014 肉弾戦
ヒデヨシに突っ込む最中に、マリナが話しかけてきた。
「文人、どうしマス?」
「とりあえず〈刀狩り〉を体験させてもらうとしよう」
俺はアイスソードを抜いた。
フレイムソードは鞘で眠らせておく。
マリナも棒を構えた。
「フンヌゥ!」
思惑通りヒデヨシが〈刀狩り〉を発動する。
分かっていたので武器に力を込めていたが、それでも奪われた。
どうやら力の強さに関係なく奪い取れるようだ。
マリナの持っていた棒も吸い寄せられてしまった。
一方で新たな発見もあった。
鞘で眠っているフレイムソードは奪われなかったのだ。
手で持っている武器を奪う効果のようだ。
「ほ、本当に二人で挑みやがった……」
「あいつらやべぇぞ」
背後から声が聞こえる。
「馬鹿が格好つけている間に撤退しましょう、クラークさん!」とヨルサン。
「果たして彼らは馬鹿なのか、それとも勇敢なのか……とにかく、今のうちにポーションを飲んで後退するぞ!」
突っ込む俺達とは反対に下がっていくクラーク達。
「文人、ここからどうしマス?」
「決まっている――肉弾戦だ!」
俺はポケットからスマホを取り出した。
拳で殴ると手が痛いので、スマホを鈍器代わりにするつもりだ。
奪われてもそれはそれで問題ない。
「ンキャー!」
ヒデヨシが兜のブレードを投げつけてくる。
マリナは動きを止めて回避した。
突っ込みながら避けるのは厳しいようだ。
一方、俺はイマジンムーブのおかげで問題ない。
最小限の動きで避けていく。
そして、避けるのが面倒なものはスマホで弾いた。
「文人、そんなことしたら壊れちゃうデース!」
「大丈夫、このスマホは何をしても壊れない」
「そうなのデスカ?」
「ヘルプに書いてあるぜ」
スマホは絶対に壊れず、紛失することもない。
さらにはバッテリー切れの心配もない驚異の代物だ。
「戦いに集中しろマリナ、連携するぞ!」
俺はヒデヨシの脇をすり抜けて回り込む。
それに対応しようと、ヒデヨシは体を半回転。
その隙をマリナが突く。
「うりゃー!」
凄まじい後ろ回し蹴りがヒデヨシの背中を襲う。
「ンガァ!」
バランスを崩して転倒するヒデヨシ。
「もらった!」
俺はフレイムソードを抜いてヒデヨシの顔面に斬りかかる。
だが、ヒデヨシは小手でガードしてそれを防いだ。
そこから流れるような動きで俺を蹴飛ばそうとする。
俺が後ろに跳んで回避すると、その間に立ち上がった。
奪われないよう、フレイムソードを鞘に戻しておく。
「なんだ今の動き、ハリウッド映画かよ!」
「ボスを圧倒してるぞ!」
「マリナも文人もすげぇ!」
ギリギリまで離れたところで湧き上がる連合もとい観衆。
「距離を詰めたらこっちのものだな」
「デスネー!」
「次で決めるか」
「分かりましたデース!」
俺とマリナには余裕があった。
なぜなら今の攻撃は本気ではなかったから。
ヒデヨシの挙動が未知数なので警戒していた。
ボクシングで喩えるならジャブをしていただけに過ぎない。
フィニッシュブローを叩き込むのは次のターンだ。
「文人、準備はいい?」
「それはこちらのセリフだ」
「いきますヨー!」
ヒデヨシに突っ込む俺達。
投げつけられるブレードを軽やかに回避して距離を詰める。
「えいえいえいー!」
マリナがパンチとキックの連打で押し込む。
俺は背後に回り込む素振りを見せてヒデヨシの隙を窺う。
そんなことをしなくても問題なかったが、より楽勝になった。
「どりゃー!」
マリナはヒデヨシの膝裏に脚を絡め、胸を手で押して倒した。
柔道の大外刈りに近い動きだ。
「今度は仕留めるぜ」
俺はフレイムソードを抜いた。
ヒデヨシはすかさず右手を伸ばし、〈刀狩り〉を発動しようとする。
「そいつを待っていた!」
フレイムソードを逆手に持ち、ヒデヨシの手のひらを突き刺す。
剣は手のひらを貫通し、畳の奥深くまで刺さった。
「グギャアアアアアアアアア!」
ヒデヨシは悲鳴を上げながら左手で剣を抜こうとする。
だが、そう易々とは抜けない。
ヒデヨシの右手の甲を貫通し、畳にめり込んでいた。
「これでもう逃げられないぜ」
俺は近くに転がっている大量の武器の中から棒を拾った。
マリナの得物だ。
「決めてやれ!」
マリナに棒を投げる。
彼女はそれをキャッチし、両手で持って振り下ろす。
「私と文人は最強で無敵デース!」
顔面を何度も強打されるヒデヨシ。
最初こそ左手で防ごうとしていたが、すぐに抵抗しなくなった。
それからまもなくして、ボス猿は光と化してこの世を去った。
「「ふぅ」」
俺とマリナは同時に安堵し、額の汗を拭う。
「ナイスだ、マリナ」
「文人こそ凄いデース」
「というか、大したことなかったな」
「デスネー!」
初見殺しの〈刀狩り〉以外は驚異ではなかった。
もう少し強いと思っただけに拍子抜けだ。
なんだこの程度なのか、と。
「嘘だろ……」
「マジで倒しやがった……」
「信じられん……」
連合の面々は俺達に驚いている。
そんな中、ヨルサンだけは相変わらずだった。
「俺達を人柱に使っていいとこ取りかよ! 卑怯者!」
「何言ってんだ、お前」
呆れ果てる俺。
「だってそうだろ! 俺達が体を張って武器を奪う技を特定したんだ! それがなかったらお前らなんて負けてただろ! そうに違いない!」
「それはちょっと無理な言い分だろう」
「なにが無理なんだよ! えぇ!? おい! 言ってみろよ!」
凄んでみせるヨルサン。しかしながらまるで威圧感がない。
群れた時だけ強気になる陰キャ特有のイキりに他ならないからだ。
「そもそも後ろで見とけと言ったのはお前だろ。というか、俺達が参加しなかったら全滅していたんじゃないか。避けられないでしょ? ヒデヨシの投げブレード」
「それは……」
「たしかに後ろから見ていたおかげで武器が奪われることは分かったけど、別に初見であれを食らったとしても問題ない。肉弾戦に持ち込むのは一緒なんだから。要するにお前のそれは言いがかり、難癖ってやつだ」
「文人の言うとおりだ」
割って入ったのはクラークだ。
「彼がいなければ俺もお前も死んでいた可能性が高い。それに俺達は、文人とマリナを盾にして立て直したんだ。感謝こそすれ突っかかる道理はないだろう」
「ぐっ……」
黙るヨルサン。
「では報酬をいただくとしようか」
俺は宝箱に目を向ける。
「マリナ、開けていいぞ」
「これは文人が開けるべきデスヨ!」
「俺が?」
「今日のMVPは文人デース。それにPTのリーダーも文人デース」
「そういうことなら」
皆が見守る中、俺は宝箱を開けた。
その中身は――。
「あれ? 何もないぞ」
「空!? どういうことデスカ!?」
何も入っていなかった。
まさかのハズレである。
と、思いきや。
ブルル、ブルル。
俺とマリナのスマホが震えた。
確認してみる。
『SiriNに〈マジックボックス〉をインストールしました』
よく分からないが、報酬はSiriNの拡張機能らしい。
次の行には「使い方を確認しますか?」と書いてある。
俺は「いいえ」を選択した。
いいえを選んでも後からヘルプで確認可能だからだ。
選択肢の下にわざわざ注釈が入っていた。
ならばこんな所で確認する必要はない。
「マリナ、ここに長居する気はないし帰ろう」
「分かりましたデース!」
「クラーク、連合に誘ってくれてありがとう、楽しかったよ」
「こちらこそ、俺達を助けてくれてありがとう。きっと断られると思うが、よければ俺達のPTに入らないか? 4人PTだから2人を加える余地がある」
「悪いな、群れるのは好きじゃないんだ」
「私も遠慮しておきマース!」
「そうか、だと思ったよ」と笑うクラーク。
「マリナ、待て」
そう言って立ち塞がったのはヨルサンだ。
「昨日のことは謝る。俺達のPTに戻ってくれないか?」
「…………」
マリナは無言の無表情だ。
(この男……マジか?)
俺も言葉が出なかった。
もはや面の皮が厚いというレベルではない。
このヨルサンという男、何かしらの病気ではないだろうか。
「ヨルサン、PTはもう満員だよ」
PTメンバーがヨルサンに言う。
「それなら問題ない」
ヨルサンの視線が、昨日はいなかった新顔に向かう。
日焼けの凄い男だ。夏になると毎日ビーチに行っていそう。
「ビッチャム、お前はクビだ」
「ええええ! 俺、クビっすか!?」
「そうだ、お前はPTに必要ない。マリナと代わってもらう」
「うぃ! 了解でーす!」
ビッチャムはあっさりクビを受け入れた。
「マリナ、これで枠は空いた。戻ってこい」
ここまで無表情だったマリナが鼻で笑う。
「戻らないのデース!」
「なんだと?」
「今更もう遅いのデース!」
「ぐぐぐっ……そこをどうにか考え直してくれないか?」
「ヨルサン、あなたのPTは入る価値がないデスヨ」
ヨルサンはガックシと肩を落として俯く。
かと思いきや、スッと顔を上げてビッチャムを見た。
「なぁビッチャム、よかったらPTに――」
「戻らねぇよ!」
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