられた。

 振り向くと、そこには強者感の漂う男の4人組。


「まさか。俺はソロだぜ? 通用しないさ」


 笑いながら答える。


「レベルもきついだろう。クリアするには最低でも40はいる」


 リーダーと思しき男が言った。

 白人のおっさんで、年齢は30代後半といったところか。


「あんたらは挑戦するのかい?」


「そのつもりだ」


「するとレベルは40以上?」


 もしそうなら大したものだ。


「いいや、そんなに高くない。まだ17だ。といっても、俺達よりレベルの高い冒険者はいないだろうな。この世界に来てからずっと狩り続けている。だから冒険者の代表みたいな気持ちで臨ませてもらう」


 俺は「そうだな」と苦笑い。

 自分のレベルが20であることは黙っておいた。


「レベル17ってことは感触を確かめに行くわけか」


「そういうことだ。とりあえず今の限界である26階まではクリアしたい


 俺なら両手でもきつそうな大剣を片手で担ぎ、男は塔の扉を開く。

 扉の向こうは文字通りの暗闇で、何があるか見えなかった。


「では行ってくる。またな、少年」


「おう。応援しているよ」


 4人組が扉の向こうに消える。

 すると、扉は自動で閉ざされた。


「俺も負けてられないな」


 両手で頬を叩いてから、俺は塔に入った。

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