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011 ヒデヨシキャッスル

 次の日。

 朝、俺は訓練場へ向かった。

 イマジンムーブの特訓をする為――ではない。

 それは起きた瞬間から始まっている。


 俺の目的は他の冒険者の観察だ。


「おおー! いい感じだ!」


「こっちも発動までの間隔が短くなってきた!」


(思った通りだな)


 訓練場ではイマジンムーブの練習が盛んに行われていた。

 口コミで聞いたりヘルプを読むなりして知ったのだろう。

 冒険者の質が向上していっているのを感じる。


(俺も試していくか)


 予定はなかったが、案山子を斬っていくとしよう。

 マリナとPTを組む日だからな。

 これまでの成り行きを考えると、今日は絶対に格好よく決めたい。


「それっ」


 左右の剣を素早く交互に振るう。

 ゲームの双剣使いに劣らぬ連撃で案山子を刻んだ。


「すげぇ! なんだよ今の!」


「イマジンムーブを使いこなすとあんな動きができるのかよ」


「二刀流かっけぇ!」


 周囲の冒険者が歓声を上げる。

 その反応を見ていて思った。


(イマジンムーブに関しては俺に一日の長があるな)


 目立ちたくてやったわけではないので、静かにその場から立ち去った。


 ◇


 予定時刻になり、アークの西門付近でマリナと合流した。

 軽い挨拶を交わしたら早々にPTを組む。

 事前に聞いていた通り、彼女のレベルは9だった。


「よし、行くか」


 俺の言葉に「えっ」と驚くマリナ。


「PTはまだ二人しかいませんヨー?」


「そうだけど、それが何か?」


「もっと募集しないと危険デース」


「大丈夫さ」


「えぇ……本当デスカ? もったいないデスヨー!」


 もったいないというのは効率のことだ。

 ソロで得られる経験値を100としたら、PTは60しか得られない。

 そして、この60というのは人数に関係なく同じだ。

 だったら、上限の6人ないしはそれに近い人数で活動する方が効率的。


「今日の目的はPTで活動することであってレベル上げじゃない。経験値を効率的に稼ぎたいならソロで戦うさ」


「そうなんデスカ?」


「群れるのは好きじゃないのでな」


「ワオ! かっこいいデース!」


「それほどでもないさ。そんなわけで向かうぞ。昨日のチャットで言った通り、回復アイテムは準備しておいたな?」


「ばっちりデース! この中に入ってマース!」


 マリナは背負っているリュックを見せる。

 パンパンとまではいかないが、なかなか膨らんでいた。

 制服のポケットで済む分しか買っていない俺とは大違いだ。


「オーケー、馬車を手配しよう」


 ◇


 マリナのことで知っているのは2つのみ。

 レベルが9で、武器は自分の背丈よりも長い棒ということ。

 戦闘技術がどの程度のものかは分からない。


 だから、今回は敵レベル10のダンジョンを選んだ。

 PT用と書いていない一般的なダンジョンで、その名は――。


「ここが大阪城……じゃない、ヒデヨシキャッスルだ」


 大阪城の本丸にしか見えないダンジョン。

 それが今回のダンジョンこと〈ヒデヨシキャッスル〉である。

 全体的な色合いが紫色に染まっていなければ大阪城と見間違うだろう。

 そんなエセ大阪城は荒野にポツンと佇んでいた。


「日本のお城みたいデース!」


「どう見ても現代の日本にある大阪城だからな。目の前にあるのは桜門だし、奥に見える天守閣も瓜二つだ」


 とはいえ、日本の大阪城との違いもある。

 天守閣の南に位置する桜門の周囲の堀が水堀なのだ。

 日本だとこの辺りは空堀になっている。


「文人、作戦はどうしますカ?」


「そんなものはない」


「えっ、作戦もなしに戦うのデスカ? ヨルサンがそれは馬鹿のすることだと言っていましたヨ」


「たしかに作戦は大事だ。戦いは始まる前に勝敗の大部分が決定するものだからな。しかし、今回の俺達は互いのことをまるで知らない状態なので話が違う。まずは適当に戦って互いの動きを把握する。作戦を決めるのはそれからさ」


「たしかにその通りデース。文人は頭がいいデース」


「ふっ、MMORPGの対人戦じゃ常識だぜ」


 俺は剣を抜いた。

 それを見たマリナも棒を構える。


「戦闘開始だ」


「開始デース!」


 俺達は同時に駆け出した。


「文人、速すぎるのデース」


「イマジンムーブを使っているからな」


「イマジンムーブとは何ですカー?」


「知らないのか」


「教えてくださいデース」


「あとでな」


 イマジンムーブを知らないとは驚いた。

 だからといって戦闘に支障を来すことはない。

 マリナがイマジンムーブを実戦レベルで扱えるとは思っていなかった。

 今の時点でそんなことができるのは、俺を含む一握りの者だけだろう。


「なるほど、雑魚は足軽兵というわけか」


 桜門を抜けた先に大量の魔物が待っていた。

 小学校低学年のような背丈の猿で、足軽らしく軽装備だ。

 被り笠のような兜がワンポイントになっていて可愛らしい。

 武器は槍が多くいが、しばしば刀持ちも見かける。


「SiriN、敵の名前を教えてくれ」


『足軽モンキーです』


「ふっ、見たままってことか」


 一足先に敵の群れに突っ込んで戦闘を開始した。

 猿共は俺を囲むように展開して応戦する。


「流石にレベル10だとゴブリンよりも機敏だな。だが――」


 ブスッ! グサッ! ザシュッ!


「――俺の敵ではない」


 多人数との戦いは慣れている。

 俺を包囲する猿の数は20かそこらだが、この程度なら楽勝だ。

 昨日のダンジョンツアーでは50体以上の敵に包囲されたこともあった。


「文人、すごいデース!」


 遅れてマリナも参戦する。

 彼女は俺の背中を狙う猿だけを的確に仕留めていく。

 棒を巧みに操り、猿の顔面にダメージを与える。

 明らかに俺をカバーする動きだ。


「マリナ、お前もガンガン攻めていいんだぞ」


「それは……駄目デース」


 マリナの表情が暗くなった。


「もしかして、昨日ヨルサンに言われたことを引きずっているのか?」


 猿の脳天に剣を叩き込む。

 鉄の笠は普通に斬れたが、硬くて手が痺れた。


「そうなのデース。私は突っ込むと周りが見えなくなりマス」


「そんなの気にするなよ。ヨルサンのPTには昨日が初参加だったんだろ」


「そうデスガ……」


「試しに好き放題暴れてみろ。俺が合わせてやる。駄目そうなら言うからとにかくやってみろ」


「は、はい」


 マリナはポジションを変えて、俺より前に立った。

 先程まで俺に集中していた猿の半数が彼女に向かう。

 示し合わせたかのように、全ての敵が同じタイミングで襲いかかった。


「やー! どりゃー!」


 マリナが応戦する。

 地面に突き刺した棒を両手で握り、体を水平にして全方位に回転キック。

 それで敵を蹴散らした後、素早く棒で殴ってとどめを刺していく。

 さらに、死角から迫ってきた猿は肘鉄で吹き飛ばした。


「イマジンムーブなしでその動きが可能なのか」


 凄まじい棒術と体術だ。

 イマジンムーブを使わなければ俺など相手にならない。

 それと同時に思った。


(そりゃヨルサン達じゃついていけないわ)


 マリナの動きについていくならイマジンムーブが必須だ。

 それか、軍人のように戦闘訓練を受けている必要がある。


「マリナって、地球(むこう)では何の仕事をしていたんだ?」


「軍人デース! 詳しいことは秘密だけど特殊部隊に所属していマス!」


「だと思ったよ」


 今更ながら思う。

 そもそも武器に棒を選ぶ時点で常人ではないのだ。


「文人、大丈夫デスカー?」


「余裕だよ」


「もっとギアを上げてもいいデスカー?」


「おうよ」


「ありがとうございマース!」


 マリナが「いきますヨー!」と言って笑みを浮かべる。

 次の瞬間、彼女の動きのキレが目に見えて鋭くなった。


「これが私の全力デース! えいやー!」


「なかなか強いじゃないか。だが、俺だって負けていないぞ」


 負けじとギアを上げる俺。

 押し寄せる敵が群れを形成する前に消していく。


「文人はすごいデース! 私より強い人、久しぶりに見たデス! というか強すぎデース! 動きが人間離れしていマス! 地球では何をしていたのデスカ? さては日本の特殊部隊デスネー?」


「ただの高校生だよ」


「えぇ……! アジアの高校生は最強デース!」


「いやいや、イマジンムーブのおかげだから。後で詳しく話すよ」


 しばらくの間、俺達は二人で暴れまくった。

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