第77部 Creep 巫女の危機
北欧の道路には、並木がとても長く続いています。これらの木々には寄生木が
寄生しています。この寄生木を採集して、とある行事に使うそうです。
北欧の家庭ではクリスマスに、窓の上にこの寄生木を飾る習慣があって、
この寄生木の下で佇んでいますと、私にキスをしても、いいですよ! という
暗黙の了解が存在するそうです。若い恋人たちの必須のアイテム? です。
1952年12月(昭和27年)エストニア・首都タリン
「あんた、俺の上着を返してくれないか」
「いやよ。これはもう私のものよ!」
「ああ、そうだな。中身つきで返してくれ! その方が俺も嬉しい」
「ええ! 喜んでお返しいたしますわ!」
「・・・・・・・・」
朝食の会場が賑わった。
押し掛け女房になったクライ。翌日の朝には婚約の発表を出し抜けに行い、両親からはあきれ返られ、他のみんなからは、拍手と祝福の言葉が投げられる。
「クライ! おめでとう。ついにやったね!」
「もう、ニキータと同じだね」
一番に祝福の言葉を言ったニキータに、桜子が茶化す。
「ニキータはもっとすごいんだよ。警視庁の署長を夫にしたんだからね!」
と、続いてニキータの秘密を話し出すが、ここで話は止まった。
あの四人が起きて来たのだ。食堂に顔を出した7人は騒ぎを見て不思議に思いそして、喜んだ。
「わ~、クライさんが婚約ですか、おめでとうございます」
桜子ら三人の母は、急いで娘の元へ駆け寄った。
「ミーナ、大丈夫なの?」 「はい、お母様!」
「アレクサンドラ、大丈夫なの?」 「はい、お母様!」
「あんたたち、もう大丈夫なの?」 「いいえ、お母様!」
澪霧が代表で四人の経過報告をする。しようと思ったが・・・・。綾香が姉を遮って母に、
「お母様、お腹がペコペコなのですよ、先に朝食を摂らせてください」
「おうおう、気が利かなくてごめんよ。さ、一緒に食べようか」
「キャッホー!」
「あれ? シビル。いつここに着いたの?」
「はい、たった今ですよ。ホント! 巫女にはいつも退屈させられずにいるわね!もう、最高よ! クライ、結婚おめでとう!」
でも、このテンションはシビルの一言で終わった。
テーブルの座席が変わった。家族単位になった。逸れは・・・・いない。あ、シビルが居た。ぐれている様子だった。
食事を進めながら、母は質問を繰り返す。
「アレクサンドラ。身体の感覚はどうだい? 変ではないかい?」
「う~ん、大丈夫と思う。まだ頭は痛いし、ふらふらするわ。それよりも、こうなんだか力が抜けたような感じがするわね」
この一言を聞いてアンナは安堵した。
ミーナも同じ事を言っている。キャスも当然のように喜んでいる。ただ一人、クライは状況が理解出来なかった。だから、クライは主役を奪われたように落胆まではしなかったが、心なしか淋しそうだ。ルカとゴルバチョーフは、クライを祝福している。
ターニャは指を咥えて見ていた・・・。
「独身は若い巫女を除けばこの私だけ~~~~」
ターニャとシビルにはどす黒い背景が滲み出しているようだった。
桜子の娘は、アレクサンドラとミーナのようにはいかなかった。身体は強張り頭は痛い。巫女の力も強すぎるような感覚で、足までもがふらつくという。
「綾香、彩香、食事がすんだら、力の流れを診てみようか。何か、方法が有ればいいのだけれども」
「私たちが、気を送ってみますわ。身体の気の流れが整えればいいのでしょう?」
「お姉さん、お願いするね。今にも倒れそうなほどふらつくようになったわ」
「そうかい、またベッドで休んだがいいね。今日はクライのお祝いになるから、どこにも行かないよ。安心して休んでおくれ」
「はい、そういたします」
綾香と彩香は、姉の沙霧と澪霧の気の流れを整えてもらい、強い巫女の力を得ることが出来た。紫は、バルハーダンサー、槍遣い。ピンクは、グレイプソードダンサー、薙刀 遣いになった。長柄の武器だから、少々扱いが難しい。ここはソードに変えて使用することにした。
ここに、アブソリュート・カルテット(完全なる四姉妹)が誕生した。
午後になり、ペイドルとクライの結婚披露宴が始まった。巫女は正装に着替えて各自の宝石で身を飾る。ここには宝石のすべては揃ってはいない。もし、揃っていたら、全宝石の力が融合していたのだが。残念である。
この結婚の結婚披露宴は夜まで続く予定であったが、残念ながら中断・中止になった。ロシア軍の憲兵が見回りに来て、夕方には終れと、告げていったのだ。
「申し訳ありません。未だにロシアの影響下にありますれば、中止せざるを得ません。後はお部屋でお願いします」
こともあろうか、ロシア軍の憲兵は常駐すると言い出した。どことなくきな臭いロシア兵だった。しばらくは偽物とは誰も気づかない。
ロシア軍の憲兵は、1時間おきに交代を繰り返す。ホテルはすっかり淋しくなってしまう。
「宿泊を頼む」
やや体格のいい男四人がホテルに来た。総支配人は、満室の旨を告げるも、ホテルを変える気も無く、執拗に食い下がっている。
「なぁ、社長はん、俺たちを泊めてくれや。カネは先払いでいいからさ、なあ、俺たちは他に行く所が無いんだよ。何か? この雪の中で凍えて寝ろ!とは?言わないよな」
「私は当ホテルの社長夫人の、クライと申します。まことに申し訳ありません、本当に満室でございまして、お引き取りをお願いします」
「おうおう、なんだい? どうしてでも泊めないつもりかい?」
「はい、申し訳ございません。本日のお客様は、当ホテルの大切なお客様ばかりでございます。どうか、お引き取りをお願いします」
クライは、口では優しい口調で断っているも、身体では威嚇するように、どんどん押し出している。カウンターに立っていた四人は、ホテルの玄関先まで後退していた。 最後は、カムイコロだが・・・。
「ほ~ら、もう帰れ~」
とうとう男四人を外へ押し出したら、男どもは騒ぎ出した。
「おい、お前、いったい何をしている。こやつらをさっさと泊めないか」
ロシア軍の憲兵の三人がクライに詰め寄る。
「申し訳ありません。もう、あなたたちもお引取り願います」
ペイドルはカウンターの陰に隠れて見ている。
「桑原! 桑原!」
言い寄るロシア軍の憲兵の三人をも、クライとカムイコロが押し出した。
「今に見ていろ、仲間を呼んでくる」
捨て台詞を残して走って逃げて行く。
シビルは、
「これはいかんです。戦争です! 戦いです」
そして巫女の全員を集めた。
「先ほどの憲兵と男は、全員人狼兵だ。今晩は襲撃が予想されるから警戒配置で臨む!」
桜子は、
「ほほう、そうかい。もうお出ましだね。戦争よ!」
カウンターの陰に隠れていたペイドルは、慌てて出てきて懇願した。
「すみません、このホテルは壊さないでください。どうかお願いします」
「俺からもお願いだ。ホテルから打って出ようぜ!」
「まぁまぁ、お待ちください」
ゴルバチョーフさんが、仲裁にはいる。
「今晩は絶対に襲撃はありません。大丈夫ですので、早めに休んで、明日の早朝から追跡、そして襲撃しましょう」
巫女らからは色々と意見が出るも、ゴルバチョーフの意見に纏まった。翌朝でも人狼兵の襲撃は無かった。
雪の上に残る7人の足跡。丁寧に道案内をしている。そう、きれいに道順を残していた。
「これって、ここを通って下さい、という意味ですね」
「綺麗に除雪まで! 感心したわ」
澪霧は警戒するように言う。
「この道には、落とし穴があるから通らないがいいわね。カムイコロさん、大きめの石を適当に投げてくださらなかしら」
カムイコロはそのような事は不可能と言った。
「なぁ、澪ちゃんよ。こんなきれいな街にさ、大きい石が落ちているのかい?」
「あら、そうだわね。では、そこにある物は何かしら!」
「ウッヒョー、ちょうどいい大きさだね。これなら十分だろうて!」
カムイコロは、澪霧が用意した氷の石を、道順に投げてみた。3個に1個は当りとなり、大きいい穴が出来た。
「これって、この俺が穴を空ける悪者だね。逮捕されるのはイヤだからね」
「だったらさ、早く穴を潰して行こうよ!」
澪霧はカムイコロを促した。
綾香が澪霧に質問した。
「澪お姉さま。お姉さまが氷を作った時に、道に落ちるようにすればいいのよ。その方が楽でしてよ」
「そんなのはイヤよ。だって私が捕まっちゃうでしょう?」
綾香はやっぱりそうなのか! と、納得した。
道案内は、タリン港まで続いていた。ここで戦う事を選んだのだろう。
「お母さん、ここには雪が降らないの?」
デルフィナがニキータに質問した。
「俺様には判らんよ。でも、なんでだろうね」
「ここエストニアは、気温が高いのよ。10度を超える日もあるし、-30度にもなったりするわ。雪は滅多には降らないのよね」
キャスがエストニアの気候について解説した。
「でもさ、私たちがさ、タリンに着いた時は、雪景色でしたわよね。これって、もしかして・・・・」
「そうでしょうね、でも、それ以上は言わない方が、作者の為よ」
「簡単です。ハバちゃんのキツネ魔法に騙されたんだよ。あなたたちは、ね?」
「あんたは誰さ!なんでここにいるのさ? あ、ああん?」
「え~と、私は橘という、日本人の旅行者でして、その・・・」
「とっとと、け~んな! 怪我するぜ」
「ハイ~~~~」
タリンの12月は、私が思っている以上に雪は降らない! でした。
沙霧、澪霧、綾香、彩香の四人がチームを組んだ。シビルとデルフィナは二人でチームを組む。また、この前の戦法で戦うスタンスだろう。
桜子、ターニャ、ニキータ、カムイコロ、ルカ、は、応援のチームだ。そしてクライはホテルに残り、警護に努めた。キャス、アンナ、アレクサンドラ、ミーナは、全員ホテルに残る。
チャララ~ン、チャララ~ン、チャララ~ン。
「何か音が聞こえるわね。なんでしょう」
チャララ~ン、チャララ~ン、チャララ~ン。チャララ~ン、チャララ~ン。大きい音で響き、そして消えた。
「ハ~イ! お・ま・た・せ。 アラン・ドロン・女さまのお出ましよ!」
あのいけ好かない、女三人組が変な音と共に現れた。
「なによ、この前はよくも、コケにしてくれたわね。お礼でお返しするよ!」
デルフィナが叫んだ。
「お礼参りはもう時代遅れだからね。お前たち、かかれ~!」
「フンガー、ふんがー」
最初に人狼兵の6人が巫女に襲い掛かる。巫女は用心して後方へ下がった。しかし、近くからは銃撃も砲撃も無かった。
桜子の啖呵が・・・・。
「ほほう、もう手札は無いんだね。これならば。私たちの楽勝さ~ね」
「いえいえ、決してそのような事はございません。これを見てください」
ハバロフスクは、布に包んだ長い物を取り出して、桜子に見せる。
「これは、レイピア。あのコアイ・マラルの使っていた神具・宝具なのですよ。さ、桜子! 我が前に跪け!」
「あんた、バカだね~。どうして私があんたに跪くんだい。アホ!」
「いいえ、桜子は私に跪くのです」
ハバロフスクはレイピアを頭上に掲げて呪文を唱える。
「イ、ラエ、ハ・クスフロバハ!」「イ、ラエ、ハ・クスフロバハ!」
「イ、ラエ、ハ・クスフロバハ!」
ハバロフスクは丁寧に3回も呪文を唱える。が、なにも起きない。それは当然だ。呪文はでたらめで、第一にハバロフスクは、巫女でもなんでもない。
「あんた、バカだね~」「よ! あんたが大将!」
「ハバロフスクさんよ、あんたは偉くはないよ。なにが、ハバロフスクは偉い!だ、もっとましな呪文を考えな。バーカ!」
桜子は呪文の意味が直ぐに判った。だから、ハバロフスクをバカ呼ばわりにした。
そして、
「呪文はこう使うんだよ。見てな!」
「桜子がコアイ・マラルのレイピアに命じる。我が元に来りて、我の物 になれ。コアイ・マラルはレイピアに命じる。沙霧、澪霧、綾香、彩香の力となれ!」
レイピアはハバロフスクの手から消えて、桜子の手の中に顕現した。また、レイピアは、あのコアイ・マラルの宝具の力を娘たち四人に与えた。(本当は、レイピアは透明になったドロンが、桜子の元へ運んだ。)
「お父さんのバカ! 敵に力を与えてどうするのよ。アホ!」
「お前まで怒鳴らないでおくれ」
「い~や。お前はバカだ。死ね!」
こともあろうか、アランが父のハバロフスクを一刺しにして、殺害した。
「きゃー、お姉さま。なんという事をするのですか」
「そうですよ、姉貴。俺が殺したかっただぜ! 恨むぜよ」
女だけがまともな事言った。ドロンは俺が殺したいと言った。
桜子は、子供におもちゃを与えられたように、むきになってレイピアを触る。
「ここに穴があって柄には、まぁ! ダイヤだわ。うれしい。そうして? ならば、ここにもダイヤが嵌る? とか。あ、嵌った!」
その後も桜子はブツブツ言いながら、レイピアを弄ぶ。
「アランは私たち姉が相手をするわ。シビルとデルフィナは二人でドロンをお願いするわね。綾香、彩香。あなたたちは女を頼んだよ」
「あんたたち、敵が三人のうちに倒しておしまい!」
カムイコロが大声で叫んだ。
「カムイコロ~、そこの人狼兵の二人を頼んだわよ~」
「いいよ、任せんしゃい!」
「ふんがー、」
「やかましい!このう、どうだ」
「ギャフンガー」
「ふん!どうだい。思い知ったか」
次の人狼兵は、
「ふんがー」「巫女」「のー」
「おうおう、まだその言葉しか話せないのかね~、」
「巫女」「のー」「ふんがー」
「おやまー、凄い事言うのね。寒中水泳してな!」
「ぎゃっフンがー!」
三組に分かれて戦いが始まる。人狼巫女AとBそれに人狼兵の3人は別行動をとっていた。ハバロフスクは死んではいなかった。お芝居をしていたのだ。そして、クライを攫って来てから、隣の埠頭で巫女を迎え撃つ準備を始めた。
「おっと、忘れるところだった。巫女の血を抜いておかないとね、娘の三人に怒られちまうからね~」
ハバロフスクは2つのギロチンを用意していた。1台のギロチンには、クライの首を嵌めている。
「これで人質の準備が出来た。早く次の人質を確保するか」
そして、ハバロフスクの手には、あのレイピアを持っていた。では、桜子に渡したレイピアは偽物? なのか。
「はいはい、あのレイピアはレプリカですよ。レイピアの錆びで作りましたから力は持っていますね。解説はこれくらいで終わりよ」
「では、ドロンを先に呼びましょうか」
ハバロフスクは大声で、
「ドロ~ン、準備はいいよ~!」
「は~い、・・・・お待たせ! 死んだお父様!」
ドロンは、綾香と彩香まで一緒にテレポートして飛んできた。
綾香と彩香は、クライが捕まっているのが見えた。
「きゃー、クライ。そこでなにをしてますの?」
「綾香!彩香! ドジを踏んじゃった。ごめんなさい」
「さあ、これであなたたちはどうしますか? 大人しくしなさいね」
「・・・・・・」
「これ、人狼兵1号。ロープの切断はいつでもできますか?」
「フンガー!」
「おうおう、よしよし。準備はOKだね」
「ドロン、この二人を捕縛しなさい。さ、早く」
「はい、死んでも生きているお父様。直ぐ芋虫にします」
「芋は嫌よ。離してよ。痛い! 痛いわ」
「彩香! 彩香!・・・・ごめんなさい!」
「ほれ、もう一人もだよ。ほれ!」
「綾香は逃げて! 捕虜になる必要はないのよ。綾香、逃げなさい」
「クラ~~~イ。彩香~~~、ごめんなさい」
「ファイヤー・バードスプラッシュ!」「ファイヤー・バードスプラッシュ!」
「みんな、燃えてしまえ~~~」
綾香は人狼兵とドロンに向けて魔法を放った。人狼兵は見事に命中したが、
「アクア・バード・スプラッシュ!」
ドロンには魔法を消されてしまう。ドロンはすぐさまクライが挟まるギロチンへテレポートした。
「さ! どうするね。早く芋虫になりなさい」
ハバロフスクは大声で、二人の巫女に言った。
「紫とピンクの力を差し出しなさい。そうすればお前たちは解放します」
「ダメよ、お父様のように殺すべきだわ」
「たかが、小娘だ。殺さなくていいよ」
お父さんは鼻を落とされて、巫女の勝利になるのではなかったの?
すまない。一度は死んだが、急に死にたくなくなったのだよ。
お父さんは生き返ったの? どうして生き返ったのかしら。
巫女をいじめたくなったのさ。どうだい、今回はお前らの完全勝利だ!
うん、とても気持ちがいいよ。次も負ける気がしない。
アラン。もう俺を殺さないと、約束をしてくれ。
嫌だ。次こそは殺してあげる。蘇生しないように、燃して焼いて炭にする。
あ~、あと8章で、これが現実になるとは~~~。




