012 天守閣
「文人、私はとても気持ちいいデース!」
「ああ、俺も最高だぜ」
「奥! 奥がイイデース!」
マリナが天守閣を指す。
だが、俺は首を横に振った。
「逆だ。戻って休憩しよう」
「どうしてデスカ? 疲れた? それはないデスネー。文人がまだ本気を出していないことは分かっていマス。私もまだまだ元気デース!」
「その通りだし、こうして魔物を狩るのは最高に気持ちいいが、だからこその休憩さ」
「それはどういうことデスカ?」
「ダンジョンのボスはとんでもなく強い。だからこそ万全の状態で挑みたい。そのためにはまず体力を回復しよう。次は今みたいにちんたらせず一気に奥まで攻め込む」
「電撃戦デスネ! ドイツ軍デス!」
「おうよ」
俺は頷き、雑魚を斬り捨ててから体を翻した。
◇
桜門を出てすぐのところで、俺達は腰を下ろした。
魔物はダンジョンから出ない習性をもっている為、ここなら安全だ。
門の向こうから大量の足軽モンキーに見られている状態で、俺達は会話する。
「ぐぬぬ……難しいデース」
「俺にとっては簡単だったが、得手不得手があるのかもな」
マリナはイマジンムーブの練習をしていた。
だが、全くもって上手くいく兆しがなかった。
たまに発動するけれど、数秒で効果が切れてしまう。
その数秒の為に数分かけて想像するのだから、実戦では使えない。
「文人はこれを使いこなして戦うのデスヨネ?」
「そうだよ」
「凄すぎマス!」
俺からすればマリナのほうがよほど凄い。
敵猿の顔面を左手で握りつぶした時は心の底から驚いた。
「戦っていて分かったけど、やはりヨルサンは分かっていなかったな」
「どういうことデスカ?」
「ヨルサンはお前のことを『周りが見えていない』と言っていたが、それは大きな間違いだ。最初の俺をカバーする動きをしていた時から二人で暴れ回っている時まで、マリナは俺のことを常に意識していた。そうだろ?」
マリナが小さく頷く。
「おそらく昨日も仲間を守る為にどうすればいいか考えて、その結果として突っ込んだのだろう。そもそも軍人のマリナが独断専行で戦うわけがないんだよ。違うか?」
「違わないのデス。文人は凄いです。まるで十年来の友のように、私のことをよく知っているのデスヨ」
「はは、それは大袈裟だよ。でも、戦闘に関しては一緒に戦えば分かるさ」
俺は懐から黄色のポーションを取り出した。
「これは疲労回復のポーションだ。持っているか?」
マリナは自身のバックパックを漁ってから首を横に振った。
「怪我を回復する物と解毒効果のある物しか買っていないデス。ごめんなさいデス……」
「いや、俺がその二つでいいと指示したのだから悪いのは俺だ。疲労回復ポーションはマリナの分も買っておいた。一つあげよう」
マリナに疲労回復ポーションを渡し、新たに自分用の物を取り出す。
「これを飲むと疲労が回復するのデスか?」
「背中に翼が生えるどころのレベルじゃなくなるぜ」
「本当デスカ!?」
「この世界のポーションはやばいからな。では早速グビッとな」
俺は迷うことなくポーションを一気飲みする。
すると、たちまち肉体に蓄積している疲労が消し飛んだ。
1本5000円の栄養ドリンクを飲んでもこうはならない。
「ワオ! 凄いのデース! 超絶的に回復しましたヨ!」
「これでまた暴れまくれるぜ」
空になったポーションの瓶を目の前の水堀に投げ捨てる。
水に浮かんだ空き瓶は、死んだ魔物のように光となって消えた。
日本ではマナー違反のポイ捨てだが、この世界では何の問題もない。
「遅れるなよ、マリナ」
「文人こそついてきてくださいデース!」
「意気やよし!」
俺達は再びヒデヨシキャッスルへ侵入した。
◇
走りながら雑魚を斬り倒し、天守閣へ到着した。
石の階段を上り、堂々と正面から入る。
「なんだか静かデスネ」
「そのようだな」
中は閑散としていて、魔物の姿が見当たらない。
この場合、考えられる可能性は二つある。
「他のPTに先を越されたのでしょうカネ?」
魔物は倒しても時間経過で再出現する。
ヘルプ曰く、雑魚は1~2時間、ボスは24時間程が一般的らしい。
「もしくは雑魚と群れないタイプのボスなのかもしれない」
ボスが必ずしも雑魚と群れるとは限らない。
例えばドラゴンは種類を問わず単独で動き回るのが普通だ。
――と、宿屋の食堂で話した現地人の行商人から聞いた。
「とりあえず最上階を目指すか。何もなかったら雑魚を乱獲して帰ろう」
「了解デース!」
「一応言っておくけど、罠には気をつけろよ」
「誰に言っていマスカ? 私は特殊部隊のエリートデスヨー?」
と言った瞬間、マリナのこめかみに矢が飛んできた。
その矢を視認した瞬間、俺の手が自動で動いてマリナを守る。
さらりと矢を掴んだ。
「俺がノータイムでイマジンムーブを発動できる男で助かったな」
「文人を信頼して油断したフリをしたのデース! 本当は気づいていたのデスヨ!」
「それは流石に無理があるだろ」
「ウヘヘ」
マリナは鋭い目つきで攻撃してきた敵を睨む。
弓を持った足軽モンキーだ。
どうやら隠れていたらしい。
「許しませんヨー!」
「ウ、ウキャアア!」
背を向けて逃げる猿。
その動きを見てピンときた。
「逃がしませんヨー!」
マリナは左手で猿の首根っこを掴み、勢いよく地面に叩きつけた。
そして、得物の長い棒で頭部を突いて仕留める。
「これでよしデスネー! さ、エレベーターで上に……って、あれぇ?」
マリナが周囲を見渡す。
「そんなものないぞ」
と、俺は笑う。
「たしか大阪城にはエレベーターがあるって、文人は言ってましたヨネー?」
「言ったよ。大阪城にはあるが、ヒデヨシキャッスルにはないようだ」
ヒデヨシキャッスルの天守閣の内部は大阪城とは違っていた。
冒険者が上に行くための手段は階段しかない。
角の一部が吹き抜けになっており、そこからポールが伸びているが、吹き抜けのスペースを考えると大人が通るのは難しいし危険だ。
おそらく猿が高速で移動するための専用通路なのだろう。
「足が痛くなりそうデスネー!」
「いざとなったら疲労回復ポーションを倍プッシュすればいい。それより、本当に上へ行くか?」
「どういうことデスカ?」
「おそらく上の階には先客がいるぞ」
「なんと!?」
「あの猿は明らかにビビっていた。あれは冒険者を知っている動きだ。ここまでの道中で戦った猿を思い出せばわかりやすい。最初は勇猛果敢に挑んでくるが、一緒に戦っている仲間が軽くねじ伏せられたらビビっていただろ?」
「デスネー!」
「だが、さっきの猿は最初からビビっていた」
「私たちが来る前に仲間を根絶やしにされたってことデスカ!」
「そうだ。なのでおそらく先客がいる。それか、ボスを倒して既に帰った後かもしれない。どちらにせよ天守閣の最上階を目指すメリットが薄れたのはたしかだ」
大阪城と同じで、ヒデヨシキャッスルも桜門以外の出入口が存在する。
先客はそこから攻め込んだのだろう。
「このまま進むか、それとも引き返して別のダンジョンにでも行くか。どっちがいい?」
判断はマリナに委ねることにした。
「そうデスネー……」
マリナは顎をつまみながら考える――かと思いきや、あっさり答えを出した。
「最上階を目指しましょう! ここまで来たのデスヨ!」
「オーケー、なら地獄の階段ダッシュの時間だ!」
「うひゃー!」
俺達は駆け足で階段を上った。
そして二階に到着するが、これまたもぬけの殻。
やはり先客がいる。
「ガンガン行くぜ!」
「行くのデース!」
ノンストップで3階、4階と進む。
大阪城と同じなら7~8階が最上階になる。
「このまま最上階まで……とはいかないようだな」
俺達のダッシュは5階で止まった。
そこに先客がいたからだ。
「おいおい、なんだこの数は……」
「たくさんいるのデース」
てっきり先客は1PT――多くても6人だと思っていた。
しかし、5階にいたのはその10倍以上――約100人の冒険者だったのだ。
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